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火星の墓

作者: 雉白書屋

 現代、地球の人口は増え続け、住む場所に困り、高く高く、追いつけ追い越せの高層マンションの建設ラッシュが続いている。

 ビル群は空を覆い尽くし、公園はマンションの屋上に追いやられる始末。だが、その公園すら最近では取り潰され、別のものに取って代わられていた。それは……


「な! どういうことだ、これは!」


 おれは購入した墓地の前で、思わず声を荒げた。目の前の穴には棺がぎっしり詰まっており、人力では到底取り出せそうになかった。


「あんたも入るかい?」


「うおっ、誰だお前!」


 一つの棺の蓋が少し開き、中から痩せこけた男が顔を覗かせてニタリと笑った。その後ろには遺体が横たわっている。どうやらこの男、無断で他人の遺体と相部屋をしているらしい。

 どうやら、おれが購入した墓地は、二重、三重に契約されていたようだ。値段が安いからおかしいと思ったが、現地を見学してみたらこれだ。おのれ、悪徳業者め、死んだら必ず呪ってやる。

 だが、仕方がない。墓地は諦めるしかなかった。騙された方が悪いのだ。


 人口の増加に伴って、今もっとも不足しているのは墓地だ。かつては遺体を焼いて骨壷に収め、埋葬するのが普通だったが、移民の増加とともに価値観が変化し、遺体をそのまま棺に納める埋葬が主流になった。

 考えてみれば、遺体を焼き、骨を砕いて壷に詰めるなんて、いかにも冷酷な話だ。おれはそんな扱いをされたくない。

 人々がそのような考えを持ったのは、おそらく人口過多で個々のアイデンティティが希薄になり、人権意識も下がっているからだろう。せめて死後は丁重に扱われたいという思いが強まっている気がする。

 だが、墓地がなければどうしようもない。死後、遺体が回収されて肥料にされることだけはごめんだ。それならいっそ芝生の下に埋められる方がまだマシだ。粉々にされる心配がないのだから。

 おれは体が衰え、寿命が近づくのをひしひしと感じながら、日々墓地探しに奔走した。

 しかし、高額すぎて諦めたこと三回。詐欺に遭いそうになったこと六回。「今なら空きがあるから死んでください」と言われたこと二回。殺されかけたこと四回。


「もう、肥料でもなんでもいいか……」と思い始めた頃だった。新しいサービスの話が耳にした。

 それは『火星埋葬サービス』だった。これまで火星は利用価値がないとされていたが、各国が一部の土地を企業に売却し、墓地として活用することになったのだという。

 おれは貯金をはたいて火星の土地を購入し、見学ツアーに参加した。ようやく墓地の心配から解放されると思うと、昇天しそうな気分だった。

 ツアー会社が用意した宇宙船に乗り込み、火星の空港に降り立つ。防護服を着てバスに乗り、他の参加者とともに墓地予定地へと向かった。


「いやー、楽しみですねえ」

「ええ、本当に。やっと終活を終えられると思うと、もういつ死んでもいい気分です」

「私は現地解散でオーケーですよ」


 冗談が飛ぶは飛ぶ。隣人がいい人たちでよかったとおれは心底思った。

 だが、現地に到着すると、様子がどうもおかしいことに気づいた。何やら慌ただしい雰囲気が漂っている。

 ツアーコンダクターが作業員に確認を取り、戻ってくると、こう言った。


「皆様、大変申し訳ございません。墓地予定地から遺跡が発見されまして……これは非常に価値のあるものと見られ――」


 その場にいた購入者の誰一人、文句を口にする者はいなかった。言えば、宇宙に不法投棄されるのが目に見えていたからだ。

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