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闇属性

だが――その人物に“追いついた”からといって、すぐに姿を確認できたわけではなかった。

なぜなら――やつは影の中に“隠れていた”のではなく、“影から影へと移動していた”からだ。

他の刺客と同じように、全身を黒衣で覆い、顔も仮面で隠している。

やつが使っていたのは、《影歩シャドウ・ウォーキング》という霊術――

闇属性の霊術で、影と影の間を瞬時に移動できる。

この属性は極めて希少とされており、使い手も少ない。

――だが、運が悪かったな。

俺はこの属性について、よく知っている。

その“弱点”も含めて、な。

影から次の影へ飛び移る瞬間――

やつが一瞬だけ、光の下にさらされた瞬間を狙った。

俺はすかさず《閃歩》を発動。

瞬時に空中へ跳躍し、やつの真上に現れた。

左手に雷霊を集中させる。

指先からビリビリと音を立てる雷がほとばしる――だが、その力はすべて掌の中に収めた。

手刀の形に指を伸ばし――

――一切の迷いなく、やつの背中へ突き刺した。

その瞬間――動きが止まった。

「……ッ」

違和感があった。

手に、温かい血の感触がない。

通常なら、手のひらが血にまみれるはずだった。

だが、そんな感触はなかった。

今はそれを気にしている場合ではないと判断し、俺は手を引き抜いた。

やつの体はそのまま地面に倒れ込む。

バチバチと雷の音が辺りに響く。

俺の手から漏れる雷が、地面を焦がしていた。

「……雷で、血が蒸発したのか?」

雷が収まるのを待ち、俺はうっすらと眉をひそめながら足でやつの体を仰向けに転がした。

――だが、そこにも“血”はなかった。

傷口が炭化して止血されている、という様子でもない。

傷があるはずの背中にも、血痕ひとつ見当たらない。

俺は白い仮面に視線を落とし、しゃがみ込んでそれを外す。

顔を確認しようとした、その瞬間――

「っ――!」

俺は咄嗟に後方へ跳び退いた。

やつの体から――煙が噴き出したのだ。

「毒か……いや――闇だ!」

一見すると、その体から立ち上る瘴気は“毒”のように見えた。

だが――俺の霊覚は、そこに地属性の気配を一切感じ取れなかった。

毒というものは、地属性と闇属性の融合によって生まれる。

この瘴気には、その片割れである地の力がまるでない。

つまり――これは毒ではない。

とはいえ、目の前の男の肉体はもう跡形もなかった。

煙を纏いながら崩れていき、やがて塵となって完全に消滅した。

俺の手に残っていたはずの仮面や服までもが、触れた瞬間に砂となって崩れ落ちていった。

「……闇の霊術で、死後に自壊か」

俺はしばしその場に立ち尽くしていた。

だが――思い出す。

リンが怪我をしていた。

今は、戻るのが先だ。

《閃歩》を再び発動し、俺は数十秒以内に自室へ戻った。

部屋に戻った瞬間――

視界に入ってきたのは、三つの黒い染みだった。

リンが倒した三人の死体も、やはり消えていた。

残っていたのは、まるで灰になったような跡だけ。

ベッドの上には、リンが座っていた。

わき腹を押さえ、鼻から荒い呼吸を漏らしている。

「……やられたのか」

俺はそう呟きながら、リンに歩み寄る。

「このお姫様、少し油断しただけよ」

リンはそう言いながらも、苦しげに顔をしかめていた。

指の間から血が滲み出し、赤黒く染まっている。

「まさか、こんな連中が現れるとは思ってなかったの。おかげでこのザマよ……」

少し間を置いて、彼女が続ける。

「――逃げたやつ、仕留めたの?」

「仕留めた」

俺は短く答えると、膝をついて彼女の前に座った。

「横になれ。傷を見せてくれ」

リンは素直に仰向けになると、傷口から手を離した。

すると、血が一気にあふれ出してきた。

傷は、腹部を横断するように走る深い裂傷。

だが、それ以上に気になったのは――その傷口の縁。

暗紫色に染まり、徐々に黒くなり始めている。

「壊死か……」

俺は眉をひそめて呟いた。

「――毒を受けてるな」


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