フェイの初戦 - パート③
貴族の男の身を守っていた霊気のオーラが、かろうじて斧の一撃を防いでいたが、
それもついにパチパチと音を立てて消滅した。
そして彼は、前のめりに倒れ、地面に鈍い音を立てて崩れ落ちる。
フェイは固唾を呑んで、その身体が動くかどうかを見守った――が、男はピクリとも動かなかった。
「この男、脱落とする」
レイナーが宣言する。
「医療班、担架を持って運び出せ」
観客席がどっと沸き上がり、歓声が上がる。
すぐに担架を抱えた二人の医療係が走ってきて、男の身体を丁寧に運び出していった。
「フルルルル……」
背筋がゾクリとした。
不気味な笑い声にフェイは顔を上げる。
そこには、下卑た笑みを顔に貼り付けたバーバリアンが、ゆっくりとこちらへと歩み寄ってきていた。
彼の肩には、巨大な斧が無造作に担がれている。
フェイは顔をしかめる。
こんな目つきで見られるのは初めてではなかった――だが、気持ちのいい経験であったためしがない。
「かわいこちゃんよぉ」
バーバリアンが呟く。「今のうちに降参しな?フルルル……お前が俺の相手になるなんて、無理があるだろ。
だが、今降参すれば……後でゆっくり、いい思いをさせてやるよ」
恐怖で凍っていた血が、彼の言葉で一気に沸騰した。
震えていた脚が止まり、逃げ出したいという衝動が消える。
フェイは視線を鋭くしながら、足を開いて構え、両手を拳に握る。
「今降参するのは、あんたの方じゃない?」
フェイは冷たく言い返した。「そしたら、ボコボコにせずに済むかもしれないわ」
「フルルルル……この小娘、口が達者だなぁ」
バーバリアンは怒るどころか、口をさらに広げ、大きな歯をむき出しにした。
「その口で他に何ができるか、楽しみにしてるぜぇ」
フェイは思わず顔をしかめた。
その瞬間だった。
バーバリアンが斧を振り上げ、容赦なく叩き下ろしてきた。
(速い!)
フェイは反射的に身を翻し、横へと飛び退いた。
斧が地面に突き刺さると、地面が裂け、そこから数本の淡い雷光が走る。
それらは地面を這うようにして、フェイの方へ一直線に向かってきた――!
フェイは目を細め、両肘を身体の側面に引き寄せた。
腰を落とし、重心を低く保つ。
肩を回転させると同時に、襲いかかってきた雷撃に向かって拳を突き出した。
螺旋を描くように回転した二発の炎の拳が、雷光にぶつかり、
そして――轟音と共に爆発した!
爆風と熱波が地面を這うように駆け抜ける。
その熱はフェイの肌から汗を噴き出させたが、彼女は痛みに構わず、バーバリアンを睨みつけた。
彼の顔から、さきほどまでの嘲笑は消えていた。
天に向かって噴き上がる炎の柱を、無言で見上げていた。
フェイは彼の足元――正確には、その少し手前の地面に意識を集中させる。
霊力がほとばしる。
次の瞬間、彼女の姿は消え――
バーバリアンの目の前、数歩先に現れた。
彼の目はまだ虚ろだった。どうやら、フェイの接近に気づいていないらしい。
好機――!
フェイは一瞬で広い構えを取り、
肩を再び回転させ、肘を身体に引き寄せると、拳に霊力を集中させた。
「はああっ!!」
左右の拳から、再び螺旋状の火球が放たれる。
拳が炎と空気を巻き込み、火柱のような爆発を起こした。
バーバリアンの絶叫は、咆哮のような炎の轟きにかき消され、
その巨体は炎に包まれたまま空中に吹き飛ばされていった。
フェイ自身もその爆風にあおられ、後方へと数メートル吹き飛ばされた。
「っく……!」
炎の余波に顔と手を焼かれ、フェイは顔をしかめながら立ち上がる。
しかし、バーバリアンが地面に叩きつけられる轟音を聞いたとき――
彼女は確信した。自分は、うまくやったのだと。
――だが、終わってはいなかった。
男はまだ意識を保っていた。
地面に両手をつき、よろよろと身体を起こそうとする。
その全身を覆っていた霊気のオーラが、パチパチと音を立てて揺れ動く。
両腕が震え、血管が浮き出し、顔が真っ赤になる。
だが――
オーラが、完全に消滅した。
そして、それと同時に、男の身体からも力が抜ける。
崩れるように前のめりに倒れ、再び頭を地面に打ちつけた。




