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思索・詩作

『日常の痙攣』

空の痙攣は雲に隠れて 裏に走る電流をみな知っている

海の痙攣は波に隠れて 理と敵う幻想をみな知っている

人の痙攣は皺に隠れて 今が在る痕跡をみな追っている

日常は引き延ばされた 限界とみえた地点からまた日常

死の痙攣は君に隠れて 君の痙攣は死に隠れて

終わりの定まらない  永遠のうえを生きる


 これは以前バロウズの「裸のランチ」を読んだときのことを思い出しながら書いた詩だ。青春の痙攣というフレーズがあったような、そこからのスタートだった。詩なんて初めて書いたけれど、案外楽しいものだった。イメージだけどきっと詩は石膏像に近いのだろう。小説と違って、書いた内容を膨らませるのではなく求める形へ近づくよう削っていく感じ。

「でも……僕は小説と詩をかんたんに二分できないよ……ないよ……よよ……。」

 詩を書き終えた寝言のあとに僕は寝た。珍しく穏やかな入眠だった。鼠色のカツラを抱いていたらその髪の隙間からキシリトールガムが漏れ出てくる夢をみた。おやすみ。そしておはようの窓から覗く空は黄色い。天井が分解され、見渡した空がすべて黄色く輝いている目の前の出来事については、もちろん僕自身よく理解している。幻なんだ。すると僕が眠気を払うにつれて空は青空への回復をはじめる。天井も元に戻って空を閉じた。僕は部屋の時計を視界に留めると、落ち着く間もなく出かける準備を済ませた。

 玄関を開ければ二足方向のトカゲが側面へおじぎをしている……いや、郵便ポストが静かに立っているだけだった。道路には常に轟音が走っていてもはや轟音とは認識されていない。近隣住民は逞しいのである。

 しかし確実にストレスは与えられていた。それはもう少し歩いた公園のあたりまで来ると分かるのだが、ここはさっきまでいた道路の轟音、高層ビルの雲の中から漏れるオフィスノイズ、地下深くから届く水脈の勢いや蛇モグラの鳴き声、その他さまざまな雑音がちょうど衝突し合う地点であり、またかき消される地点でもあった。故にこの公園は無音である。ちょっと人が喋ったていどではこの均衡が崩れず、会話はそのまま静寂へ飲み込まれてしまう。僕はここへ来ると、普段は本当にうるさい場所に住んでいることを実感させられるのである。だから帰るときには道路の轟音が嫌になってしまうのだが、普通の感覚を維持するためには、引っ越しをする以外にはこの公園へ来るしかないのだった。ここは静か過ぎて、公園の空間一杯に自分の思考が張り巡らされる感覚がしてくる。だが当然これに関しては、普通ではなくむしろ異常事態だと理解しているつもりだ。僕はあくまで普通の感覚を途絶えさせたくないだけなのだ。そうでなければ、異常事態を嗜むそのときに、とうとうエスカレートという手法しか取れなくなってしまうのが酷く恐ろしいのだった。昨日書いた詩は少なくとも僕にとって数日は美しい。その程度で今は充分だし、これ以上はおそらく望みようがないのだ。

 工事現場から鉄骨の落下と男の怒声が一瞬、この公園の静寂を切り開いた。すると音が元戻りに通り、その影響は聴覚だけで視覚には何の関係もないはずなのだが、僕は初めてこの公園の素顔をみたような気がした。

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