国連海軍の将来
海上要塞には人間の士官も多く務めており、なかなか騒がしくなってしまっている。とは言え船魄達の扱いはやはり格別であり、船魄専用で人間は原則として立入禁止の領域が幾らか存在する。
妙高・高雄・愛宕は妙高の部屋でのんびりと過ごしていた。もちろん彼女達にも仕事はあるのだが、もちろん休暇もある。まあ休暇を決める者もいないので、気が向いたらいつでも休暇である。
「妙高、あなたは本当に、これでよかったのでしょうか?」
お茶を汲みながら、高雄は深刻そうな様子で尋ねた。
「どうしたの、急に?」
「あなたは以前より船魄の権利を求めていました。戦うことを拒否する権利や、軍隊から離脱する権利などをです。それらの要求は、残念ながら全く叶っていません」
妙高の月虹としての活動は、まず船魄に権利を認めさせようという想いから始まった。しかし、国連軍が発足した今でも、各国の船魄は権利らしい権利を認められていない。まあ翔鶴は自分の意思でここに来たようだが、それは例外的だろう。
「確かに、そうだね。軍隊に所属している船魄の待遇は、結局何も変わってない」
「それを実現することは、諦めたのでしょうか?」
「いつかは叶うといいなとは思ってるけど、やっぱり現実的じゃないよね……」
「そりゃあそうよ。部下が勝手に逃げ出すのを止められない軍隊なんて、軍隊としての体をなしてないわ」
愛宕が鋭く突っ込んだ。常設国連軍が完璧に機能すると保証することは誰にもできない。国連軍の運用が軌道に乗ってきたとしても、やはり各国は自衛用の軍隊を必要とする。その軍隊が機能しなくなるようなことは、どの国も決して認めないだろう。
「愛宕……」
「別にいいよ、高雄。妙高もそれは分かってるんだ。だけど、そもそも船魄に権利を認めさせたかったのは、船魄が殺し合うのを止めたかったからなんだ。つまり……妙高にとって、権利を認めさせるっていうのは手段に過ぎなくて、目的はあくまで、船魄ができるだけ死なないようにすることなんだよ」
「それ故に、常設国連軍によって戦争の絶滅を図ることができれば、目的は果たせるということですか」
「うん。こうなったからには、国連軍の抑止力を強化して、維持していかないといけない。妙高は、手を抜くつもりはないよ」
妙高が求めるのは、船魄が死ななくていい世界。そこに近付く手段として、常設国連軍を利用させてもらうのだ。
「あら、いつになくやる気ね」
「そうでしょうか……? 目標が明確になったから、でしょうか」
「きっとそうです。わたくし達はこれまで、自分自身の生存の為に大きな努力を必要としてきました。ですがこれからは、理想に向かって全力で動き続けることができます」
「うん、そうだね。一緒に頑張ろう、高雄。それに愛宕さんも」
「もちろんです、妙高。一緒に頑張っていきましょう!」
「私はお姉ちゃんに着いていくだけよ」
妙高の指導者としての能力は、今後とも遺憾なく発揮されるだろう。
○
常設国連軍は半年ほどで体裁を整え、その軍事力の上限を各国と調整する段階に入った。
国連軍が安定してくると、瑞鶴よりも妙高の方が頭角を現して来た。それもそうだろう。瑞鶴はやはり、本質的には自分と大和の安全を確保することが第一であって、世界平和の実現にはそれほどのやる気を出せないでいた。
アメリカとの交渉窓口にはエンタープライズ、ドイツにはグラーフ・ツェッペリン、日本には高雄をそれぞれ派遣し、交渉を進めた。ソ連に所以を持つ艦はおらず、ソ連との交渉はやや難航するかとも思われたが、戦艦ソビエツキー・ソユーズが間を取り持つことになった。
妙高が主導する交渉によって、常設国連軍の軍事力は陸軍・海軍・空軍の各部門において世界最強の軍隊の8割が上限であると定められた。総合力としてはほとんど世界最強の軍隊になることを認められたのである。
また、それほど驚くべきことではないが、核兵器の保有は全面的に禁じられた。帰るべき国を持たない国連軍が万が一にもトチ狂って先制核攻撃を行った場合、核による報復を行うことができない、つまり相互確証破壊が成り立たないからである。
国連軍軍事費分担金については、取り敢えず初年度はほとんどの国が満額を支払った。僅かな不足分についてはアメリカ連邦が負担し、運営が滞ることはない。この予算で各国から兵器を購入し、着々と軍備を整えていくことになるだろう。
国連海軍にとって最後の問題は、旧式化した艦艇の船魄をどうするかであった。実用性がない程の旧式艦を保有し続ける訳にはいかないが、その船魄を処分するというのは、国連海軍として考えられない。妙高自身もその対象になり得る。
だが、その心配は杞憂であった。大日本帝国海軍が船魄の後継艦への継承や、安全な接続の解除についての技術を全世界的に公開したからである。これによって軍務を離脱することを望む者はその通りに、そうでない者は次世代艦の船魄として生まれ変わることが可能になった。
常設国連軍の未来は明るい。




