フェイの最初の対戦相手
エリックの言葉は、驚くほど心を落ち着かせてくれた。
まだ足が少し震えてはいたけれど、今こうして他の四人の闘技者たちと並んで立っている私は、さっきまで身体中を支配していたあのどうしようもないほどの緊張を、もう感じていなかった。
……あの人の言葉って、ここまで力をくれるんだ。
それがどれだけ大きな意味を持っているかを思い知らされたと同時に、私はさらに強く決意した。
絶対に、あの人をカリに譲ったりしない――。
目の前にいる他の四人を、私は静かに観察した。男が三人、女が一人。
最初に目についたのは、あのほとんどふんどししか身につけていない巨漢の男だった。
まるで巨人のように、他の参加者たちを見下ろすように立っている。
ほんの少し動いただけで、盛り上がった筋肉がぐにゃりと揺れた。
腕は柱のように太く、浮かび上がる血管は蛇のように絡みついている。
あの巨大な手なら、私の頭ぐらい簡単に掴めてしまいそうだった。
全体的に肌は褐色に焼けていて、どうやら屋外での活動が多いタイプらしい。
その巨漢の隣――五角形を形成するもう一つの位置に立っていたのは、華奢な体格の男性だった。
あの巨漢の隣に立っているせいで、さらに小さく見える。
まるで少女のような細さで、鎧は着けていない。けれど、その服装からして、ただ者ではないことがわかる。
白いベストの上に、膝下まで垂れる青い燕尾のコート。袖は肘までまくってあり、指抜きグローブが前腕まで覆っている。
黒いズボンに青いブーツ、そして肩には幅広の剣――ブロードソードが一本、背負われていた。
あれは、貴族……それも、かなり上の家柄だ。
彼から視線を逸らし、隣に立つ女性へと目を向ける。
思わず、わずかに胸がざわついた。
美しかった。
鎖帷子を纏い、葉の形をした刃を持つ槍を構えた女性。
銀色の篭手は光を反射して輝き、胸当ては鎖帷子の上から装着されていたが、動きを阻害しないように、胴体ではなく胸部のみを守るデザインだ。
そして、彼女だけが鋭い印象を与える兜を被っていた。
両側から翼のように突き出た装飾がついており、その隙間から覗く金髪の前髪が、冷たい鋼のような灰色の瞳の上でふわりと揺れている。
なんとなく、彼女と比べて自分が見劣りするような気がして、少しだけ唇を噛んだ。
……でも、気後れはしない。私は、私だ。
最後に視線を向けたのは、五人目――
……正直、この人がどうしてこの場にいるのか、ちょっと理解に苦しんだ。
明らかに年配の男性だった。
頭はつるつるで、顔も皺だらけ。
長年外で働いてきたような、濃く焼けた肌をしていたことから、おそらく街の外に住んでいる農民なのだろうと思った。
質素なチュニックにズボンを履き、手にしているのは……まさかの木の杖。
その杖――どう見ても、まともなダメージが出せるとは思えない。
武器というより、ただの散歩用の杖にしか見えなかった。
――そんな時、私たち五人の真ん中に誰かが歩み出てきた。
レイナーだった。
ゆっくりと円を描くように回りながら、彼は一人ひとりを鋭い眼差しで見つめた。
さっきまで鼓膜が破れそうなほどの歓声に包まれていた会場が、まるで魔法のように静まり返る。
全員が息を呑み、彼の言葉を待っていた。
「ルールはもう全員が知っているはずだ。繰り返すつもりはない。」
その言葉に、私はわずかに喉を鳴らした。
声を発する必要もないのに、緊張が喉の奥を締めつける。
「今からこの試合の審判を務めるのは私とヴァレンスだ。
私たちが“やめろ”と命じたら、何があっても即座に戦闘をやめろ。
従わなかった者は、その場で失格とする。
――理解したか?」
五人全員が、頷いた。
その瞬間、レイナーの刃のような視線が私たちを貫いた。
ゾクリと、背中に冷たいものが走る。
まるで鋭利な刃物が肌を撫でるような鋭さだった。
レイナーはニッと笑った。
「よろしい。では、合図とともに戦闘を開始する。」
その言葉と共に、彼はゆっくりと円から出ていき、ヴァレンスと向かい合う形でアリーナの端に立った。
四人の闘技者たちが、次々と構えを取る。
ふんどし姿の巨漢は巨大な斧を握りしめ、
貴族風の男は背負っていたブロードソードを抜き払い、
鎖帷子の女は槍を軽やかに振り回し、
そして老人は、あの木の杖をトンと地面に突いた。
……その時、ようやく私は気づいた。
自分が、何の武器も持っていないことに。
あるのは、自分の拳だけ。
――最悪。
(まあ、今さら動揺しても仕方ない。やるしかない。)
レイナーが手を高く掲げ――勢いよく振り下ろす。
「――戦闘、開始!」




