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観客席にて

名誉決闘でエリックがアルバートと戦ったときとは違い、今日はコロッセウムの観客席がすでに満席となっていた。

どれほどの人々が集まっているのか、カリには見当もつかなかった。

下層席、中層席、そして上層席――そのどれもが人であふれ、まるで色とりどりの髪でできた海のよう。

もっとも、ほとんどの人は金髪系の色合いで、茶色や赤髪の人はほんの一握りだった。

彼女は、母の隣の椅子に座っていた。

三人の兄たちも隣にいたが、父たちの姿はなかった。

バレンス、レイナー、そしてダンテの三人は、名誉決闘の際には使われなかった待機室に向かっていた。

参加者たちの準備をするために――。

「今年はどんな見せ場になるのかねぇ」

ゲイロルフが腕を組み、椅子の背もたれに寄りかかりながら言った。

「去年はクリーガー家のあの爺さんが優勝したっけ。あいつの名前、なんだったっけ?」

「グリム・クリーガーだろう」

と、アーランドが即答する。

「それだ!」

ゲイロルフは指を鳴らし、顔にわくわくした表情を浮かべた。

「年寄りにしては、なかなかやるじゃねえかって感じだったな」

「年配の方が油断ならない場合もありますからね」

と、ミッケルが続ける。

「若い世代よりも狡猾で容赦がないことが多い。

それに、グリム・クリーガーは霊術の第三段階に到達していると聞いています。

その域に達しているのは、母上と祖父上くらいでしょう。勝つのは当然だったのかもしれませんね」

「ふん、俺だって狡猾にも残酷にもなれるさ」

「誰も否定してないさ」

兄たちの会話をぼんやりと聞きながらも、カリの意識のほとんどはアリーナに向いていた。

そのとき、扉から父たちが現れ、参加者たちをぞろぞろとアリーナの中央へと導いていくところだった。

――今年の参加者は、かなり多いようだった。

ざっと見ただけでも、二桁はいる。

参加者たちが次々とアリーナに姿を現すと、今まで静かに期待を募らせていた観客たちは、一気に熱狂の渦に包まれた。

歓声が上がり、足踏みが鳴り響き、旗が空中を舞った。

家族や友人の活躍を見に来た観客たちが、我を忘れて応援していた。

アリーナは直径約百九メートルの円形構造で、母が貴族や近衛隊の指揮官たちから報告を受ける玉座の間よりも広かった。

その広大なアリーナの床の、すでに半分以上が参加者で埋まっていたのを見て、カリは思わず唇を噛んだ。

彼女は目をこらして、一人の姿を探し続けたが――あまりにも多すぎて見つけることができなかった。

「エリック・ヴァイガーを探しているなら、大きな定規を肩に担いでいる者よ」

と、母が静かに告げた。

カリは優雅に椅子に座る母をちらりと見てから、再びアリーナの参加者たちに目を向けた。

肩に武器を担いでいる人は何人かいたが、母が言ったように「定規」に注目して探してみる。

とはいえ、すぐに見つかるものではない。

カリは椅子の上で身を揺らすことで霊力を視覚に送り、視界を鋭くした。

それは、まるで曇ったガラスが拭き取られ、くっきりと細部まで見えるようになるような感覚だった。

ようやく彼女は見つけた。

エリックは、バレンスの近く、集団の最前列に立っていた。

確かに肩には巨大な定規のような武器を担いでいる。

あんなに大きな武器を、カリは今まで見たことがなかった。

凶悪な印象の武器で、エリックの中性的な見た目には少し似合わないようにも思えたが、威圧感という意味では、まさにうってつけだった。

その武器を見ていると、彼女の背筋がゾクッと震えた。

――けれど、エリックを見つけたとき、彼のそばにもう一人の人物がいることに気づいた。

フェイ・ヴァルスタイン――かつての親友だったその姿を見て、カリの胸はギュッと締めつけられるように痛んだ。

「去年よりも、ずいぶん多いな……」

と、後ろでゲイロルフがぼやいた。

不満そうな、どこかふてくされたような声だった。

「俺も参加できれば、全員ぶっ倒してやるのにさ」

「兄さんが出るなら、私も出ることになります」

アーランドが柔らかくも芯のある声でそう返すと、ゲイロルフは一瞬で黙り込んだ。

「……やる気なくした」

と、苦々しげに言うゲイロルフに、カリは小さく微笑む。

その頃、母が立ち上がり、バルコニーの先端へと足を進めた。

その姿が現れた瞬間、熱狂していた群衆が一斉に静まり返った。

母の背中を見つめながら、カリは改めて思う。

いったいどれほどの威厳を持てば、これほどまでの存在感を放てるのだろうかと。

ただ姿を現すだけで、数千、いや数万人の観客が静まりかえる――それが、彼女の母だった。

「ネヴァリアは、強者によって統べられる国です」

と、母が朗々と語りはじめた。

「強き者には、魔獣の脅威からネヴァリアを守り、市の秩序を維持する責務があります。だからこそ、私たちは力ある者を称えるのです。そして、それこそが毎年スピリチュアリスト大会を開催する理由。

この大会では、ネヴァリアでも指折りのスピリチュアリストたちがその実力を示し、勝者には力ある者としての名誉が与えられます。

その名誉には、私に皇帝の座を挑む権利すら含まれています」

母が大会の意義を語る間、カリは視線をアリーナへと戻した。

霊術師たちは皆、母に向けて真っすぐに視線を送っている――ただ、一人を除いて。

カリは息をのんだ。

エリック・ヴァイガーだけが、彼女の母ではなく――カリ自身を見ていたのだ。

まっすぐに、力強く、そして優しく……時間すら止まりそうなほどの眼差しで。

その視線を受け止めた瞬間、膝が震えた。

座っていなければ、きっとそのまま崩れ落ちていただろう。

顔が熱くなり、頬が赤く染まるのを自覚した。

だが、残念ながらフェイもまた、エリックが見つめていた先に気づいたようだった。

彼女はカリに向かって挑戦的な視線を投げかけてきた。

その瞬間、胸の痛みが一気に広がる。

まるで、自分のランスーアで心をえぐられているような鋭い痛みだった。

エリックがカリを見ていたとしても――

他のすべての視線は、彼女の母へと向けられていた。

そこには、欲望に満ちた輝きがあった。

もちろん、その一部は母の美しさによるものだろう。

母はネヴァリアで最も美しい女性と称されることも多く、その魅力は誰もが認めるものだった。

しかし、それだけではない。

観客の多く――特に霊術師たちは、彼女に戦いを挑む「権利」を欲しているのだ。

その目は、美しさだけでなく「皇帝への挑戦権」へと向けられていた。

「前回のスピリチュアリスト大会で勝者となったのは、グリム・クリガーです」

と、母は言葉を続けた。

「残念ながら、一度優勝した者は次回以降の大会には出場できません。

よって、彼は今回の舞台に立つことはありません」

そう言いながら、母は三層に分かれた観客席のどこか、特定の一人に視線を送った。

誰を見ているのか、カリからは分からなかったが――それがグリム・クリガーであることに疑いの余地はなかった。

母は再び群衆全体へと目を向け、言葉を続けた。

「この栄えある大会に参加するすべての者たちに、幸運を祈ります。

この場は、皆が自らの武の才を示すための舞台。

ネヴァリアの民が、あなたたちの力を見極める機会です。

どうか、全力を尽くして輝いてください」

その最後の一言とともに、母はゆっくりと後ろへ下がり、椅子へと腰を下ろした。

その瞬間、会場は歓声の嵐に包まれた。


こんにちは!今回はいつもより少し長めの章でしたが、楽しんでいただけたでしょうか?

カリ・アストラリアの視点からお届けする物語を、ぜひ楽しんでもらえていたら嬉しいです!

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