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あの子、結構強い

(カリ・アストラリアの視点)

「あの子……なかなかやるじゃねぇか」

ゲイロルフがそう言ったとき、観客席からは大きな歓声が響いていた。

彼は椅子にもたれかかりながら、驚いたような目で下の少女を見つめていた。

頬が、ほんのりと赤らんでいる。

(もう……)

カリは思わずくすくす笑いそうになったが、その視線の先にいたのが“彼女”だったため、笑うことはできなかった。

胸の奥に、もやもやとした保護欲のようなものが込み上げてくる。

「本当にすごかったですね」

マイッケルも頷きながら同意する。

「霊術の威力にも驚いたけど、何よりあの速さが信じられませんでした。あんな動き、母さん以外では見たことがないです」

カリは母の顔を見た。

母はじっとフェイの姿を見つめていた。

その眼差しは鋭く、まるで抜き放たれた剣のよう。

その視線に触れた瞬間、カリの背中にひやりと冷たいものが走る。

「……お母様?」

「彼女のあの速さは、肉体的な能力によるものではありません」

母ははっきりと言った。

「霊術です」

その言葉に、その場にいた四人が息を飲んだ。

アーランドでさえ、目を見開いて母を見つめていた。

「霊術って……?」

アーランドは試合場を一瞥してから、再び母に視線を戻した。

「お義母様の“三千歩の法”みたいなものですか?」

それに対して、母はやわらかく微笑みながら首を横に振った。

そのたびに、長い髪がさらりと揺れる。

「いいえ、私の術とはまったくの別物です。三千歩の法は“霊術第三段階”を使い、私の身体全体を一時的に光の粒子へと変化させる光属性の霊術です。それによって、光速での移動を可能にしています。でも、私の術は元素属性です」

母の視線は、今まさに負傷した手を押さえながら退場口へ向かっている少女へと移る。

カリも同じようにフェイを見た。

その胸に、複雑な感情が渦巻く。

どうやってあの子と接すればいいのか、まだ分からない。

けれど――カリは心の底から願っていた。

(もう一度、あの子と……ちゃんと向き合いたい)

「――あの子の技は、属性を持たない移動型の霊術です」

母は静かに、けれどはっきりと説明を続けた。

「彼女は“ただ一歩踏み出す”という動作を利用して、短い時間の中で驚異的な距離を移動できるほどの推進力を生み出しています。私の推測ですが、踏み出す歩数によって移動速度が変わってくるのでしょう。今回の試合では、彼女が相手に到達するまでに0.9秒かかっていました。それは人が三回瞬きをするのと同じくらいの時間です。しかしその間、彼女は三歩を踏みました。そのせいで移動速度が大きく下がったのでしょう。もし彼女がたった一歩で間合いを詰めることができていれば……あの男が瞬きするより早く、目の前に現れていたはずです」

その言葉に、四人は驚きの眼差しで顔を見合わせた。

誰も、そんな霊術が存在するとは聞いたことがなかった。

理屈としては、あまりにも単純に思える。

一歩踏み出すだけで敵の目の前に現れ、その隙に一撃で吹き飛ばす。

だが――母の口ぶりから察するに、この技は見た目以上に遥かに習得が難しいものなのだろう。

「これより、場内の修復作業を行います」

レイナーの声がアリーナに響く。

「霊術師たちによって数分で完了する予定です。しばらくお席でお待ちください」

「フェイ・ヴァルスタインという少女が、あのような高位の霊術をどこで学んだのか……非常に興味深いわ」

母はそう言って、背もたれに身体を預けた。

カリはもう一度、フェイが去っていった扉を見つめ――

唇をきゅっと噛みしめた。

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