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過去、妻と困っている少女に出会った

ため息をつきそうになったが、幸いにもカリと俺は方向感覚が良かった。地図で正確な場所を特定できなくても、リテンに戻るのは難しくないだろう。とはいえ、すぐに戻れる雰囲気ではなかった。

「その遺跡、どこにあるか分かるか?」俺は尋ねた。

「宝石屋の屋台にいた若い男性によれば、リテンの北に2キロほどのところにあるらしいの。だから、そろそろ近づいてるはずよ。」

「ふむ……あの男、ちょっと様子がおかしくなかったか?」

「そうかも?」カリは首をかしげながら歩き続けた。「言われてみれば、遺跡の話をするのをちょっとためらってた気がする。なんでだろうね?」

カリに話しかける人間の反応は大体2通りだ。口説こうとするか、しどろもどろになるか。だが、あの男はどちらでもなかった。それ自体が珍しいことだった。普通なら意志が強い証だが、彼からはそういう印象は受けなかった。

「ま、もし見つけられれば理由も分かるかもな。」俺は肩をすくめた。

「『もし』じゃなくて『見つけたら』でしょ?」カリが訂正する。

「ああ、『見つけたら』だな。」

俺たちはしばらく歩き続けた。節くれだった根を持つ木々をいくつか通り過ぎたとき、ふたり同時に立ち止まり、耳を澄ませた。

森に響いた音は、自然のものではなかった。それどころか、この世のものとは思えない、恐怖と暴力の気配を孕んだ、身の毛もよだつような音だった。

人の――悲鳴だった。

「行くわよ、エリック!」

「すぐ後ろだ!」

俺たちは木々の間を駆け抜けた。茶と緑の色彩がブレる中、悲鳴の主を見つけるのに時間はかからなかった。

若い女性が一本の木にもたれかかり、怯えた様子で後退していた。服はボロボロで、腕や脚からは血が流れていた。髪も乱れており、彼女の状況がいかに切迫しているかを物語っていた。

その前に立っていたのは、全身を覆い隠したフード付きの人物が二人。男か女かすら分からない。

「誰か助けてぇぇぇ!!」

女性の悲鳴と同時に、カリと俺は躊躇なく飛び出した。だが、俺たちとの距離はあまりに遠かった。どれだけ全力で走っても、この女性を助けるには間に合わないと直感していた。

だからこそ、俺は女性が置かれている危機的状況を理解し、足元に霊力を集中させた。次の瞬間、俺の体は空気を切り裂くように急加速し、視界には何も映らなくなる。ただの残像さえ残さず、フードをかぶった人物たちに俺の姿は見えなかった。

俺の足は、最も近くにいたフードの人物の頭に見事命中した。鈍い衝撃音が鳴り響き、その人物は宙を舞いながら吹き飛んだ。地面に叩きつけられ、何度か跳ねたあと、転がりながら数メートル先で動かなくなった。

俺は背中から着地し、肺から空気がすべて吐き出されるような衝撃にうめいた。

「……バカか、俺は……」

自分の無謀さに呆れながらも、なんとか立ち上がり、頭の中の霧を振り払おうとした。

「?!――」

もう一人のフードの人物が奇妙な音を発しながら跳び退こうとしたその時、カリが俺の作った隙を突いてその人物の前に現れた。

彼女は手を複雑に動かしながら、交差する光の点をいくつも生み出した。霊力が彼女の体から湧き上がり、その手の動きは五芒星を描く。完成と同時にカリはその術式を押し出した。

五芒星がフードの人物に直撃し、そのまま後方へ吹き飛ばした。背後の木に激突して幹を砕き、地面に叩きつけられて小さなクレーターを作るほどの衝撃だった。

「大丈夫ですか?」カリは手を差し出して尋ねた。しかし、彼女が予想していなかったことが起きた。

木の根元でうずくまっていた少女が突然、彼女に向かって這い寄り、手首を強く掴んだのだ。その力は細い腕からは想像もできないほどで、跡が残るほどだった。

「た、助けてください!友達が、友達みんながさらわれたんです!」


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