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目撃者(アイウィットネス)

アルベルトに詰め寄ろうとしたその瞬間――

人混みの中から誰かが口を開いた。

「私が目撃者だ」

その声を聞いた瞬間、俺の顔には醜い表情が浮かんだに違いない。

隣にいたカリも、まるで口にしてはいけない何かを飲み込んだような顔になっていた。

人々の視線の中、アルベルトの背後から現れたのは――グラント・ロイヒトだった。

彼は嘲るような笑みを浮かべ、俺を見下すような視線を送ってきた。

「その夜、私は遅くまで外に出ていた」

彼は芝居がかった悲劇の語り口で話し始めた。

「アルフとアルヴィドに使いを頼んだのだが、いつまで経っても戻らなかった。だから私は彼らを探していた。そして路地で、君が彼らを容赦なく殴りつけているところを見たのだ」

「……そうか」

俺は静かに眉をひそめて返す。その表情は、前世で何度もカリが見せていた“冷ややかな皮肉”を真似たものだった。

「だとしたら――君はその“光景”を見たというのか」

俺は一歩前に出ながら問いかける。

「だったら、なぜ助けに入らなかった?」

グラントの顔がピクリと引きつったのを見て、俺は内心で笑いを堪えた。

「アルフとアルヴィドは、君にとって“大切な友人”ではないのか?

その友人たちが、自分より強い相手に痛めつけられているのを見ながら、助けにも入らず、ただ見ていただけ?

俺が立ち去るまで隠れていて、後からヒンメル家に“悲劇の報告”を届けに行った?

君は……そんなに俺が怖いのか?」

「貴様など、怖くない!」

グラントは顔を真っ赤にしながら怒鳴った。

「だが、助けには入らなかった」

俺はあくまで穏やかな声で言葉を返す。

「つまり――君の証言は嘘かもしれない、ということだ。

本当に見たなら、なぜ助けなかった?

助ける力がなかったのか? それとも――そんな場面など、最初から存在していなかったのか?」

俺はグラントの顔がみるみるうちに醜い赤紫色に染まっていくのをじっと見ていた。

そして隣のアルベルトに目をやると、彼はグラントの顔をちらちらと見ながら、「どうする?」と目で問いかけているようだった。

――この二人は最初から共謀していた。

ヒンメル家とロイヒト家の間にどんな関係があるのかは分からないが、少なくとも上下関係は明らかだった。

「もちろん、僕だって友人を助けたかったさ」

グラントはゆっくりと言葉を選びながら語り始めた。

「でも、僕が現場に着いた頃には、戦いはほとんど終わっていた。君に攻撃することもできたが、それよりも友人たちを早く家に連れて帰って治療を受けさせることを優先したんだ」

「だが――アルベルトは“弟たちが発見されたのは翌朝早く”だと言っていた」

俺は冷静に指摘する。

「君の証言では“戦闘直後に家へ連れて帰った”という話だったが、それなら“翌朝発見された”という事実と矛盾するはずだ。

――つまり、どちらかが嘘をついている」

俺の言葉が通りに響き渡ると、周囲に集まっていた民衆がざわざわとささやき始めた。

「たしかに…もしグラント様が夜に連れて帰ったなら、朝に発見されるはずがないよな?」

「ってことは、アルベルト様が嘘をついてる?」

「いや、グラント様かもしれないぞ」

「どっちも嘘をついてる可能性だってあるだろ?」

「つまり…この二人が結託して、あの青年を陥れようとしてるのかも?」

「でも、なんでそんなことを?」

「知らないのか? あの少年はエリック・ヴァイガーだよ。最近、カリ王女とすごく親しいらしいぞ。

グラント様はカリ王女を狙っているって噂もある。ロイヒト家とヒルダ皇后の間で婚姻の話が出てるとか…」

「ってことは、嫉妬でエリックを中傷してるのか?」

「なるほどな、ありえる話だ」

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