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本能の力

「大丈夫だ」

そう微笑んだ俺だったが、次の瞬間、彼女の右手の指の関節がひび割れ、血を滲ませているのに気づいて、眉をひそめた。

「……怪我してるじゃないか」

フェイは自分の手に目をやると、すぐに笑みを浮かべてそれを背後に隠した。

「自分の技の反動よ。まだ完全に制御できていないの」

俺は頷いた。

霊術というのは、習得するまでに普通は何年もかかるものだ。

たかが二、三ヶ月、あるいは半年の修練で完璧に使いこなせるようなものではない。

「その手……見せてもらってもいいか?」

俺が静かに頼むと、フェイは少し躊躇したあと、ゆっくりと背後から手を出し、俺の前に差し出した。

俺はそっとその手を取った。

もちろん、ひび割れた指や焼けた箇所に触れないように注意を払って。

彼女の肌は黒く変色し、無数の亀裂が走り、その隙間から新しい血が滲み出していた。

俺は空いている手を彼女の手の上にかざし、軽く霊力を流し始めた。

温かい流れが霊脈を通って移動し、属性なしの霊力から水属性の霊力へと変化する。

そして、彼女の傷口からその霊力を流し込んで、ゆっくりと内部からダメージを修復していった。

「君の使った霊術は、本来遠距離から放つものだ」

そう言いながら、彼女の手の傷が癒えていく様子を見つめる。

「近距離で放てば確かに威力は上がるが、その分反動で自分の体も傷つく。

もちろん、霊圧を展開していればそのダメージは軽減できるが……攻撃の際、それを忘れていたんだろう?」

「うっ……」

フェイは視線をそらし、気まずそうに俯いた。

「うん……その、フラッシュステップを使ってる間は霊圧を展開できなくて……終わってから再展開するって発想が……その時は浮かばなかったの」

「それは“本能”の領域だな」

俺は頷きながら言った。

「フラッシュステップの直後に霊圧を再展開するのは、意識してやるものじゃない。

考えるより先に、体が勝手に動くようになるまで経験を積まなきゃいけない。いわゆる“筋肉の記憶”ってやつだ。

霊圧の再展開を体が覚えれば、そのぶん意識を戦いに集中させられる」

そして、俺は静かに提案する。

「よければ――この大会が終わったら、君がそれを習慣化できるように、もっと実戦経験を積ませてやる」

「大会の後…?」

フェイが顔を上げ、目を見開いた。形のいい唇が小さく「お」の字を形作る。

「つまり……大会が終わっても、私と一緒に修行を続けたいってこと?」

一瞬、俺の頭が真っ白になった。――もしかして、余計なことを言ってしまったか?

「もちろん、嫌なら無理にとは言わない」

俺はすぐに言葉を継いだ。

「ただ……その……正直言って、フェイと一緒に修行するのは楽しかったし、これからも続けたいと思ってる。それに君には可能性がある。どこまで霊術師として成長できるのか、見てみたい。

でも、それが君の望まないことなら、俺から強制するつもりはないよ」

「ち、違うの、そういう意味じゃなくて」

フェイは首を振った。長いポニーテールが左右に大きく揺れる。

「私、あなたと一緒に修行するのが好き。すごく楽しいし、これからもやりたいと思ってるの。ただ……あなたとカリさんって……その……」

俺は思わず息を呑んだ。――そうだ。

フェイは以前、俺に想いを告げてくれた。けれど、俺はすでにカリを愛していた。

だから、俺は彼女の気持ちに応えることができず、拒んだ。

それでも彼女は諦めなかった。何度も言っていた。

「私はまだ、あきらめていません」――と。

だが、今の言い方……まるで、それをようやく諦めたかのような響きだった。

胸の奥がきゅうっと締め付けられる。

……なんだ、この感覚は。まるで、本当に胸が痛んでいるような……

俺は霊力の流れを止め、フェイの手をそっと離した。

彼女は一歩下がる。その瞳が、少し潤んでいるのに気づいて、俺の心に激しい罪悪感が走った。

まるで――俺がカリを否定しなかったから泣いたかのように。

外からは強気に見えるフェイだが、彼女もまた、繊細な少女なのだ。

気まずい沈黙が流れた――そこに、誰かが控室へ入ってきて、ダンテに何かを耳打ちする。

彼は頷き、こちらへ歩み寄ると笑顔で声をかけてきた。

「闘技場の修復が完了したようです。番号が『2』の札を持っている参加者は、外へ出てください」

俺はフェイを振り返り、ぎこちない笑みを浮かべた。

「俺、2番を引いてたんだ」

「じゃあ、闘技場へ行ってきて」

彼女は微笑んだ――だが、その笑顔にはどこか力がなかった。

「……がんばって」

「ありがとう」

俺はもう彼女の視線に耐えきれず、顔を背け、他の四人とともに控室を後にした。

更新が滞ってしまい、申し訳ありませんでした。

先週は海外に行っていたのですが、インターネットの接続状況が悪く、思うように投稿ができませんでした。


楽しみにしてくださっていた皆さん、本当にごめんなさい。

これからは通常の更新スケジュールに戻し、できる限り安定した更新を心がけていきますので、どうかこれからもよろしくお願いします。

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