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かつて、妻と遺跡を巡った ― パート4

カリの返答は耳に入らなかった。

その瞬間、俺はフードをめくり、その下に隠された“顔”を見てしまったのだ。

思わず息を呑んだ。

人間――とは言い難い顔。

まるで魔獣と人間を混ぜ合わせたような、異様な混血種。

蒼白でこけた顔には、いくつもの黒い斑点が浮かび上がっていて、まるで頭蓋骨そのもののように生気がなかった。

目は――全体が漆黒で、白目がなく、虹彩だけが暗い紅に染まっている。

さらに、手先を確認すると、指の先が鋭い“爪”に変異していた。しかも、それが自然に肉と繋がっているような異形の造りだった。

「……この者がカルトの一員かどうかは分からないが、少なくとも――人間ではないな」

そう言って、俺は立ち上がった。

カリ、フェリシア、マーカス、そしてダニヴァンも、俺の言葉を受けてその顔と手を見つめた。

先ほどまでの表情は“嫌悪”で満ちていたが、今は――そこに“恐怖”が混じっていた。

未知の存在に対する恐怖。理解不能なものへの、本能的な警戒心。

「……先に進もう」

一拍置いて、ダニヴァンが口を開く。

「こいつが何者かはさておき、俺たちの目的は変わらん」

その言葉を合図に、俺たちは再び移動を開始した。

この遺跡には、多くの部屋と階段が存在していた。

中には空っぽの部屋もあったが、いくつかの部屋では、見たことのない金属で作られた武器や防具が保管されていた。

ある部屋に入った時、俺は思わず息を呑む。

白銀に輝く巨大な戦斧と、小柄な者向けに作られたと思われる鎧――

両方とも、まるで光を発しているかのように鈍く白く輝いていた。

その表面には複雑な“ルーン文字”が刻まれていたが、ダニヴァンでさえ、その意味を読み取ることはできなかった。

「この鎧って、誰のために作られたんだろうね……」

カリが興味深そうに呟き、指でそっと鎧を突いた。

金属とは思えない、不思議な音が部屋に反響する。

「子供向けにしては、戦斧がでかすぎる」

マーカスが眉をひそめる。

「それとも――壁画に描かれてたあの人たち用かも」

カリがそう返すと、マーカスは軽く肩をすくめて納得したようだった。

幾つかの部屋を調べたあと、俺たちは再び大きな扉の前に辿り着いた。

扉の左右には、それぞれ小さな台座が設置されている。おそらく、かつてはその上に“ゴーレム”が立っていたのだろう。

しかし今、その姿はなかった。というよりも――壊れていた。

左手の数メートル先に、バラバラになったゴーレムの残骸が転がっていた。

巨体は砕け散り、隣には巨大な戦鎚が無造作に転がっている。どうやら、その武器で戦っていたようだ。

扉は既に開いていたため、そのまま通路の先へと足を踏み入れる。

次の部屋は先ほどよりも小さめだったが――驚くほど明るかった。

壁に埋め込まれた“魔物の核石”が淡く発光しており、空間全体を照らしている。

俺たちは石造りの床を歩きながら、左右に並ぶ柱を眺めた。

左右に六本ずつ、計十二本の柱が一直線に並んでいる。

やがて部屋の奥へ辿り着いたとき――そこで目にしたのは、空の“アーチ状の門”と、その手前に転がるいくつもの遺体だった。

その遺体は、人間と獣人の混合だった。

パンサリオン、ライオニッド、ウェアフォークなど――いずれも厚手の登山用衣服を身に着け、幾人かは登山道具を身につけたままだった。

だが……すでに、全員息絶えている。

「……山岳教団の探索隊だな」

ダニヴァンがため息まじりに呟いた。

「全滅してるとは思ってたが……やっぱり見るとキツいな」

「こいつらを殺したのって、あのカルトの連中か?」

マーカスが眉をひそめる。

「それは分からないわね」

フェリシアが淡々と返す。

俺とカリは、そっとそのうちの一人に近づき、膝をついた。

この遺体は――女性だった。

肌は死人特有の冷たさに覆われており、死後時間がある程度経っているのが分かる。

だが、腐敗は進んでいなかった。寒さが進行を遅らせているのかもしれない。

死因を探ろうとしたが――何も見つからなかった。

「……おかしいな」

小さく呟く。

「刺し傷も霊力の残滓もない。殺された形跡が一切ないんだ。まるで……魂だけが体から抜け落ちたみたいだ」

唯一、異常といえるのは――彼女の“顔”だった。

目は見開かれ、口はぽかんと開いていた。

その表情には、苦痛と恐怖、そして絶望が刻まれている。

――この女性がどんな最期を迎えたのかは分からない。

だが、間違いなく“安らかな死”ではなかった。

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