どうやって6メートルもある蛇の尻尾を隠せってんだ?
リンと一緒に引っ越してから一日後――
俺は再びエイレアン家の事業所へ向かい、旧居から新しい家への引っ越し業者を雇うことにした。
依頼したのは、筋骨隆々な男たち三人組。
分厚い胸板、丸太のような腕と脚。
見た目だけなら、街の門番か冒険者にしか見えない。
……正直、あれでどうやって普通に歩いてるのか、ちょっと不思議だった。
無駄に筋肉ありすぎだろう、とさえ思った。
ところが――意外にも彼らの家具の扱いは非常に丁寧だった。
俺の目の前で、彼らは屋根のない平台車に家具を一つずつ積み込んでいく。
しかも、まるで壊れ物を扱うかのように、そっと置いていくのだ。
その様子に、思わず感心してしまった。
部屋から運び出された家具は数えるほどしかない。
ベッド、本棚、浴槽、そして衣装棚。
それ以外は――衣服と錬金セットだけ。
それらは自分で運ぶことにした。
すべての荷物を積み終えたあと、
俺は運転手の隣に座り、彼に新居の場所を指示した。
道中、俺の頭を占めていたのは――
リンのことだった。
朝、出発前に彼女には「引っ越し業者が来るから姿を隠しておけ」と伝えていた。
その時の彼女の反応ときたら……まるで俺が侮辱でもしたかのような顔をしてきた。
……だが、最終的には納得してくれて、ちゃんと隠れてくれると言ってくれた。
問題は――
どうやって隠れるんだ、6メートル以上の尻尾を持ったラミアが。
俺たちは十五分ほどで家に到着した。
まず門と玄関の鍵を開け、中にリンの姿がないか確認してから、男たちを招き入れた。
「家具はどこに運び入れましょうか?」
屈強な男の一人が尋ねてくる。
「この部屋に全部入れてくれ」
俺は第二寝室を指差した。ここが俺の部屋になる予定だ。
「了解です」
男は頷くと、相棒と一緒に本棚を持ち上げ、慎重に部屋へ運び込んでいった。
ドアの枠に当てないように気をつけて動いているあたり――
やはり、ただの筋肉バカではなさそうだ。経験の差というやつか。
俺もあとを追って部屋に入る。
……そして――凍りついた。
リンが――天井に張り付いていた。
家具を運んでいる二人は、まだ彼女に気づいていない。
視線は正面と足元に向いていて、上を見ていないのだ。
天井もそれなりに高く、いくつかの梁が視線を遮る形になっているため、
ぱっと見では見逃す可能性はある。
だが――一度でも上を見上げれば、一発でバレる位置だ。
なにより、彼女はまさに真上にいた。
俺の部屋を選ぶなよ……!
心の中で思わず叫びそうになる。
数ある部屋の中で、なぜここを選んだ!?
視線を上げると、リンもこちらを見返してきた。
……そして、彼女の額には、冷や汗が滲んでいた。
出会って以来、彼女がここまで焦っている姿を見るのは初めてだった。
――さすがに、彼女自身もヤバいと分かっているらしい。
俺は少しだけ意地悪な気分になったが……
これは笑いごとでは済まない状況だった。




