21世紀の幕開け
人類は20世紀を通して戦争というものを絶滅させること成功した。
21世紀を迎えて最初の事件と言えば、岡本平八技術中将が死去したことであろう。2003年、岡本中将は92歳で死去した。晩年まで船魄研究の第一人者であった。
各国は船魄という不安定なシステムより確実な自動化技術を研究しているが、未だに船魄を代替し得る水準の技術は登場していない。
さて、次の大事件は2014年、西ポーランド国内で社会主義者による反ファシズムの反乱が発生した。国連軍による介入を待たずして政権が転覆されたのである。素人の反乱でないことは明らかであり、ソ連の関与が疑われたが、ゴルバチョフ書記長はこれを否定した。しかし同時に、西ポーランドが望むのならば社会主義によるポーランドの統一もあり得ると発言した。
国連軍は既に確立してしまった政権を倒すことはできず、国民投票を実施することはできなかった。国連総会を手間取らせている間に既成事実を作ってしまえば、国連軍が介入することは不可能なのである。
しかし、ファシスト政権を倒されたドイツも黙ってはいなかった。コール大統領は先制自衛権の行使を宣言。西ポーランドに対し電撃的な侵攻を開始したのである。1959年以来では最も大規模な戦争の始まりであった。
西ポーランドはあっという間に壊滅するだろうと思われたが、東ポーランドとその背後にいるソ連の大々的な支援を受け、ドイツ軍相手に善戦。また、ドイツ軍も長年の平和ですっかり弛緩しており、短期決戦の目論見は崩れた。
東西ポーランドとソ連は臨時国連総会の開催を要求。大阪では国連軍の派遣について激しい論戦が交わされた。
「ドイツ国はあくまで、先制自衛権を行使しているだけであります。ソビエト連邦が支援するクーデターによって西ポーランドの正統な政権が不当に奪取され、ソ連の勢力下に加わりました。これは我が国の存立を脅かす事態と言わざるを得ません。ソビエト連邦や東ポーランドなどが結託してヨーロッパ侵略を企てていることは明白であり、ドイツはヨーロッパを防衛するべく、やむを得ず開戦に踏み切ったのであります!」
「西ポーランドの人民は自ら立ち上がり、ファシスト政権を倒したのです。連邦は本件について全く関与しておらず、ドイツは単に、西ポーランドを永遠に傀儡国にしておきたいだけに過ぎません! このような侵略を許す訳にはいきません。よって、即時停戦もしくはドイツ軍の撃退を目的とする国連軍の出動を要請します!」
西ポーランドの背後にソ連がいることは公然の秘密のようなものであり、ドイツの先制自衛権の妥当性を支持する声も多かった。一方、ソ連の陰謀であったとしても、いきなり全面戦争に踏み切るのは過剰な反応だとする意見も多く出た。
国際世論は真っ二つに分断されたが、常設国連軍に関する規約により投票は必ず行わなければならない。
結果、僅差であったが西ポーランドとソ連の提案は承認された。国連総会から国連軍の派遣が要請されたのである。
○
「うーん……。原因は明らかにソ連と西ポーランドにあるけど、全面戦争はやり過ぎだし……。どうしようかな……」
国連総会から要請を受けた妙高は悩んでいた。国連軍には拒否権があり、出動するもしないも国連次第である。
「妙高、わたくし達の目的は、いずれかの国を利することではありません。今はこの戦争を止めることを優先しましょう」
高雄は言う。国連軍の敵は戦争という概念そのものなのである。
「うん、そうだね。見失うところだったよ」
「じゃあ、即時停戦を目的として出撃ってことでいいのかしら?」
「はい、瑞鶴さん。これほどの大規模な戦争……今まさに多くの命が失われています。可能な限り早く介入を始められるよう、海軍だけで動きましょう。よろしくお願いします」
「ええ、もちろんよ」
国連海軍は背後を気にする必要というものがないので、ほぼ全艦隊を出動させた。ドイツが相手であれば、これでちょうどいいだろう。もちろん妙高も艦隊の一員として出撃する。
しかし、国連海軍出撃の報を受けても、ドイツは折れなかった。
「停戦に応じる気はない……。そんなことが……」
「一先ずはイギリスまで進出して圧力を掛けましょう?」
「そ、そうですね。まずは圧力から、ですよね」
国連海軍はイギリスに到着し、ドイツに間近から圧力を掛けつつ停戦を迫る。しかしドイツは逆に主力艦隊を本土に集結させ、国連海軍に対抗する構えを見せる。
「ドイツは、本当にやる気なのかな……?」
「ここまで言って聞く耳を持たないのであれば、彼らは本気でしょう。わたくし達はこれまで、命令に従わない勢力に対し武力を行使してきました。大国が相手だという理由だけで引き下がるのであれば、国連軍の意義がなくなってしまいます」
国連軍が大国相手には手を出せないと思われれば、抑止力は崩壊する。長期的な観点で、高雄は全面戦争も辞さない覚悟でいた。
「ツェッペリンさん、ドイツと戦争になるかもしれません。大丈夫、ですか?」
「何を言っておるのだ、妙高。我はとっくにドイツを捨てた身であるし、国連軍の一員だ」
「……ありがとうございます。瑞鶴さん、その、戦えますか?」
「準備は万端よ。いつでも、全面戦争の引き金を引けるわ」
「分かりました。その準備はしておきつつ……ドイツと最後の交渉を行います。ツェッペリンさん、ドイツとの連絡をお願いします」
「うむ。任された」
もしもドイツ海軍と交戦状態に入れば、30分もしないうちに勝敗は決し、どちらかが壊滅することになるだろう。その壊滅的な結末だけは、何としてでも回避しなければならない。




