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動揺するカリ王女

翌朝、体中が痛んだ。そこまで激しい訓練をしたわけじゃないのに、ベッドに座って腕を伸ばすと、スピリチュアル・エグゾースション(霊力枯渇)による鈍く深い痛みが、肉体的な痛覚と錯覚するほど強く身体を走り抜けた。

だが、疲れた者に安息はない。顔を洗い、濡れた布で体を拭き、着替えを済ませた後、俺は第一段階の修行場に選んだ滝へと向かった。忘れずに、錬金術で作った霊薬の袋も手に取る。

まだ朝早かった。太陽がちょうど昇り始めた頃だ。当然ながら、この時間に活動している者は少ない。俺のような物好きか、早朝から動かなければならない者くらいだろう。幸い、パン屋は朝が早い。皆が起きる前に焼きたてのパンを並べる必要があるからな。そのおかげで、パンを一つ買ってから、通りかかった馬車に乗って東門まで運んでもらうことができた。料金はたったの一銅バリスだった。

蜂蜜が軽くかけられたバゲットを食べながら、今日やるべきことについて考える。

まずはもちろん、修行だ。霊力の制御を習得する必要がある。どれくらい時間がかかるのかはわからない。今の俺は、前世よりも遥かに強いからな。前世で初めて霊力を扱った頃は、それなりにスムーズに制御できた――あくまで“それなり”だが。カリと一緒に、なぜ俺だけ霊術を使えないのか悩んだことを思い出す。だが、今回はそう簡単にはいかないだろう。

修行の後は……図書館の閉館作業をしなければならない。

滝は昨日と変わらず、勢いよく水を落としていた。俺は薬の袋を下ろし、服を脱いで綺麗に畳む。少しだけ躊躇してから、袋に手を伸ばし、霊薬を一粒取り出す。それは小さなビーズほどのサイズで、淡い銀青色に輝いていた。

三脈霊広丹さんみゃくれいこうたん

迷うことなく口に含み、噛み砕く。……やはり、まずい。例えるなら、火を通していない野菜の根をそのままかじったような、土臭い味だった。それでも、必要なことだとわかっているから我慢する。

霊薬を飲み込んだ直後、体の隅々にまで冷たい感覚が広がっていった。それは薬の副作用であり、効果が現れ始めた証でもあった。本当の効果が発揮されるのは、これから修行を始めてからだ。

俺は素早く水に飛び込み、滝の元へと泳ぎ、岩に登った。前回と同じく、ここまで辿り着くのは簡単ではなかったが、なんとか辿り着いた。岩の上に立ち、霊力を解放する。

青白い霊気が、雷のように唸りを上げながら迸った。それはまるで水の帯のように周囲をうねりながら渦巻き、滝の水を真っ二つに裂いた。正確に言えば、霊力の柱が水を左右に押し分け、滝がその両側を流れ落ちているような状態だ。細かい原理について語る気はなかった。今はそんなことよりも、修行が大事だった。

俺は脚を組んで座り、目を閉じて意識を集中する。

今回の修行の目的は、現在体外に漏れ出しているこの霊気を、完全に内側へと引き戻すことだ。ある程度の霊力を持つ霊術士なら、霊気を霊気圏として外に発することができるが、ここまで制御不能に暴走することはない――普通は、だ。

今の俺の霊気圏がこれほど暴れているのは、単純に霊力が強すぎるせいだ。そして、それに見合うだけの制御力が足りず、霊脈もこの量の霊力に耐えきれない状態にある。制御するためには、二つのことを成し遂げなければならない――精神的に霊力を抑え込む訓練と、霊脈そのものを広げることだ。

さきほど飲んだ霊薬の効果は、まさにその霊脈拡張にある。この薬は、霊脈が過剰な霊力によって炎症を起こし、刺激されている状態を緩和し、自然な回復と拡張を促す。

どれくらい滝の下にいたのかは分からないが、最終的に空腹が限界を告げてきた。戦士は腹が減っていては戦えない。それに、腹が減ったということは、そろそろ図書館の仕事の時間でもあるということだ。

修行で完全には使い果たさなかった霊力を使って身体を乾かす。水属性の霊力を操作して、水分を蒸発させるのだ。その後、茶色のズボン、白の長袖シャツ、革のブーツを身に着ける。薬袋から霊薬を一つ取り出して口に放り込み、ネヴァリアへと戻った。

道すがら、空腹を満たすために軽く食事をとる。シンプルなサンドイッチ――だが、肉、チーズ、焼き野菜の組み合わせは、空っぽの胃にしみるほど美味かった。加えて、小さなフラスクに入ったエールを一口飲む。酒にはあまり強くないが、食べ物を流し込むにはこれくらいの助けは必要だ。

「やっと来たのね」

図書館に入った瞬間、ナディーンさんが腕を組んで入り口近くに立っていた。後ろをちらりと見ると、すでに数人がテーブルに座り、読書や勉強に集中していた。

「遅刻…じゃないですよね?」

俺がそう尋ねると、ナディーンさんは首を横に振った。

「遅刻ではないけど、あなたは普段もっと早く来るでしょう?また寝坊でもしたのかと思ったわ」

「それは…まぁ、そう思われても仕方ないかもしれません」

革紐で縛った髪を軽く引きながら、苦笑を浮かべる。

「ふん。今日はあなたに閉館作業を任せるわ。帰るときはちゃんと戸締りすること、いいわね?」

「了解しました、ナディーンさん」

ナディーンさんは、まるで俺が変なことを言ったかのような顔をしたが、結局何も言わずに頭を振って出て行った。

その後、しばらくの間は静かに仕事に集中していた。書架に本を戻し、棚や床を掃除し、本を探している人を手伝う——そんな単純作業の繰り返しだ。だが、時間の流れはやけに遅く感じられた。おそらく、それは次の修行段階について考えていたせいだろう。霊力の制御がある程度できるようになったら、次は身体を鍛え直す必要がある。そのためには、仕立て屋が作ってくれる予定の重り付きの訓練着が必要だ。そして、訓練の効率を高めるために別の霊薬を作るつもりなので、その材料も揃えなければならない。

「うおっ、誰あれ!?」

若い男の声が驚き混じりに上がり、俺は思わず手を止めかけたが、すぐに作業を続けた。

「え、知らないのか?あれはカリ・アストラリア様だぞ」

今度は別の声が返ってくる。こちらは半ば呆れたような口調だった。

「えっ、あれがプリンセス・カリ?実物を見るのは初めてだ…話に聞いていた以上に綺麗だな……」

その声には、まるで神聖なものを見るかのような敬意が滲んでいた。

「ふん。期待するだけ無駄だよ。俺たちみたいな下層の人間が、あの人と話せるわけないだろう」

「わかってるけど…見るだけなら、いいだろ?」

彼らの会話は、ついに俺の集中力を完全に断ち切った。ちらりと視線を向けると、二人の若者がテーブルに座り、俺の視界の外にある何かを見つめながら話しているのが見えた。年齢は俺より少し下くらいだろうか。着ている服は俺と大差ないボロだ。たぶん、彼らも俺と同じ貧民層なのだろう。

二人の若者に注意を向けた後、俺は視線を入口へと移した。そこにカリが立っていた。

その日は濃い青のマントを肩にかけていて、それが膝下まで届く淡い桃色のドレスと鮮やかなコントラストを描いていた。ドレスは彼女の足元でふわりと揺れ、履いているのはいつものサンダルだった。

俺の視線に気づいたのか、カリはこちらを振り返った。目が合うと、俺は笑みを浮かべて手を振った。彼女が明るく返してくれたその笑顔に、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。

…まあ、それで二人の若者に嫌われたようだが。

「なあ、この人誰だ?カリ様の知り合いか?」

「彼。あの人は男だよ。それに、どうして知り合いなわけ?あの服見てみろよ。俺たちと同じ貧民だろ。」

「うそっ!? あの人、男だったのか!ずっと女の子だと思ってた!…げふん、どっちにしても、あんな身分の低いヤツがカリ様みたいなご令嬢に話しかけるなんて、おこがましいにも程があるだろ!身の程を弁えるべきだ!」

「ああ、全くだ。」

その手厳しい言葉には耳を貸さず――いや、また女の子と間違えられて少しだけ目尻がぴくっとしたが――、俺は笑顔を浮かべたまま、カリの元へと歩いて行った。彼女の前に立つと、半メートルほどの距離を取った。

「やあ。」

「本の返却?それとも何か新しい本を探しに来た?」

「新しい本を探しに来たの。」カリは手を軽く振りながら言った。「できれば、ダンジョンや遺跡を探検する冒険物語が読みたいな。」

「ダンジョンと遺跡か…」

俺は少し首をかしげて考え込んだ。図書館にある本を思い出そうとしたが、これが案外難しい。頭に浮かんだタイトルが、実はブレイブ・ヴェスペリア本部の図書館にあった本だった…なんてこともよくある。

だが、ようやく思い出した。

「昔のネヴァリア皇帝が、若い頃に魔獣山脈の遺跡を探検したっていう記録が残された日記があったはずだ。」

「それ、とても面白そう!」

カリはぱちんと一度手を叩き、手を組んで俺に眩しい笑顔を向けてきた。

「じゃあ、取ってくるよ。」

その本は一階にあった。俺は今にも殺気を飛ばしてきそうな二人の若者の視線を無視して、本の位置を思い出しながら棚へと向かった。カリは後ろからついてきて、手を背中で組みながら微笑んでいた。その笑顔は、俺が本を手渡した瞬間、さらに明るく輝いた。

「すごく古い本ね…」カリは驚いた声を上げた。

確かに、これは古い日記だった。革製の表紙は色褪せていて擦り切れており、ページも年季の入った黄色味を帯びていた。それにも関わらず――いや、だからこそなのか――彼女の瞳はまるで夜空に瞬く星のように輝いていた。

「この本は、少なくとも数千年前のものだ。最初の記述によれば、大災厄から数百年後、闇の時代と呼ばれる時代の皇帝が書き記したものらしい。」

「本当に…?」

カリはぽつりと呟きながら、さっそく最初のページを開いた。まるでその場で読み始めるつもりなのかという勢いだった。

俺は小さく笑いながら、両手をカリの肩に置き、彼女をくるりと後ろ向きにさせてから、優しく階段の方へと押した。

「本に夢中になる前に、席に座った方がいいんじゃない?」

そう提案しながら、穏やかな笑みを浮かべた。

カリは顔を赤らめた。その頬がほんのりと桜色に染まる様子に、思わず息を呑んだ。頬だけでなく、耳の先まで少し赤くなっていた。

前世でも、彼女がこんなに恥ずかしがる姿は見たことがなかった気がする。それだけに、なおさら魅力的だった。

「そ、そうね。じゃあ、私は上で読んでるね。」

そう言ったあと、彼女は一瞬だけ間を置いて、ためらうような声で尋ねてきた。

「あなたも、お仕事が終わったら……来てくれる?」

「もちろん。」

俺は頷いた。

「読み終わったら、感想を聞かせてもらわないとな。」

カリは最後にもう一度微笑むと、足早に階段を上っていった。俺は彼女の足音が聞こえなくなるまで耳を傾けてから、再び仕事へ戻った。

仕事中に何人かの客が来ては去っていった。本を探してほしいと頼んでくる人もいた。ナディーンさんの図書館では、本の貸し出しはしていない。というより、ネヴァリアの図書館はほとんどそうだ。ここはミッドガルドじゃない。

とはいえ、この図書館はネヴァリアに四つしかない公共図書館のうちの一つでもある。ネヴァリアはやや歪んだ円のような形をしていて、その周囲を巨大な壁が囲っている。都市は北、南、東、西の四つに分かれ、中央には皇宮がそびえ立ち、そこから四方へ道が伸びている。図書館もそれぞれの区に一つずつ設けられている。ナディーンさんの図書館は北に位置していた。

その日の仕事を終えると、俺は階段を上がった。するとそこには、本を読んでいるはずのカリが、落ち着かない様子で階段の方を見つめていた。

俺の姿を見つけた瞬間、彼女の目がぱっと輝いた。

「今日はずいぶん時間がかかったのね。」

カリがそう言いながら俺の隣に腰を下ろすと、俺もその向かいに座った。

「ちょっと筋肉痛でな。動きが鈍かったんだ。」

俺は肩をすくめながら答えた。

「筋肉痛?何かしてたの?」

「ちょっとした霊力の鍛錬をな。」

なるべく軽く言ったつもりだったが、「霊力の鍛錬」という言葉を聞いた瞬間、カリは興味津々で俺に迫ってきた。

「じゃあ、あなたは霊術士なの? どうして霊術学院に通ってないの?社会的地位に関係なく誰でも入れるって知ってる?修練はどこまで進んでるの?」

その美しい顔をぐいっと俺に近づけてくるカリの矢継ぎ早な質問攻めに、俺は苦笑いを浮かべながら両手を上げた。

「ちょっと待て。そんなに一気に聞かれたら、答える暇もないだろ。」

「あっ……!」

カリはまた顔を赤く染め、ようやく礼儀を思い出したかのように背筋を伸ばして手を膝の上に揃えた。

「ご、ごめんなさい。つい、我を忘れてしまって…」

「気にするな。」

俺は微笑んで返した。

「別に不快じゃなかったよ。それで、俺の修練のことが知りたいんだな?」

カリがこくんと頷くのを見て、俺は顎に手を当てながらどこまで話すかを考えた。

「今のところ、自分を霊術士って呼ぶにはまだまだだな。実を言うと、霊力の制御もままならない。今の俺の霊力は、ちょっと…荒っぽすぎる。」

「荒っぽい?」

カリは首をかしげながら、興味津々な瞳で俺を見つめた。

俺は頷いた。

「霊力自体はかなりあるんだ。どれくらいのランクになるのかは分からないけど、今のところ自分でも制御しきれないくらいだ。だから、今は霊力の制御を鍛えるための修練を重点的にやってる。」

「そういう人、聞いたことあるわ。」

カリは真剣で、なおかつ興味深そうな表情を浮かべた。

「霊力が強すぎて制御できなくて、すごく努力して修練しないといけない人。私の母もそうだったの。」

「ヒルダ・アストラリア?」

俺がそう尋ねると、カリは静かに頷いた。

「やっぱりな。噂で聞いたことがある。彼女は平民出身で、持ち前の霊力とカリスマ性で頭角を現したって。三十年前の霊術士グラン・トーナメントで優勝して、数年後には前皇帝を一騎打ちで倒して即位したんだろ?」

「うん。まさに母のことだわ。偉大な人よ。」

カリの口調には誇りが滲んでいた。だが、どこかに“でも”という言葉が隠されているように感じた。それについて彼女は話したくなさそうだったので、今は触れないことにした。

「で、その日記はどこまで読んだんだ?」

俺は日記を指差した。

金色の髪の一房を耳にかけながら、カリは答えた。

「だいたい六十ページくらいかな。」

「すごいな。で、読んでみてどうだった?」

カリはすぐには答えなかった。眉をひそめ、考え込んで言葉を選んでいるようだった。その間、下唇を小さく噛む姿が妙に可愛らしかった。

「遺跡の話、とても興味深かったわ。」

彼女はようやくそう言った。

「この日記によると、遺跡は魔獣山脈の奥深くにあって、そこに辿り着く前にAランクの魔獣と戦わないといけなかったって書いてあるの。Aランクの魔獣って、相当な強さよ。母でも一人で相手にするのは難しいと思う。」

俺は彼女の言葉を否定しなかったが、特に何も言わなかった。

ブレイブ・ヴェスペリアを創設した頃、カリと俺はそれぞれがAランクの魔獣を単独で倒せる実力を持っていた。二人でSランクの魔獣を倒したこともある。もちろん、第七領界の大君主が使役していた魔獣たちとも戦った――あいつらはSランク、いや、SSランクにすら届く存在だった――が、それも何十年にも及ぶ殺伐とした修行の末の話だ。

「俺が気になるのは、その遺跡の中の描写だな。」

俺がそう言うと、カリは大きく頷いた。

「まだ深くは読んでないけど、罠だらけだったって書いてあるわ。それに、遺跡の内部には魔獣が入り込んで巣を作っていたそうよ。よく生きて帰ってこられたわね。」

彼女はそう言いながら本に視線を落とし、ため息をついた。

「私も遺跡を探検してみたいなぁ…」

「じゃあ、行ってみようか?」

「えっ?」カリは目を見開いて驚いた。

「いつか、遺跡を一緒に探索しようって言ってるんだ。」俺は言った。

「で、でも…私は…その…」

「ネヴァリアの王女、ってやつだな。」

彼女がしどろもどろになって言葉を詰まらせる中、俺は代わりに口にした。

「分かってるさ。でも俺は、あまり気にしない。」

俺はニッと笑った。彼女がぽかんと口を開けた表情を見るのは初めてだったが、妙に惹かれるものがあったのは否定できない。

「君が望むなら、今すぐにでもネヴァリアを抜け出して、魔獣山脈に足を踏み入れてやるよ。」

これほどまでに顔を真っ赤にしたカリを見たのは初めてだった。

まるで〈霊炎術〉でも使って内側から焼いたかのように、彼女の透き通るような白い肌が真っ赤に染まった。

そのあまりの動揺っぷりに、なぜだか俺はもっとからかいたくなってしまった。

「えっと…その…つまり…あ、あの…あっ!そ、そういえば時間!」

カリは目を泳がせながら慌てて時計もないのにそんなことを口にした。

「今日は早く帰るように言われてて…それじゃ、またねっ!」

何か返す前に、彼女は勢いよく立ち上がり、あっという間に階段を駆け下りて行った。

その足音が遠ざかっていくのを聞きながら、俺はただその場に座って彼女の背中を見送った。

「…今のは新鮮だったな。」

俺の知っている前世のカリは、あんなふうに恥ずかしがったりはしなかった。

もしかすると、この時代のカリは、かつての彼女とは違うのかもしれない――そう一瞬考えたが、すぐに首を振った。

それ以外の部分は、何もかも変わっていない。彼女がかつてのカリであることに疑いの余地はなかった。

もしかすると、変わったのは――彼女ではなく、俺の方なのかもしれない。

「前は、からかうなんて考えたこともなかったからな…」

あの時、魔獣の侵攻によってネヴァリアを逃れた俺は、彼女の力に何度も救われた。

彼女がいなければ、俺はとうの昔に死んでいただろう。

逃亡生活の中で、俺はカリをより一層愛し、同時に尊敬と畏敬の念を抱くようになった。

だからこそ、当時の俺は彼女をからかうなんてこと、一度もなかった。

ネヴァリアが滅びる前…俺たちの人生が壊れる前、俺は彼女の身分の高さに臆して、結局、自分の気持ちを伝えられないまま終わってしまったのだ。

今は、少しだけ状況が違っていたのかもしれない。

俺はまだ強くはなかったが、強くなれるだけの「可能性」は持っている。

そして何より、未来についての知識と――カリという存在についての知識もある。

今のカリは、まだ「女性」になりきれていない一人の少女だ。

おそらく俺が彼女をからかうことができるのは、彼女を高嶺の花として崇める存在ではなく、対等な「人」として見られるようになったからなのだろう。

手を伸ばせば、届く距離にいると思えるから。

「…でも、さすがに少し強引すぎたかもな」

俺はため息をついた。

次にカリと会ったときは、今日の振る舞いについてちゃんと謝ろう。


エリックがちょっと強引すぎて、うちの姫様を完全に動揺させちゃいましたね。

しばらくは目を合わせられないかもしれません。

今回の章も楽しんでいただけたら嬉しいです!

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