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軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~  作者: Takahiro
第三十四章 アンティル諸島沖海戦Ⅱ

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型落ちの戦艦達

 一九五九年五月七日、カリブ海西部。


 51cm砲を持つ戦艦全てが集まり、世界最強の戦艦である薩摩も参加しているピノス島沖海戦は、明確な決着がつかないまま自然と終息した。このまま砲撃を続けても埒が明かないと双方判断し、月虹も日ソ連合艦隊も一旦矛を収め、睨み合い状態に戻っている。


 この大海戦全体の結末は、別の戦場における海戦に左右されそうだ。月虹は日ソ連合艦隊をカリブ海に閉じ込めるよう挟撃することに成功しており、その東側でも戦端が開かれようとしていた。


 大和率いる月虹の戦艦部隊と長門率いる日ソ連合艦隊の戦艦部隊が、今まさに衝突しようとしているのである。


 月虹側の戦力は大和、土佐、天城、陸奥、ビスマルク、ティルピッツである。


 日ソ連合艦隊側の戦力は長門、扶桑、山城、ソビエツキー・ソユーズ、ソビエツカヤ・ウクライナ、ソビエツカヤ・ベラルーシである。伊勢と日向は空母部隊の護衛にあたっている。


 月虹には46cm砲を持つ大和がいるという強力な利点があり、全体の隻数も同等である。但しソビエツキー・ソユーズ級戦艦は41cm砲を主砲とする戦艦の中では最強と謳われており、油断できる相手ではない。


 両軍は複縦陣で睨み合っていた。月虹は大和・土佐・天城が前列に、日ソ連合艦隊はソビエツキー・ソユーズ級戦艦の三隻が前列に並ぶ。


 あまり旗艦任務に向いていないのに艦隊旗艦をやっている大和は、なかなか攻撃の合図を出せないでいた。それどころか草鹿大将と何とか和平を結べないかとすら考えている。


 大和はとりあえず、相手の旗艦たる長門に通信を呼びかけた。


「あ、あの……大和型戦艦の大和です……」

『……長門型戦艦一番艦の長門だ。直接お前と話すのは初めてだな』


 長門の声音はとても冷たい。まあ敵相手なのだから当然のことではあるが。


 大和が長い眠りについてから入れ替わりに実戦投入されたのが長門である。大東亜戦争の最中に面識を持つことはなかったし、現代になって目覚めてからも、この二人が直に接触したことはなかった。


「そ、そうですね。本当は世間話ができたら、いいんですけど……」

『であれば、今すぐこんな反乱はやめて、帝国海軍に戻ってくればいい。簡単な話だ』

「それは……できません。大和は何があっても瑞鶴さんの味方ですし、帝国海軍を信用できません」

『まあいい。こんな説得が通るなどとは最初から思っていない。何か話したいことがあって、わざわざ通信回線を開いたのだろう?』

「は、はい。自分で言うのもなんですけど……大和はここにいる戦艦の中で唯一、18インチ砲を持つ艦です。そちらの戦力では、大和に対抗することはできません」

『ほう。つまり私達に降伏しろと言いたいのだな?』

「降伏を求めはしません。ただ、カリブ海から撤退していただければいいのです」

『それは我々にとって降伏も同じことだと思うが?』


 月虹にとっては日ソ連合艦隊をカリブ海から追い出すことが勝利条件であり、日ソ連合艦隊にとっては月虹の本拠地を襲撃することが勝利目的である。日ソ連合艦隊が諦めるということは、月虹の勝利とほぼ等しい。


「こ、降伏と、和平は違います……」

『攻め込んでいる側に一方的に撤退を迫るのは、降伏を迫るのと同じだ。和平とは相互に譲歩するものであろう』

「……このまま戦いになれば、そちらに大きな犠牲が出るでしょうし、大和を沈めることはできません。戦うことは、無意味な犠牲を出すだけです」

『随分と言うじゃないか。流石は帝国海軍で最初の戦艦と言ったところだな』

「大和は、事実を述べているまでです」

『お前の主張は理解した。一応、草鹿大将と掛け合ってやろう。和平が叶う可能性など万に一つもないとは思うがな』

「あ、ありがとうございます……!」


 長門はなんだかんだ言って優しいのであった。


 ○


 そういう訳で、長門は一応、草鹿大将に大和からの言葉を伝えた。長門自身、和平が通るなどとは思っていなかったが。


『なるほど。確かに大和は脅威だ。本当ならこっちで相手の主力艦隊を蹴散らして援軍に向かうつもりだったんだが、どうもそれはできそうにない』

「まさか、月虹と和議を結ぶおつもりですか?」

『いやいや、まさか。この程度で諦めるなど軍人としての恥だろう』

「はっ。しかし、大和に対抗し得る艦がないというのも事実です。どう対抗したものか……」


 ソビエツキー・ソユーズ級戦艦の防御力は大和型並みであり、46cm砲にもそれなりに耐えることができる。とは言え攻撃力は土佐型未満であり、大和に致命傷を与えるのは非常に困難だ。


『君でもよい作戦は思い付かないか』

「はい。私は奇策のようなものを考えるのは苦手でして」

『ははっ。確かに、君は常に王道で戦うのが好きそうだな。かく言う私も、柔軟な発想などというものからは程遠い人間だがね』

「大和さえ何とかできれば、他の艦は如何様にもできるかと思いますが……」

『多少の犠牲を払っても、大和を無力化しないといけないな』

「はっ……」


 大和という強力な戦艦を無力化するのに、犠牲を払わずに済ますことなど不可能だ。長門は内心ではとっとと和平を結んで終わらせたかったが、そんなことは許されない。

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