船魄達の未来
一九五九年七月二十八日、長崎県佐世保市、佐世保海軍工廠。
戦艦扶桑と山城は珍しく佐世保に停泊していた。扶桑は本来の拠点であるグレナダ鎮守府が破壊されてしまったので内地に留め置かれているのはおかしくないが、チリが本拠地の山城がここに呼ばれている理由はよく分からない。
佐世保海軍工廠は大型艦の建造を行うほど大規模なものではないが、大和型戦艦未満の大きさの艦艇に対して整備程度なら可能なので、扶桑も山城も整備と修繕を受けつつ、のんびりとした時間を過ごしていた。
そんなある日、彼女達に呼び出しが掛かった。呼び出したのは岡本中将であった。
「ご無沙汰しております、中将閣下。本日は、どのような御用でしょうか?」
扶桑は礼儀正しく質問するが、山城は面倒臭そうに溜息を吐いていた。
「はぁ……。今度は何ですか? いよいよ私達の解体でも決まったんですか?」
と言うと、岡本中将が目を丸くした。
「ふむ。誰かから聞いたのかな?」
「え、合ってるんですか? 本当に私達を解体するつもりなんですか?」
「正解と言えば正解だ。まあ落ち着いて、座って聞いてくれたまえ」
岡本中将は扶桑と山城を座らせる。流石の扶桑も不安げな表情を隠せていなかった。
「そう……。やっぱり、私なんて要らないのよね……」
「確かに、わたくし達は今や最も実用に遠い艦です。建造されてから、もう40年ばかり。今まで解体されなかったことの方が奇跡に近いと言えるでしょう」
そもそも大東亜戦争始まった時点で扶桑型戦艦は旧式艦であった。金剛型のように使い勝手がいい訳でもなく、速力も火力も防御力も何もかもが不足している。そんな艦が現役に留まっていた方がおかしいのだ。
「まあ、端的に言えばそういうことになる。しかし、それはどちらかと言うと、戦艦という艦種そのものの価値が非常に下がってきていることを意味する」
対空ミサイルは既に実用化され、対艦ミサイルも実用化目の前。戦艦の時代が終わりつつあるのだと、岡本中将は扶桑と山城に説明した。
「だから、戦艦の中で一番要らない私達を先に処分するの……」
「否定はしない。だが、それは所詮順番の問題だ。金剛型を含め、向こう20年のうちには、実用的な戦力としての戦艦は絶滅することだろう」
「それで、わたくし達に解体を宣告しに来られたと……。かねてより覚悟はできておりました。いずれ、こういう日は来るだろうと」
「そうね……。海の底に沈められるか鉄屑になるか、私達はどっちなんですか?」
「まあまあ。そう悲観しないでくれたまえ。君達には、次世代の戦艦になってもらおうと思っている」
「次世代の戦艦……? つい先程、戦艦は絶滅すると仰っていたではありませんか」
「そうだな。現在の形の戦艦はそのうち消え去る。次の時代に海軍の中核になるのは、対空誘導弾と対艦誘導弾を詰め込んだ艦艇になることだろう。そのような艦こそ、次世代の主力艦となるに相応しい。まあ空母は引き続き主力艦の地位を保ち続けると思うがね」
「大砲のない艦などが主力艦ですか……」
誘導弾――ミサイルの射程はこの世で最も巨大な大砲の射程を遥かに凌駕する。将来的に誘導弾と艦載機が戦争の中心になるだろうと帝国海軍は予想し、軍備の大幅な更新を内々で準備していた。
「大砲は、少なくとも射程の面においてこれ以上進歩することはないだろう。150kmほどが理論的な限界だ。しかし誘導弾の射程は計り知れない。帝国海軍で誘導弾開発を主導している糸川博士という人がいるのだが、博士によれば地球を軽く一周する誘導弾も近い将来に登場するだろうとのことだ」
「そのようなものが戦場を飛び交っていては……確かにわたくし達の出番などないのかもしれませんね」
「ああ。そこで本題なのだが、君達にはそのような新世代の艦艇の船魄になってもらう予定だ」
「別の艦の船魄になれと?」
現在の戦艦扶桑と山城は解体するが、船魄は新たに建造する新世代主力艦にそのまま接続する。それが岡本中将の長期的な計画であった。これは彼女達に限った話ではなく、不要な艦艇の船魄達も順次、新世代の艦艇に移していくつもりである。
「そうだ。もっとも、君達が引退したいのであれば、その意志は尊重するつもりだが」
「その時は……ただの人間に戻していただけるのですか?」
「もちろんだ。その上で、君達の生活も保証しよう」
「引退ねぇ。姉さん、どう思う?」
「わたくしは、まだ戦いたく思います。形は変わっても、陛下に奉仕できるのであれば」
「そう。なら私もそうするわ」
「そんなあっさりと決めていいのか?」
「わたくしに内地での平穏な生活など似合いませんよ」
「鎮守府か海しか知らないのに、いきなり市中に放り出されてもねぇ」
「……そうか。君達の意志は理解した。いずれにせよ、向こう数年は待機してもらうことになるだろう。そうそう、扶桑は廃艦とは言ったが、正確には記念艦として保存されることになってね。山城は解体だが」
扶桑も山城も再建造ではない本物なのだが、扶桑だけが技術遺産として保存されることが決まった。山城はまたしても襲ってきた不幸に咽び泣いた。




