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初めての治療が完了した

どれくらいの時間、ドアにもたれかかって座っていたのかはわからなかった。ファイが入浴を終えるのを、ただじっと待っていた。

スピリチュアル強化丹の効果を十分に引き出すには、浴槽の血のように赤い水の色が完全になくなるまで浸かっていなければならない。それには、体の薬効成分の吸収具合にもよるが、一時間から二時間ほどかかる。

目を閉じたまま、ただぼんやりと座り続けていると、やがて向こう側から足音が近づいてくるのが聞こえた。俺は目を開き、立ち上がった。

ドアは俺が立ち上がった数秒後に、わずかに開いた。小さな隙間から、向こう側に立つ少女の姿がちらりと見えた。

「……終わりました。」

か細い声で、彼女はそう告げた。その声色からも、頬を赤らめたその様子からも、彼女がまださっきのことを恥ずかしく思っているのが伝わってきた。俺はお互いのために、そのことには触れないことにした。

「体調はどうだ?」

そう尋ねると、ファイは小さく頷いた。

「だいぶ良くなりました。まだ体中が痛みますけど、以前とは比べものになりません。」

ファイは正直にそう答えた。

スピリチュアル・ポイズニングは、ひどく苦しいものだ。

スピリチュアル・パワーは体の末端や各臓器にエネルギーを巡らせる役割を持っている。その巡りが途絶えれば、当然、身体機能にも悪影響が出る。

特に、一般人よりはるかに高密度なスピリチュアル・パワーを持つスピリチュアリストにとっては、命に関わる問題だった。

俺は息をひとつ吐き出し、顔にかかる汗を拭った。

「――本当に、治療が終わったんだな。」

目の前にいる彼女を見て、ようやく実感が湧いてきた。

浴槽の水は、元の澄んだ色に戻っていた。血のように赤く染まっていたのが嘘のようだ。治療の効果は確かだと、これで分かる。

「……戻ってきて、いい?」

ドア越しにそっと声をかけると、わずかに戸が開いた。

「……はい。どうぞ。」

彼女は濡れた髪を肩に垂らし、バスローブをぎゅっと握り締めていた。わずかに見える肌は、湯上がりの赤みを帯びていて、見る者の心を奪うほどに瑞々しい。

だが、俺は目を逸らさなかった。

彼女の身体に刻まれていた毒の痕跡――それが、消えかけているのを確認したかったからだ。

背を向ける彼女の髪先から、一滴の水滴が滑り落ちる。鎖骨をなぞるその軌跡に、一瞬、心を奪われそうになる。だが、すぐに心を引き締めた。

今はそういう時じゃない。

俺は、ただ無事を確認するためにここにいる。それだけだ。

「……問題なさそうだな。」

そう告げると、彼女は小さく頷いた。

顔を赤らめ、恥ずかしそうに視線を落とすその姿は、まるで咲き始めたばかりの花のようだった。

それでも、俺は――

誰よりも彼女の強さを知っている。

この小さな身体に宿る決意の重さを、俺は忘れない。

少なくとも、俺はそう自分に言い聞かせた。

彼女との距離を詰め、俺は手に持っていた袋を差し出した。袋の中には、さっき作った薬用の錠剤が入っている。

彼女は戸惑った様子で俺と袋を交互に見つめた。

「俺にできる治療は、すべて終わった。」

俺は静かに告げる。

「君のスピリチュアル・パスは完全に浄化された。これから必要なのは、毎晩この錠剤を湯に溶かして入浴し、薬効を体に取り込むことだ。それは、自宅でも十分できる。」

「……」

ファイは目を見開き、小さく唇を噛んだ。視線が俺の顔から錠剤の袋へと移る。

「そう……ですね。」

「うん。だから、これを持っていってくれ。」

俺は袋を軽く揺らして促すが、それでもファイはすぐには手を伸ばさなかった。

(まだ警戒しているのか……?)

俺は内心で苦笑した。まぁ、無理もないかもしれない。あんなことがあった後だ。

それでも、彼女は間もなく意を決したように、そっと袋を受け取った。

俺はほっと息をついた。

だが、それでもファイは動かず、その場に立ち尽くしていた。

沈黙が流れる中、俺は口を開いた。

「もし何か問題が起きたら、すぐに教えてほしい。」

ファイは目を瞬かせた。

「……回復に、問題が出るかもしれないんですか?」

「基本的には、心配ない。」

彼女の困惑を見て、俺はもう少し詳しく説明することにした。

「もし何か不具合が生じるとすれば、それは単なるスピリチュアル・ポイズニング以外に、体に隠れていた別の問題が表に出た場合だ。君の場合、症状がかなり進行していたからな……。」

俺は苦い思い出を口にした。

「俺がスピリチュアル・ポイズニングにかかった時なんて、君の状態に比べれば、まだ軽いものだった。」

「わかりました」

フェイは小さく頷き、素直に俺の言葉を受け入れたようだった。――が、そう言いながらも、彼女はなかなか立ち去ろうとしなかった。

またしても、気まずい沈黙が流れる。

何か声をかけたほうがいいだろうか。だが、だからといって「早く帰ってくれ」と直接言うのも無礼すぎる。

とはいえ、彼女はもうスピリチュアル・ポイズニングを治すためのものをすべて手にしている。俺にできることは、もう何もない。

「えっと……」

フェイは小さく咳払いしながら視線を逸らし、もじもじと言った。

「そろそろ……帰りますね」

俺は頷いた。

「次に会うときには、スピリチュアル・ポイズニングが完全に治っているといいな」

「はい」

フェイはかすかな笑みを浮かべながら答えた。

「きっと、大丈夫です」

それ以上、彼女を引き留める理由もない。

フェイはくるりと背を向け、ドアノブに手をかけた。――だが、ドアを開けたところでふいに立ち止まり、振り返る。

「……本当に、ありがとうございました」

「気にするな」

俺は小さく微笑みながら、静かにそう返した。

そして、フェイは静かにドアを閉め、去っていった。


今回は少し短めの章になりました。

最近、自分なりに文体を磨こうと頑張っています。もしかしたら、今日中にもう一章投稿するかもしれません!


それと、皆さんに聞いてみたいことがあるんですが――

長めの章と短めの章、どちらが好みですか?

僕自身、ウェブ小説を読むときは長めの章が好きなんですが、短めの章だと学校や仕事の合間にもサクッと読めるから、読みやすいかなとも思っていて……。


そんなわけで、今回も楽しんでいただけたなら嬉しいです!

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