国連総会
横須賀から帝国海軍の手配した車で新横浜駅まで移動し、そこから東海道新幹線に乗って大阪に向かう。
「おー、妙高、新幹線に乗るのは初めてです!」
「まあ、船魄が列車に乗る機会などそうそうありませんからね」
「こういうの、なんて言うのかしら。近未来的?」
初めて新幹線に乗る妙高・高雄・愛宕は随分はしゃいでいた。高雄も表には出さないが、新しい技術に興味津々である。
「この前乗った時から客車が変わってるわね。随分と綺麗になったみたいだけど」
瑞鶴が前回日本に殴り込んだ時に乗った客車は大正の雰囲気が残るボックス席が主だったが、今回の客車は5列に並んだ席が全て前方を向いている、いかにも効率的に人間を運ぶことを考えた配置である。
「大和が眠っている間に……これほど技術は進歩したんですね。横浜の様子も随分変わっていましたし……」
大和にとって、日本の姿を見るのは実に14年振りである。高度経済成長を経て一気に発展した帝国の様子を眺めるだけで楽しいようだ。
「そうね。時代は随分変わったと思うわ」
「帝国陸海軍は更なる新幹線の増設、また全国に渡る幹線道路の整備を進めているそうです」
信濃が大和の隣で解説をしている。信濃は新幹線に乗っても特に驚くことはないのだが、大和とたくさん話せる機会を得られて嬉しいようだ。瑞鶴は意図して大和に話しかけないようにして、姉妹のやり取りを眺めていた。
当然ながら新幹線は貸切なので、新横浜から名古屋も京都も飛ばし、新大阪駅までまっしぐらである。
大阪城が見下ろす帝国第二の都市、大阪。その中央に、明治宮殿を模して建設された国連本部がある。憲兵隊に厳重に護衛されながら、月虹の船魄達は国連本部に入った。
国連総会が行われる広い会議場には、月虹専用のスペースが用意されていた。瑞鶴達はそこに陣取る。
日本からは池田勇人首相が直々に訪れ、ドイツからはアルトゥール・ザイス=インクヴァルト外務大臣、ソ連からはアンドレイ・グロムイコ外務大臣が足を運んでいた。そしてアメリカ連邦からは、ジョン・F・ケネディ首相が派遣されていた。ケネディ海軍中将はついこの間、スプルーアンス総督から首相に指名されていた。
かくして、月虹の今後を巡る国連総会が幕を開けた。
瑞鶴は世界各国の代表者達を目の前に演説をする羽目になっていた。流石の瑞鶴でも心臓が激しく鼓動するのを感じていたが、遠くにいる大和を見て心を落ち着かせる。
「えー、どうも。元大日本帝国海軍所属、現在は月虹の指導者ということになっている、瑞鶴です。そう、私は船魄です。人間ではありません。人間ではない存在に、こうして国連総会に参加する機会を与えてくださった関係各所に、まずは感謝します。
さて、私達は現在、どの国家にも属さない武装組織です。国家に属さない軍事力というのは、近代においてはほとんどあり得ないことす。私達は言わば、その例外的存在と言えます」
瑞鶴自身はそんなこと言われてもよく分からないので、これは主に高雄が用意した台本である。
「私達は根本的に、現在の国際社会、国際秩序に合致しない存在です。ですので、そんな不安定な状態が続くことを、私達は望みません。
いつまた不必要な軍事的衝突が起こるかも分かりませんし、国家でない以上、戦争を止める手続きも明確ではありません。このままでは全世界に不利益を与える危険があります。
これを踏まえ、私達は国際連盟に所属する非政府組織という位置づけで、今後とも国際秩序と共存することを願います。
つまり、私達を中心として、常設国際連盟軍を創設することを、ここに提言いたします」
その言葉に議場はざわめいた。事前に根回しされている大国の代表達はそうでもないが、中小国の代表達は突拍子もない提案に驚いているようだ。
「私達は常設国連軍の一部となり、今後は国連総会から指揮を受けることになります。私達は人間と対立することを決して望まず、平和的に共存することができると信じています」
人間社会と月虹が共存するには、やはり月虹が人間の指揮下に入るしかないのである。しかしそれは特定の国家の支配を受けるということではなく、国際連盟の一部になるということである。
瑞鶴が一息つくと、外野から質問が飛んでくる。その主はドイツのザイス=インクヴァルト外務大臣であった。
「月虹の提案は理解しました。しかし、常設国連軍なるものを設置することが、人類にとって何の利益になるのですか?」
「それは当然、戦争の絶滅です。常設国連軍は国際連盟の暴力装置になります。それはつまり、国際連盟の決定に背いて戦争を起こす馬鹿な国が存在した場合、国連軍がこれを叩いて戦争を強制的に止められるということです」
「あなた方ならば世界平和が実現できると言うのですか?」
「国連加盟国がきちんと軍事費を支払って下されば、もちろんです」
あらゆる戦争を絶滅させる為だけに存在する軍隊を創設しようというのが、月虹からの提案であった。もちろん人類史上初の出来事である。




