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励ましの言葉

グラントに視線を向けたのは、ほんの一、二秒だけだった。

それからすぐに、興味を失ったように視線を外す。

その瞬間、あいつの顔が真っ赤に染まったのが見えた。

怒りを全身から滲ませながら群衆の中へと戻っていくグラントの姿を見て、俺は自然と笑みを浮かべていた。

貴族を一番苛立たせる方法――それは、まるで塵芥のように無視することだ。

自分より格下の存在として扱われるのが、奴らは大嫌いだからな。

参加者たちが順に番号を引き終える頃、ついにフェイが前に進み出た。

脚はかすかに震えていたが、手を箱の中へと差し入れ、紙切れを一枚取り出す。

番号はまだ見ず、そのまま俺のもとへ戻ってきた。

その後、俺も前へ進み、箱の中に手を入れた。

ダンテ、レイナー、そしてヴァレンスの視線を感じながら、一枚の紙を取り出して確認する。

――二番。

「健闘を祈るよ」

背中越しにそんな声が聞こえた。

俺がフェイのもとへ戻ると、レイナーが口を開いた。

「では、全員が番号を引き終えたな。今から予選を開始する」

「一番を引いた者はこのまま闘技場に残れ。それ以外の者は、参加者専用の観覧席へ移動する。案内はダンテが行う」

「よーし、それじゃあ一番以外を引いたみんな、俺についてきてくれ」

ダンテが手を叩きながら前に出て、参加者たちを誘導し始めた。

俺も彼らについて行こうと踵を返しかけたところで、フェイが動かないことに気づいた。

振り返ると、彼女は顔を青ざめさせながら、震えていた。

「一番を引いたんだな」

そう声をかけると、フェイは小さく頷いた。

今にも過呼吸になりそうなほど、呼吸が浅く、速い。

俺は両手をフェイの肩に置き、彼女の瞳を覗き込むようにして視線を合わせた。

何よりも今必要なのは、自信だ。だから、言葉を選ばず、はっきりと伝える。

「お前を倒せる奴なんて、ここにはいない」

低く、力強い声でそう言った。

「一番を引いた他の連中と比べても、お前は頭ひとつ抜けてる。だから忘れるな――相手の動きをよく見ろ。どう戦うかを観察しろ。そして、絶対に一対二の状況には持ち込まれるな」

「お前には《瞬歩》がある。距離を詰めるにも、離れるにも使える技だ。それに、お前がずっと練習してた《霊火術》も、今では完璧に仕上がってる。勝つために必要なものは、すでに全部持ってる」

俺の言葉に、フェイは何度も頷いた。震えていた身体も、少しずつ落ち着いていく。

深く何度か呼吸をしてから、俺の顔を見上げ、微笑んだ。

その笑顔があまりにも温かくて優しくて、思わず心臓が跳ねた。

「ありがとう、エリック。あなたの励ましと助言は、本当に心強い」

「礼なんていらないさ。ただ、真実を伝えただけだ」

罪悪感を隠すように微笑み返し、そっと彼女の肩を叩いた。

俺以外の参加者はすでに部屋を出ていた。

急いで振り返り、廊下を走る。視界の先には、すでに集団で移動している姿が見えた。

すぐに追いついた俺たちは、ダンテに案内されながら、一階の観覧室へと足を運ぶ。

横長のその部屋は、百人近くが入れる広さだった。椅子はなかったが、部屋の一面には大きな窓があり、そこから闘技場の様子を一望できた。

「ここが、戦っていない間に滞在する観覧室だ」

「ちなみに、俺もこの部屋に常駐するからな。闘技場以外で戦おうとする奴がいれば、すぐに止める」

ダンテは相変わらず気だるそうに笑っていたが、その目には鋭さが宿っていた。

その雰囲気に、周囲の何人かは身をすくめている。

「もし俺の目の前で戦おうとしたら……即失格だ。さらに、俺から名誉決闘を申し込まれることになる。そしたら、お前を徹底的に叩きのめして、二度と人前に出られないくらい恥をかかせてやる」

あまりにも物騒なセリフに、思わず俺は鼻で笑ったが、口には出さずそのまま窓際へと歩いた。

そこから見えたのは――すでに闘技場で構えを取っているフェイと、彼女に立ち向かおうとしている四人の参加者たちだった。

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