常設国連軍構想
「ではお聞きしますが、常設国連軍が他国を侵略することに使われないと、言いきれますか?」
「国連軍は国連総会によって任命された司令官の指揮下に入ります。もしそうなったとしても、それは国連総会の選択であるとしか言えません」
「では、国連軍の派遣について拒否権が発動されたらどうしますか? そうなれば、拒否権を持つ大国に、実質的には国連軍の脅しは効かなくなります」
「国連軍の派遣に関する提案には、拒否権を無効にしてもらいます。現在拒否権を持っている大国が一番侵略戦争を始めやすいのですから、当然です」
「なるほど。確かに、それは国連軍に意味を持たせる為に必要でしょう。しかしその場合、別の問題が生じます。国連総会で多数派工作さえできてしまえば、国連軍を侵略の為に使えるということです」
「その対策として、唯一の拒否権を私達に与えてもらいます。明らかに侵略を目的とする国連軍の派遣は、こちらから拒否します」
常設国連軍の派遣には国連総会の議決が必要であるが、実際に出動するかどうかは国連軍司令部側に選択権がある。そういう体制を瑞鶴は提案した。
「その場合、あなた方が侵略国に与する可能性があります。そうなれば、やはり国連軍は機能しなくなってしまいます」
「そうならない為に、国連軍の軍事費は全世界から均しく受け取ります。国連分担金と同じ割合で、全ての国連加盟国に国連軍の軍事費の負担を求めます」
「なるほど。そちらの構想については、概ね理解できました。ありがとうございます」
ザイス=インクヴァルト外務大臣は長い質問をようやく終えた。が、彼が座るとすぐさま次が出てくる。ソ連のグロムイコ外務大臣である。
「常設国連軍と言うからには、少なくとも大国の軍事力に匹敵する実力が必要になることでしょう。従って軍事費もそれ相応になる。現在の国連分担金の15倍程度は見込まなければならないでしょうね」
「ええ、その通りです。海軍部門としては最低でもソ連海軍程度の実力がないと、戦争の抑止は不可能ですね」
「常設国連軍に、それほど多大な負担金を支払う価値があると?」
「ええ、もちろんです。常設国連軍の地位が確立すれば、全世界的な軍縮が可能になります。その分の予算を回してくれればいいでしょう」
「軍縮ですか。そんなものは理想論だと思いますがね」
「これまで軍縮を散々妨げてきたのは、世界中の不信感です」
「ほう?」
「軍縮を約束しても、相手がそれを実行しないかもしれないという不信感が、軍縮を妨げてきました。しかし、そこで国連軍が間に立てば、約束を履行しない不届き者に実力行使ができます」
「なるほど。軍縮条約を結んで騙し討ちをするという手段は使えないと」
「その通りです。常に中立の軍隊が存在すれば、全世界で軍縮を進めることができるでしょう。ソビエト連邦としても、軍事費を大きく削減できるのは嬉しいのでは?」
「確かに、軍事費は我が国の国家予算の相当な割合を占めていますからね。しかし、それほど強力な軍事力を、果たして維持できるのですか? 現状でも、国連分担金は毎年支払わない国が出ています」
「そうですね。日本以外は最低でも一回は払わなかった年がありますね」
「そんな不安定な予算で、果たして抑止力を維持できるのでしょうか?」
「それについては、アメリカ連邦から説明があります」
「アメリカ?」
瑞鶴が話を振ると、アメリカのケネディ首相が演壇に上がった。
「アメリカ連邦は既に、彼女達と常設国連軍構想について意見を交わしています。その上で我が国は、国連軍の軍事費分担金が滞った場合、その差額を全額負担します。これにより、国連軍の運営が滞ることはありません。いかがでしょうか、グロムイコ大臣?」
「そのような密約を結んでいたと。しかし、それはアメリカが国連軍を私物化しようとしているだけでは?」
「まさか。そのようなことは断じてありません。そもそもアメリカの国連分担金は世界5位に過ぎないのですから、皆さんがきっちり分担金を支払えばいいだけでしょう。それか、不足分についてソビエト連邦から支出すれば、大臣の懸念するようなことは起こり得ません」
「なるほど。それは確かに道理です。しかし、それならばどうしてあなた方は、彼女達の肩を持つのですか? アメリカにとって、特に瑞鶴は不倶戴天の敵である筈では?」
アメリカ連邦はアメリカ合衆国を否定して生まれた国であるが、やはり大東亜戦争の敗戦は苦い記憶として残っている。アメリカ戦争においてアメリカ合衆国を滅亡させるのに一役買ったのも瑞鶴だ。第二次南北戦争においては味方だったが。
「今や我々に、彼女への恨みなど全くありません。我々はアメリカ合衆国を克服し、アメリカ連邦を建国しました。数え切れない侵略を繰り返してきた合衆国とは違い、我々は平和を愛します。そして永遠平和に最も近づける手段こそ、常設国連軍の維持拡大だと信じています」
ケネディ首相はなかなか演説が上手い。グロムイコ外務大臣の質問に答えたとは言い難い理想論だったが、会場を納得させる気迫があった。




