表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/143

終わりは始まりに過ぎない

私はアメリカ人の作家で、日本やアニメ、マンガが大好きです。皆さん、はじめまして。僕の物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。

空気が炸裂した。

雷そのもので構成された存在であるはずの俺は、突如として言葉にできないほどの激痛に襲われ、集中が途切れた瞬間、肉体――血と肉の姿へと引き戻された。

炎が腕の毛を焼き尽くし、皮膚を裂いて焼き焦がす。

皮膚の亀裂から、まるで大地の割れ目から溶岩が染み出すかのように、血が滲み出た。

すぐさま霊力を巡らせ、水の属性を体内に流し込んで傷を癒す――だが、安堵の息を吐くことなど許されなかった。

さらなる爆発が四方八方で炸裂し、俺は全身を翻して避け続けなければならなかった。

加えて、水属性による回復に集中したことで、注意力は分断された。

そのせいで、全身を覆っていた雷の力は明らかに弱まっていた。

そして、その瞬間だった。七つの影が俺の頭上に現れる。

「……来やがったか」

俺は空を飛ぶ翼を持つ獣たちを睨みつける。

そいつらはまるで影の塊のようだったが、今は激しい霊気に包まれ、その圧力はまるで小さな村を丸ごと押し流す津波のように、俺の全身を襲ってきた。

そのうちの一体が甲高い鳥のような鳴き声を上げると同時に、俺めがけて急降下してきた。

そしてその瞬間、全身を包んでいた灼熱の熱気がさらに激しくなる。

「くそっ……!」

肌に汗が噴き出すも、この理解を超える高熱の前では一瞬で蒸発していく。

肌が再び焼け焦げるのを感じた――もう、逃げるという選択肢は残されていない。

あの獣が火を使ってくるなら、こっちは水で対抗するしかない。

身体にまとわせていた雷を散らし、俺は深く息を吸い込み、再び霊力を巡らせる。

今度は、肌に走る静電気のような感覚ではなく、柔らかく、ゼリー状のものが全身を包み込んだ。

――もう一段階、進む。

熱気が間近に迫り、俺の身体から蒸気が立ち上る中、さらに霊力を流し込んでいく。

そして、俺の肉体そのものを――完全に、水へと変えた。

ついに、あの巨大な獣が俺の目の前に姿を現す。

その姿は、霧深き山脈に棲むドラゴンですら足元にも及ばぬほどの巨大な鳥だった。

橙と赤の炎でできた翼が空気をかき乱し、陽炎のように景色を歪ませる。

その身体には赤、橙、黄色、そして青の文様が彩られ、まるで神話の生き物のようだった。

羽根は燃え盛る白炎のごとき光を放ち、尾羽は流星の尾を思わせる赤と黄色の光を引いていた。

真紅の双眸が、俺を殺意に満ちた目で睨みつける――その感情は、俺も同じだった。

歯を食いしばり、俺は身を翻すと拳を引き、ありったけの霊力を込めて構えを取った。

獣が間近に迫る。

俺はぎりぎりまで動かず、タイミングを見計らっていた。

――今だ!

素早く身を翻し、紙一重でその巨体を回避する。

あまりにも接近していたせいで、水で構成された俺の身体が沸騰を始めていた。

蒸気が立ち昇り、肉体を構成する水分が蒸発していく――だが、意識を逸らすわけにはいかない。

拳を突き出し、霊力を腕へと集中させる。

そして、水の霊力を集束させた巨大なスパイクが、俺の腕から突き出した。

あの獣を取り巻く炎の熱量は途方もない。

だが、俺だって弱者じゃねえ。

水は激しく蒸発し、もうもうと立ちこめる蒸気が空間を覆う――それでも、俺の霊力で包み込んだ槍は形を崩すことなく、そのまま獣の胸部を貫いた。

だが、そこから吹き出したのは血ではない。

それは――眩いばかりの白い炎だった。

苦悶の咆哮を上げる獣を見て、俺はすぐさま身体を引き、次の攻撃へと備える。

――だが、その瞬間。

別の獣が急降下してきた。

影が視界を横切り、殺気が空気を裂く。

咄嗟に身を引いて回避し、火の鳥から十分な距離を取ったところで、水の霊力を解除し、再び雷へと変化する。

周囲の動きが一気にスローモーションに変わる――もちろん、それは俺の知覚が光速に近づいた結果だ。

この新たな速度を使えば、まばたきより早く数十メートル先まで跳躍することもたやすい。

通り過ぎた鳥もまた火の鳥に劣らぬ巨体を持っていたが、燃え盛る炎ではなく、緑と白の羽に覆われていた。

柔らかな羽毛は一見すると優しげに見える――だが、それに騙されはしない。

あの羽毛の中には、数千という鋭利な刃が潜んでいる。

その証拠に、以前戦った際には全身が細かい切り傷で覆われたほどだった。

風を裂くように、長い尾が後ろに揺れている。

よく見れば、空気そのものが刃で切り裂かれているのがわかる。

轟音が響き、俺は思わず地面へと視線を向けた。

火の鳥が森に墜落し、地面からは炎が噴き上がっている。

「……やったか」

断末魔のような悲鳴が空を切り裂く。

眩い白炎――あの巨大な獣の命そのものとも言えるそれが、胸部から噴水のように噴き出していた。

だが、その光景をゆっくり眺める余裕はない。

緑の鳥が鋭い鳴き声を上げ、俺めがけて突っ込んできたのだ。

こいつに対して、俺の雷は相性が悪い。

だからこそ――

「フラッシュステップ第三式――雷光歩!」

霊力を一気に足へ集中させ、最速で間合いを切る。

……が、あいつはぴったりと俺の背後に張りついたまま、空気を切り裂くように迫ってくる。

まるで大気に真空の軌跡を生み出して、加速しているようだった。

「チッ……」

眉をひそめつつ、再び意識を分散させる。

だが今回は、大した操作は必要なかった。

指先に光属性の霊力を集中させ、狙いを定めて――

「はあっ!」

凝縮した光のビームを風の鳥へと撃ち放つ。

その攻撃が片翼を切り裂いた瞬間、満足のいくような悲鳴が上がった。

光属性は風に対して有利ではないが、劣っている

わけでもない。

断ち切られた部分から、緑がかった白の血が噴き出し、バランスを失った鳥はそのまま地面へと墜ちていった。

両翼がなければ、空は飛べまい。

だが――今回もまた、勝利を喜ぶ暇は与えられなかった。

さらに五体の鳥が上空から舞い降りてきたのだ。

その大きさは、さきほどの二体と何ら変わらない。

そして、それぞれが異なる属性を完璧に操る力を持っている。

奴ら全員が――俺の主属性二つと同じく、霊術第四境界に到達している存在だった。

容赦のない光線が俺の背中に直撃した。

「ぐっ……あああっ!」

咆哮は風にかき消され、身体は空を飛ばされながら地面に叩きつけられる。

まるで太陽の中に放り込まれたかのような激痛が全身を貫いた。

全てが焼けるように痛む――だが、それでも、俺は意識を保った。

痛みに耐えながら、全身に雷霊力を巡らせ、力ずくで光線の軌道から転がり出た。

光の奔流はそのまま数キロ先の山腹を直撃し――

――ドォォン!!

爆音と共に、空高くまで煙と瓦礫が舞い上がった。

その衝撃は遠く離れていた俺にまで風圧を叩きつけるほどの凄まじさだった。

爆発が収まったころには、山そのものが跡形もなく消えていた。

そこに残ったのは――この星の大気圏を越えても見えるであろう、途轍もない大穴。

「くそっ……」

呆然としながらも、俺はその一撃の痕跡に目を向けた後、攻撃の主へと視線を戻す。

その巨大な鳥は、純粋な“光”でできたような姿をしていた。

白と黄色の羽根が柔らかく、そして透き通って見える。

その目は――神の如き力を宿した、黄金の輝き。

神聖さすら感じさせるその存在と、俺は互いに睨み合う。

……しかし、そのときだった。

背筋を貫くような殺気が俺を襲い、瞬間的に浮いていた場所から飛び退く。

直後、六つの水球が俺がいた場所を通過し、地上へと激突した。

ズガガガガガッ!!!

地面に巨大なクレーターが次々と生まれ、少なくとも一つあたり十メートル以上はある。

地は割れ、裂け目が走り、木々は根こそぎ吹き飛ばされた。

――まさに、絶望の光景だった。

この攻撃がもたらした破壊の光景を眺める暇なんて、あるはずがなかった。

回避した直後、次の攻撃が迫ってくる。

今度は――五本の闇の刃。

それは黒い波紋のような形をしており、空間そのものを歪ませながら迫ってきた。

俺は一つを上へとかわし、次は下方へと飛び降りて回避。

身体を捻って、さらに二本をどうにか回避したが――最後の一撃は、俺の「未来の位置」に向けて放たれていた。

「ハアッ!」

光の霊力を掌に集中させ、そのまま闇の刃へとぶつける。

空間が激しく軋み、光と闇の霊力が空に閃光のような軌跡を描いた。

闇の圧力に押されながらも、歯を食いしばって力を込め――

「おおおおおっ!!」

怒号と共に霊力を全開に放ち、ようやく闇の刃を粉砕する。

この攻撃を放ってきたのは、まさに“闇”そのものといえる鳥だった。

その全身はまるでブラックホールのように光すら吸い込む漆黒。

鋭くとがった翼がその身体を覆い、ただ一つ黒くない部分――白く光る、瞳孔すら持たない目だけが、不気味に浮かんでいた。

その隣には、青い羽根を持つ鳥、黄色い羽根の鳥、茶色の鳥、そして――さきほど俺を吹き飛ばした光の鳥が並んでいた。

「ハァッ……ハァッ……」

額から汗が滴り落ちる。

だが、ここで止まるわけにはいかない。

休む間もなく、俺は自らに課していた霊力制限を解除した。

周囲の元素を吸収し始める――

空気中の水分子を引き寄せ、力へと変える。

分子の摩擦から生じたエネルギーも肌に吸収され、霊力がさらに高まる。

全身に力がみなぎる――まるで、数時間前の疲労が嘘のように。

水、光、雷――三つの属性が体内で渦を巻き、一部は制御しきれずに体外へと漏れ出していた。

「チッ……本当は、あいつの“親玉”にとっておくつもりだったんだがな……」

苦々しく呟きながら、俺は拳を強く握りしめた。

五体の属性鳥が俺の声を聞いていたかどうかは分からない。

だが――奴らには確実に伝わった。俺の脅威レベルが一気に跳ね上がったということが。

「ギャアアアアア!!」

全員が一斉にけたたましい咆哮を上げ、霊力を口元へと収束させる。

凝縮されたエネルギーが球状に膨れ上がり、わずか一秒も経たぬうちに――

五つのビームが放たれた。

水、雷、光、闇、そして大地――

五つの属性による極大ビームが、一直線に俺へと迫ってくる。

だが――正面からぶつかるほど、俺は馬鹿じゃねぇ。

光の霊力を使って、一瞬でその場から姿を消す。

奴らの攻撃は俺の残像を貫いただけだった。

反応する間も与えない――

再び現れた俺は、奴らの中でも最も厄介な黒き鳥の真上にいた。

「――終わりだ」

光そのものになった俺の身体は、稲妻のように地上へと急降下。

相手が気づくより早く、俺の身体は奴の胸を貫いていた。

ほとんど抵抗は感じなかった。

地面に着地したのは、まるで瞬間移動でもしたかのような速さだった。

上を見上げれば、狙い通りの結果が目に入る。

黒き鳥の胸には、大穴が空いていた。

しかも、その周囲の肉は裂け、修復する気配はまったくない。

闇が光の対極であるように、光もまた闇にとっての致命的な弱点だ。

「……カリ。お前の属性についてはまだよく分かってないが……これは、お前のおかげだな」

ぽつりと呟きながら、崩れゆく闇の鳥の姿を見送る。

その身体はゆっくりと黒い粒子となって空へと消えていった。

だが――それが、残りの四体の怒りに火をつけた。

「チィッ……来るか」

四体の鳥が急降下してくる。

霊感を使うまでもない。

奴らの殺意は、空気を裂くほど濃密だった。

そして、俺が反応する間もなく――

「グオオオオオアアアアアアッ!!」

水、光、雷、土――四つの属性が渦を巻き、巨大な複合ビームとなって放たれた。

それは、ひとつの小都市すらも飲み込めるほどの巨大なエネルギーの奔流だった。

――だが、俺はもうそこにはいなかった。

四体の属性鳥が放ったビームは、俺の残像をすり抜け、そのまま地上の森を焼き尽くす。

木々が吹き飛び、地面は裂け、自然が破壊されていくその瞬間――

俺はすでに、水の鳥の眼前にいた。

「よお……」

手を伸ばして、そいつの頭に触れる。

交差した瞳で俺を見つめるその顔を見て、俺は――ただ、冷たく笑った。

「これで終わりだ」

次の瞬間、ありったけの雷を、そいつの体内へと叩き込む。

水の身体は本来、電気を通さない――だが、俺の水属性で不純物を流し込み、構造を変えてやれば話は別だ。

中から爆発的に雷を暴れさせれば――

「――っ!!」

甲高すぎて人間の耳では聞き取れないような、絶叫が響いた。

まるで夏至祭の花火のように、そいつの全身が閃光を放ちながら弾けた。

すぐに煙が立ち昇る――が、遅い。

確かにこれは致命傷となる攻撃だ。

だが、このままじゃ、他の奴らが先に俺を殺しに来る。

「チッ……」

舌打ちをして、雷で構成された五メートルの剣と化した右腕を振りかざす。

ズバンッ――!!

稲妻の刃が空を裂き、鳥の身体に一直線の光の縫い目を刻む。

その線は、くちばしから尾羽まで一直線。

縫い目に沿って身体が裂け、二つに分かれた肉塊がゆっくりと――まるで穏やかな水のように――地へと降り注ぐ水へと変わった。

――だが、ほんの一秒も経たぬうちに。

「ぐっ……!」

背中に、何か鋭いものが突き刺さった。

痛みで叫ぶことすらできず、肺の中から空気が押し出される。

地面も空も、すべてが曖昧な色の線となって流れていく。

奥歯を噛みしめながら後ろを振り返ると――

そこには、激昂の光を宿す“光の鳥”の瞳があった。

そいつのくちばしが、俺の背中を貫いていた。

「……ナメんなよ……」

力を振り絞って、腕を持ち上げる。

「……これくらいで……終わると思うなよッ!!」

光、雷、水――三つの属性が俺の腕を渦巻きながら包み込み、霊力が轟音を立てて暴れ出す。

「こんなんで……俺を仕留められると思うなあああああッ!!」

咆哮と共に、俺の拳が光の鳥のくちばしに炸裂した。

バキィィンッ!!!

くちばしから一筋の亀裂が走る。

一つが二つに、二つが四つに、四つが八つ、十六、三十二――

無数に増えた亀裂が一気に広がり、ついにはくちばし全体が砕け散った。

鳥はその場で飛行を停止し、痛みと怒りに満ちた絶叫を上げながら空中でのたうち回る。

だが、その勢いは凄まじく、俺もそのまま空を吹き飛ばされていく。

自力で霊力を集中させてブレーキをかけるまで、止まることすらできなかった。

なんとか体勢を立て直した俺は、背中に手を回し――

突き刺さっていたくちばしの残骸を引き抜いて、無造作に投げ捨てた。

どくどくと熱い血が肌を流れる。

だが、それすらも無視して、俺は次の敵を睨む。

雷の鳥、大地の鳥、そして――今や傷ついた光の鳥。

「ハァ……ハァ……ハァ……」

肩で息をしながらも、視線は鋭く、奴らを見据える。

……だが、睨みの効果はあまりなかったかもしれない。

体内を巡る霊力が乱れ、オーラも不安定に明滅している。

何も言わずにいたが、内心では罵声の嵐だった。

――くそっ……霊力が枯れてきやがった。

今使っているこの術式、まだ未完成だ。

それに、複数の属性を同時に扱っているせいで、自然の元素を効率よく吸収できねえ。

もし完成していたなら、今ごろこの戦いは終わっていたかもしれない――

だが、そんな余裕はなかった。

エリカから聞かされた、“あの出来事”のせいで、待つという選択肢は最初から存在しなかったんだ。

鳥たちが再び攻撃態勢に入ろうとしていた――

俺もまた、応戦の準備を整えていた。

だがその瞬間、俺たち全員の動きが、ぴたりと止まった。

「……っ!?」

空気が、重い。

恐ろしいほどの霊圧が空間全体を覆い尽くしたのだ。

呼吸が急激に荒くなる。額には冷たい汗が滲んだ。

肺に空気を取り込もうとするたび、胸が圧迫され、酸素すら満足に吸えない。

まるで、見えない何かに胸を押し潰されているようだった。

そして――

俺の眼前に、突如として“それ”は現れた。

太陽すらも霞むほどの眩さを放つ存在。

この世のものとは思えないほど美しい――それでいて、どこか禍々しい存在。

純白の衣に身を包み、長く銀色の髪が滝のように流れている。

頭のてっぺんから裸足のつま先まで、その姿には一分の隙もない。

そして何より――長く尖った耳が、この男が人間ではないことを物語っていた。

筋肉質な体つきではなかった。むしろ中性的で、細く、柳のようにしなやかだった。

だが、油断はしていない。たとえ女の姿だったとしても、俺は侮ったりしない。

こいつが“ただ者じゃない”ことは、肌で感じている。

……だが、美しさとは裏腹に、ひとつだけ明らかに異質なものがあった。

――その瞳。

他の全てが神聖で清らかな光に包まれている中、彼の目だけが――血のような、深紅の闇を宿していた。

どこか濁ったような、穢れた赤。

さらに、彼の全身を覆う“闇の気配”は、その神々しい外見とあまりにも対照的だった。

男は静かに深呼吸をし、三体の鳥へ視線を向けた。

わずかに眉をひそめながらそれらを見渡し、次に、俺が倒した鳥たちの残骸へと目を移す。

――動きたい。攻撃したい。

全霊を込めて、この男に拳を叩き込みたい。

だが、無理だった。

何か得体の知れない力が、俺の身体を完全に封じていた。

このまま動こうとしても――まともに一撃を入れることすらできねぇ。

そしてついに――

その男の視線が、俺へと向けられた。

「――まさか、半端者の貴様が、我の七体の奴隷のうち四体を倒すとはな」

彼は静かに、そして薄く笑みを浮かべながら呟いた。

「知っていたか? あの魔獣どもは、貴様を殺すためだけに我が使役した存在なのだ。

……だが、どうやら判断を誤ったようだ。貴様の力は、確かに脅威となり得る。

もう少し成長していれば、我にとっても脅威だったかもしれんな。……初めから自ら赴くべきだったか」

「第七界の大君グレート・オーバーロード……っ!」

俺は拳を握りしめ、震える声でその名を呼んだ。

怒りで全身が焼けるようだ。

「お前は……俺からすべてを奪った。

妻も、娘も、家族も……俺の全てを……!」

「この日をずっと待っていた。

再びお前と相まみえるこの日を。……お前を殺す、この瞬間をな……!」

俺の叫びに、大君はまるで可笑しそうに、喉の奥で笑った。

それは女性的な容姿に似合わぬ、耳障りな、冷たくぞっとするような笑いだった。

その笑いを聞いた瞬間、背筋に悪寒が走る。

「……貴様の妻が、貴様を庇わなければ死ぬこともなかった。

自業自得というやつだ」

彼はそう言って、首を少し傾けながら、怒りに満ちた俺の瞳を無表情に見つめる。

「そして――娘のことだがな。

人間でありながら、あれほどの神性を持つ存在など……生かしておけるはずがなかった。

殺すしかなかったのだ。あれが成長すれば、我にとっても“脅威”になったからな」

「脅威……だと……?」

俺は小さく呟いた。

「俺たちは、ただ平穏に暮らしていただけだ……

お前が一方的に襲いかかってきた。

警告もなしに、理由もなく……」

「お前は、俺たちにとって脅威でもなんでもなかった……

なのに、お前は俺たちの故郷を滅ぼし、文明を焼き尽くし、家族を殺した……

一片の慈悲も、容赦もなく――!」

第七界の大君は鼻で笑った。

「……今はまだ分からぬだろう。だが、貴様は――いや、貴様こそが……

この世に存在した中で、最も厄介な“脅威”となり得る存在なのだ。

だからこそ、我が為したことは……“必要”だった」

――もうこれ以上、血が冷えることなどないと思っていた。

だが、俺の中の血液は本当に凍りついたかのように冷たくなった。

全身の隅々にまで、しんしんとした寒気が染み渡る。

「必要……だと?」

「そうだ。必要だった」

「何のためにだ……?」

「貴様が、我の計画に干渉できぬようにするためだ」

第七界の大君は両手を広げ、再びあの不快な笑みを浮かべる。

「見てみろ。半端者に過ぎぬ貴様が、

自らの力の一割すら制御できていないというのに――

我の七体の奴隷、そのうち四体を葬ったのだぞ?

あの魔獣たちは神位級の存在、都市一つを吹き飛ばせる力を持っている。

それを、お前は倒してしまった。

……我がここに現れなければ、全て殺していたのだろう?

それほどの破壊――介入せぬわけにはいかなかったということだ」

……この怪物が何を言っているのか、さっぱり分からなかった。

だが、もう聞く気すら失せていた。

こいつが俺の家族を襲った理由が、“自分の身を守るため”?

そんなふざけた理由で――?

確かに、俺がこの男を目覚めさせたのは事実だ。

だが、俺は害を加えていない。

そもそも、加えるつもりすらなかった。

こいつが俺の街を襲わなければ。

殺しにかかってこなければ。

娘と妻を手にかけなければ――

俺たちは、きっと何事もなく日常を過ごしていただろう。

怒りが再び、身体の奥底から燃え上がった。

その激しさが、俺を押し潰していた霊圧を突き破る。

残された霊力をすべて圧縮し、体内で一気に燃やす。

身体を覆っていたオーラが、音もなくかき消えた。

傍から見れば、俺の力は完全に消えたように見えただろう。

……だが、それは違う。

今回は、どの属性にも姿を変えず――ただ、一人の“戦士”として立つ。

第七界の大君が、僅かに目を細めた。

――その瞬間、俺の姿が消えた。

一閃。

次の瞬間、俺は敵の背後に現れ、拳を突き出す。

「――ッ!!」

空気が弾けるほどの一撃。

だが――振り向くことすらなく、大君はその拳の軌道に手を差し出し、完全に受け止めた。

接触の瞬間、衝撃波が空間を揺るがす。

……だが、俺はもう次の動きに入っていた。

今度は左側へ――まるで瞬間移動のように現れ、足を振り抜く。

だが、それすらも易々と受け止められた。

「ちぃ……っ!!」

それでも、止まらない。止まるはずがない。

俺はありとあらゆる方向から攻撃を繰り出す。

右から、左から、上から、下から――

残像が空間に幾重にも残るほどの速度で。

一撃、二撃、四撃、十六、三十四、六十八、百三十六――

一秒にも満たない時間で繰り出された怒涛の打撃。

だが――

「な……っ」

そのすべてが、防がれた。

拳も、蹴りも――

どれだけの速度で繰り出そうと、この怪物にとっては、ただの“風”に過ぎなかった。

それほどまでに――圧倒的な差があった。

……そして俺の体力は、限界に達しようとしていた。

最後の力を振り絞り、全ての霊力を拳に込める。

「おおおおおおおおっ!!!」

凄まじい叫びと共に、拳が眩く発光する。

空間が歪み、光の波紋が天を揺らす。

まるで現実そのものが引き裂かれるような異常な現象が発生した。

そして――

大君の目が、初めて見開かれた。

その瞳に、わずかな“焦り”が浮かぶ。

彼もまた、拳を繰り出す。

その拳もまた、俺のものと同じく、暗黒の霊力で包まれていた。

だが、それは……嫌悪感すら覚えるほどの邪悪な気配を纏っていた。

「うおおおおおおおおおっ!!!」

両者の拳が激突し、空間が爆ぜる。

音という音が消え、世界が沈黙に包まれる中――

肉体が崩れていくのが分かった。

血管が破裂し、血が爆ぜる。

筋繊維が破れ、皮膚が裂ける。

体中が破滅していくのを、自覚しながらも――

それでも俺は、拳を止めなかった。

この命が燃え尽きようとも――この一撃に、すべてを賭ける。

――構うものか。

たとえこの命が尽きようとも、こいつさえ道連れにできるなら、それでいい。

だから、気づかなかったのだ。

あの一撃が、俺の視界に飛び込んできたときには――もう遅かった。

「クソッ……!」

どこから現れたのかも分からぬ拳が、俺の身体を直撃する。

視界が白く染まり、痛みによって意識が吹き飛ぶ。

……気づけば、俺は仰向けに倒れていた。

そこは、どこまでも広がる巨大なクレーターの中心だった。

あまりに広すぎて、端が見えねぇ。

そして、その俺の真上には――

第七界の大君が立っていた。

その右手には、漆黒の剣。

まるで闇そのものを凝縮したかのような、禍々しい刃を握っていた。

ゆっくりと、剣が振り上げられ――

「……っ!!」

最後の手段を発動する。

残された全霊力を、右腕に集中させる。

拳に込めて――迎え撃つ。

剣と拳が激突し、世界が悲鳴を上げる。

光がねじれ、空間が歪み、雷が空を裂く。

だが、それでも足りない。

「もっとだ……!」

歯を食いしばり、全元素を限界まで呼び寄せる。

光が集まり、身体を強化し、

水の粒子が手の周囲を旋回し、

神雷の魔獣から奪った雷さえも吸収して――

「喰らええええええええッ!!!」

すべてを一つに圧縮し、拳に乗せて叩き込む。

「な……っ!?」

第七界の大君が驚愕の声を漏らす。

その瞬間、空間が崩壊した。

互いの攻撃が衝突した中心から、黒い亀裂が走る。

まるでこの世界に穴が開いたような、底知れぬ深淵が口を開く。

そして――

爆発音が天地を引き裂いた。

世界が砕け、光と闇が入り乱れる中――

俺の視界は、完全な“闇”に飲まれた。

最後に見たのは、あの男の――

驚愕に染まった、深紅の瞳だった。

これが第1章です。

今回は、主人公エリックがどんな人物で、どんな目的を持っているのかを紹介するためのイントロとなっています。

かなりアクション満載の始まりになりましたが、楽しんでいただけたなら嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ