過去、俺と妻が出会ったある女性
遺跡の中にあった奇妙なルーンについて、結局何も分からなかった。
あれから二日間その場所に留まったが、何の手がかりも得られず――俺とカリは遺跡を離れた。
去る際、助け出した少女たちからは何度も感謝の言葉をもらった。
俺たちは開けた草原を歩いていた。
地面に続く土の道を辿りながら、遠くに見える七本の巨大な塔を目印に、ミッドガルドを目指していた。
その塔はあまりにも巨大で、遠くからでも山のようにはっきりと確認できた。
だからこそ、正確な距離は測れなかったが、目指すべき方向としては申し分なかった。
「……あのルーンや、あのフードの連中が何をしようとしていたのか、もう少し分かればよかったのに」
カリは空を見上げながら言った。
その眉間に刻まれた悩ましげな皺――
この二日間、彼女はずっとあんな表情をしていた。
「何か……とても嫌な予感がするの」
「女の子を殺そうとしていたってだけじゃ足りないのか?」
「それ以上のことを、あいつらはやろうとしてた気がするのよ」
俺は彼女の横顔に視線を向けた。
カリの青い瞳はまだ空を見上げていたが、
その視線の先は空ではなく――
もっと、ずっと遠い未来を見ているように思えた。
あの時の戦闘を思い返す。
カリの光属性で焼かれたあのフードの者たち――
彼らの肉体は、一片も残らず消滅した。
あれは――俺の知る限りでは、あり得ない現象だった。
「……あいつら、人間じゃなかったんじゃないか」
俺はそう呟いた。
「え?」
カリがようやくこちらを見た。
「何でそう思うの?」
「……霊術や属性について、俺が全部を知ってるわけじゃないけどな。
でも、あんな風に光属性で完全に消し飛ぶってのは、人間じゃない。
火属性なら、相当強ければ灰も残らないことはある。
でも光じゃ……ああはならない」
「……確かに」
カリは顎に手を添えて考え込んだ。
「彼ら、ものすごく闇属性の気配が強かったものね。
もしかしたら、闇への適性が強すぎて、私の光に耐えられなかったのかも」
「可能性としてはあるかもな」
俺はゆっくりとうなずいた。
「だが、それでもあの壮絶な燃え方は……常識外れだ」
そんな会話を続けながら歩いていると、
車輪の軋む音と蹄の音が聞こえた。
俺とカリが振り向くと、そこには――
大型の馬車がゆっくりと近づいてきていた。
それは深紅の装飾が施された上品な馬車で、金色のルーンが外装に刻まれていた。
そして馬車の屋根には、翼を広げた鳥の像が立っていた。
長く美しい尾羽――フェニックスの像だった。
フェニックス――火属性を持つSランクの魔獣で、数少ない非暴力的な存在。
俺とカリは道の端に寄って馬車をやり過ごそうとした。
だが――
「馬車を止めて!」
馬車の中から女性の声が響き、御者が手綱を引いた。
フェニックスのような魔獣が大きく鳴きながら止まる。
車窓にはカーテンがかかっていて、中の様子は見えなかった。
だがすぐに――カーテンが開き、顔を出した女性がいた。
彼女の髪は漆黒の羽のように艶やかで、瞳は妖艶な紫色。
白い肌、小さな鼻、ふっくらした唇。
どこか気品に満ちたその顔立ちは、洗練された美しさを感じさせた。
……だが――俺には、カリの純粋な魅力の方がずっと惹かれるものがあった。




