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この姫は不満である

霊術師グランドトーナメント当日の朝、俺は目を覚ました瞬間、腕と長い尻尾にがっちりと拘束されていることに気づいた。

視線を左へ向けると、そこにはリンがいた。

褐色の肌を持つラミアの少女は、俺の腕に抱きつきながら、太く長い尻尾を俺の胴、腰、脚に巻き付けている。

その異国的な顔は俺の顔のほんの数センチ先にあり、口を半開きにして深く呼吸しているせいで、可愛らしい牙が見えていた。

しかも、彼女は一糸まとわぬ姿で俺に密着しているせいで、吐息だけでなく柔らかい胸の上下運動までダイレクトに伝わってくる。

……はあ。

これで何度目だ?

初めてでも、三度目でも、十三度目でもない。

高額なヴァリスをかけて作った、俺のベッドよりも広くて寝心地のいい自分のベッドがあるにもかかわらず、リンはいつも俺の寝床に忍び込んでくるのだ。

正直に言えば――

もし俺がカリに想いを寄せていなかったなら、この女が俺のベッドに潜り込んでくるのを、まったく気にしなかっただろう。

いや、むしろ歓迎していたかもしれない。

……そんなことを考えるのは無意味だ。

意味のない妄想でしかない。

俺が心から愛しているのは、カリだけだ――それだけは確かなことだ。

――そう、何度も自分に言い聞かせている。

「起きろ、リン」

俺が声をかけると、リンは不満げに唸りながら身体を起こした。

冷たい空気に触れ、彼女の乳首は硬くなり、肌には鳥肌が浮かび上がる。

ブルリと身を震わせると、自分の身体を抱きしめ、寒さを嫌がる素振りを見せた。

「うぅ…起きるには早すぎるでしょ、ダーリン」

彼女はぐずりながら、再び横になって俺にくっついてくる。

柔らかい吐息が俺の首筋をくすぐった。

「あと五分…いや、身体が暖まるまで、この姫を寝かせておきなさいな」

「却下だ」

俺は彼女の身体を押し戻した。

「忘れてるかもしれないが、今日は霊術師グランドトーナメントの初日だ。遅刻なんて絶対にできない」

「ふんっ。最近はそればっかりね」

リンは目を細めて睨んできたが、俺の身体に巻きつけていた尻尾は素直に解いてくれた。

「訓練ばかりしてると思ったら、次はあの“カリ”とかいう女の子とばっかり。

この姫は前にも言ったわよ。側室がいても構わないって。

でもね? 一番愛されるのは、この姫でなければ許さないんだから」

「何を言おうと、俺の気持ちは変えられない。

そして、自分に嘘をつくような振る舞いはできないんだ」

そう言い残して俺は浴室へ向かった。

顔と胸、肩を軽く洗い流す。

最近は浴槽に常に水を張っておくようにしている。

汚れたら排水してすぐに新しい水を引けばいい――裏庭に運河が通っているおかげで、それが可能なのだ。

ひとまず清潔を確保した俺は、再び寝室へ戻った。

リンはまだ部屋にいた。

ベッドの上に座りながら、どこか不満げな顔で俺を睨んでいた。

俺は特に気にせず、タンスの引き出しを開けて着替えを始めた。

まず履いたのは濃い灰色のズボン。

続いて、淡い青色のアンダーシャツを頭からかぶった。

胸元が三角形に開いており、わずかに胸板を見せるデザインだ。

前後の裾が長く、タバードのように膝下まで伸びている。

その上から、濃紺のベストを羽織る。

首元の高い襟を金色の留め具で閉じた。

肩と胴の側面を覆いながらも、胸元は大胆に開いており、シャツと同様に長い裾が膝まで垂れている。

最後にベルトを締め、肩まであるスリーブレスグローブをはめ、ブーツを履いて装いを整えた。

この服は――フェイが、あの父親との初対面の場のために買ってくれたものだった。

だからこそ、グラントを叩きのめす日には、これを着ていこうと思っていた。

……もしフェイが先に奴を潰していなければ、の話だが。

今日はまだ、もう一つ立ち寄らねばならない場所がある。

すぐに出発する必要があった――そのはずだった。

だが、部屋を出ようとした瞬間、誰かに手を掴まれた。

「……リン?」

手を掴んでいるのはリンだった。

彼女はうつむいており、その顔には影が差していた。

だが、暗がりの中でも、その唇に浮かんだ不満の色ははっきりと見えた。


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