もっと修行が必要だ
翌朝は、ちょっとした問題から始まった。
最初にやるべきことは、今の家にある家具を新しい家へ運ぶための人手を探すことだった。
幸いにも、エイレン家にはそういった仕事を請け負ってくれる人がいるようだった。
以前、家探しの時に世話になった若者――名前はカレブ・エイレンというらしい――に相談したところ、すぐに話はまとまり、明日、僕の仕事が終わった後に数人を手配してくれることになった。
費用は三千ヴァリス。正直、それほど高いとは思わなかった。
ただ、一つだけ懸念点があるとすれば――それはリンの存在だ。
彼女を今夜中に新居へ連れて行き、家具を運んでくれる人たちに見つからないように、どこかに隠れてもらわなければならない。
エイレン家のカレブとの話を終えた後、僕はいつもの訓練場へと足を運んだ。
今日はフェイの姿はなかった。彼女はスピリチュアリスト養成学院の授業があるらしい。
森の中の広場に立ち、今日はどのスピリチュアル技術を修行しようかと考える。
《閃光歩法》の初段階は、すでに再習得を完了している。問題はその次――《フラッシュステップ 第二形態(Version 2)》の習得だった。
「今日は、この《第二形態》の習得に集中するか」
そう呟き、深く息を吸い込むと、全身にスピリチュアルパワーを解き放つ。
それは荒れ狂う嵐のように身体を駆け巡り、僕の気勢は一気に高まった。
淡い青色の雷光が体表に走り、渦巻くスピリチュアルパワーが周囲に溢れ出す。
だが、周囲の自然環境には一切影響を及ぼさない――それだけ精密に制御していた。
オーラが展開されたのを確認した僕は、歯を噛み締めながら強い意志を持ってその力を内に収めていく。
青白い輝きは、まるで吸い込まれるように身体の中へ戻っていき、やがて外見上は何の気配もなくなった。
だが、それは消えたわけではない。
今もなお、スピリチュアルパワーは皮膚のすぐ下を雷のように走っている。
準備を整え、僕は一歩、前に踏み出す――
――その瞬間、世界が消えた。
一秒も経たず、気づけば十五メートルほど先に立っていた。
後ろを振り返り、唇を噛む。
「……残像が、残ってないか」
僕はため息をついた。
《フラッシュステップ 第二形態――幻歩》の習得には、まだまだ時間がかかりそうだった。




