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軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~  作者: Takahiro
第三十四章 アンティル諸島沖海戦Ⅱ

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ウクライナの特攻

 戦艦ソビエツカヤ・ウクライナは隊列を離脱し、最大戦速で大和に向かって突撃を開始した。ウクライナの突然の行動に大和は混乱していた。


「こ、これは一体、何を考えているのでしょうか……」

『至近距離であれば41cm砲でもお前の装甲を撃ち抜くことができる。そのつもりなんじゃないのか?』


 ティルピッツが軽い推測を話すが、大和にはそうは思えなかった。


「もしもそのつもりなら、大和の方が先に敵艦を撃破できます。近くまで来たら、皆さんから援護もしてもらえますし」

『流石に現実的ではないか。そんなことができるのはオイゲンだけだな』


 あの幸運艦プリンツ・オイゲンであれば、格上の艦の懐に潜り込んで至近距離で相手を消し飛ばすことも可能かもしれない。当のオイゲンは今回参戦していないのだが。


『そうなると、兵士を乗り込ませて大和を制圧しようとしてるんじゃないかしら?』


 陸奥は言う。その予想は長門が実際に考えていることそのものであった。


「で、でも、その場合でも大和の至近距離に近づく必要があると思いますが……」

『戦艦として攻撃するのと違って、艦がボロボロになっても浮かんでさえいればいいわ。現実的な作戦じゃないかしら?』

「た、確かに……。そうかもしれません……」

『いずれにせよ、ウクライナがこっちに突っ込んできてるのは事実だし、全力で迎え撃ちましょう』

「そ、そうですね……! 皆さんに危害が及ぶかもしれませんし……」

『戦艦相手にそんなことを気にしてるのは、大和さんだけですよ〜』

「そ、それは……そうかもしれませんが……」


 とにもかくにも、やることは明白である。大和はソビエツカヤ・ウクライナに狙いを切り替え、全力で攻撃を始める。


「回避された……。なかなか、やりますね……」


 隊列を維持する必要のないウクライナは自由に暴れ回ることができる。予測不能な動きで四方八方に進路を変えながら、じわじわと大和に近づいてくるのだ。大和が引き金を引いた時に予想した未来位置はまるで役に立たない。


 大和は13回に渡り主砲斉射を行ったが、命中した砲弾は10発にも満たなかった。まあ普通の戦艦の命中率としては悪くない値だが、大和にしては非常に低い。


 とは言え、相手が15km程にまで迫ってくると、ウクライナの方向転換も間に合わなくなる。大和が撃ってから舵を切っても、実際に艦が動き出すのが間に合わないのだ。


 ウクライナの損傷は急激に増えていき、そこら中で火災が起こっていた。それでもウクライナに止まる気配はない。


「あの状態の方を撃つのは忍びないですが……全艦、ソビエツカヤ・ウクライナに向かって全力で攻撃してください!」

『了解であります!』

『了解です〜』


 残りの五隻がソビエツカヤ・ウクライナを袋叩きにする。とは言え、ウクライナの防御力は対41cm砲(または38.1cm砲)としては非常に堅固であり、大した損害は与えられなかった。その巨大な質量を足止めするには41cm砲では力不足なのである。


 ウクライナは見るも無残な姿に成り果て、甲板は火の海になっていたが、艦の枢要部は無事であった。そうして大和までの距離は僅かに5kmに迫る。


「ここまでしても、諦めないなんて……」

『さっき私が言った通り、死んでも兵士を送り出せばいいんでしょうね』

「酷い話です……。でも、なんとしてでも、止めてみせます」

『ソ連の連中の弱点は艦橋だ。別に船魄を直接殺せって訳じゃないが、船魄と艦を繋ぐケーブルを損傷させれば動きは止まる。やるなら檣楼の根元を狙え』


 ティルピッツが提案した。つい先程薩摩が機能不全になったのと同じ弱点は、米ソの全ての船魄に存在する。ここまで至近距離であれば艦橋を狙い撃つことも可能だろう。


「わ、分かりました。ありがとうございます」

『船魄に直接当てるなよ』

「も、もちろんです!」


 大和はティルピッツに言われた通り、ウクライナの艦橋基部に狙いを定めた。そして全ての主砲で同時に一点を狙う。


「あ、当たりました……!」


 大和は檣楼の根元を撃ち抜くことに成功した。しかし、ウクライナの様子に変化は見られない。


『こんなに破壊して、ちょうどケーブルに当たらなかったとでも……? まあいい。もう一度撃て、大和』

「は、はい……!」


 大和は再度攻撃を行う。檣楼が折れてしまうと思えるほどの大穴を開けることに成功するが、それでもなお効果はない。


「ど、どうなってるんですか……?」

『すまん。私にも分からん。奴だけ船魄がソ連式ではない……なんてことは流石に都合がよすぎるが……』

「ど、どうすれば……」

『船魄を殺せば、確実に止まりはするだろうが……』

「そ、それは、ダメです! 殺しては、月虹の意味がありません……」

『分かっている。今のはただの戯言だと思ってくれ』

『でも〜、このままだと大和さんが大変なことになってしまいますよ〜』


 ソビエツカヤ・ウクライナを通常の手段で足止めするのは最早諦められている。残る手段は船魄という弱点を突く他にない。

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