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軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~  作者: Takahiro
第三十三章 アンティル諸島沖海戦

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ピノス島沖海戦Ⅱ

 なおも交戦は続く。和泉は少しは傷付いて来たが、致命的な損傷には至らず。反対にグラーフ・ローンは、最も重要な機関にすら損傷が出ていた。確実に装甲が貫通されている。


「これは……なかなか、厳しいものですね……」

『うちの姉さんはしぶといし、勝ち目がない気がするねえ』

「その見解には同意しますが……言い方というものがあるでしょう」


 このままではグラーフ・ローンが先に力尽きるのは明白であった。世界で初めて撃破された51cm砲を持つ戦艦という甚だ不名誉な形で歴史書に名を残すことだろう。


『姉上、このまま戦闘を継続するのは無謀です。今すぐ撤退しましょう』


 ローンの妹、プリンツ・ハインリヒは撤退を進言した。このまま交戦を続けるべきではないというのは、三人の共通認識であった。


「ですが……私達が敗北すれば、敵艦隊を食い止められる者はいなくなってしまいます。月虹が敗北するに等しいでしょう」

『月虹など……所詮我々は援軍に過ぎません。そこまで忠義を尽くす必要はありません!』

『おやおや、随分なことを言ってくれるね』

『援軍だというのは事実だ! 負け戦で死んでやるつもりなどない!』

『まあ、それはそうなんだけどねぇ』


 ドイツ軍はあくまで月虹の援軍である。負けそうな時は逃げる権利を有しているのだ。月虹相手に裏切ったからと言って、ドイツが信用を落とす訳でもない。


「プリンツ・ハインリヒの言い方にも問題はありますが、このままではいけないのは確かです。何か作戦はないんですか?」

『私は三番艦だから、そういうのを考えるのは苦手なんだけどねぇ』

「第三艦隊の旗艦でしょう」

『この前まではね』

「ならば、少しは考えてください!」

『君こそ、作戦の一つくらい考えてよ』

「無論です!」


 そうは言っても、双方合わせてたった六隻しか存在しない戦場で、いかなる工夫ができようか。ここまで数が少ないと、個々人の技量で何とかしろと言うくらいしかできないが、薩摩の戦闘能力は船魄の能力でどうにかなるものではない。


 作戦を考えていると、グラーフ・ローンにドイツ海軍からの通信が入った。


「こちらはグラーフ・ローンですが」

『海軍総司令官デーニッツだ』

「デーニッツ閣下……? 私に直接など……」


 海軍総司令官のカール・デーニッツ国家元帥は現在、バミューダ諸島に本陣を置いている。そこからローンに直接電話を掛けつつ、本国にも状況を報告しているのだ。


『率直に言って、君の損傷具合は既に許容し得る範囲を超えている。月虹の為に、我が軍最強の戦艦をこれほどに傷付ける訳にはいかないのだ』

「戦争である以上、戦艦が傷付くのは当然です。空母でもない限り、自明の理では?」

『限度があると言っているんだ。51cm砲の保有数は、核兵器の保有数にも匹敵する戦略的意味を持つ。万が一にも君を失う訳にはいかないんだ』

「それは理解していますが……しかし、私はまだ戦えます! このような状態で逃げ帰るなど、却ってドイツ海軍の威信を損なう結果になるのでは?」

『むっ……それはだな……』


 ローンはデーニッツ国家元帥を言いくるめられそうだったが、まさにその時であった。


「うっ……ぐうっ……!」


 声だけではあれば何の脈絡もなく、ローンが苦しそうな呻き声を漏らす。


『おい、どうした?』

「主砲が……B主砲が、故障……。応急修理では、どうしようもないかと……」

『言わんこっちゃないじゃないか! 主砲を損傷するなど許されんぞ!』


 戦艦の戦闘能力の中核であり最も装甲が厚い主砲にすら損傷が出た。これではいつグラーフ・ローンが航行不能に陥るか分からない。


『撤退だ。主砲が破壊されるほどの損害であれば、面子に傷がつくということはあるまい』

「し、しかし……まだ一基だけです! 私はまだ戦えます!」

『ダメだ。直ちに撤退せよ』

「その命令には、従えませんね」

『ならば代案を出してみろ。何らかの有力な案があるのなら、認めてやってもいい』

「……5分だけ、お待ちください」

『よかろう。5分だけだぞ』


 ほとんど無茶であったが、デーニッツ国家元帥から妥協を引き出すことができた。ローンはすぐさま河内とプリンツ・ハインリヒに意見を求めた。


『そういうことなら、いい案が一つあるよ』

「ほ、本当ですか? その案とは?」

『私を盾にするといい。君は私の後ろに隠れているんだ』

「あなたを盾に……? それほどの意味があるとは思えませんが……」


 砲弾というのは上から飛んでくるものだ。河内の後ろに隠れても大した意味はないだろう。


『あるさ。すぐ近くにいたら、あっちの撃った砲弾が私に当たるかもしれない』

「あなたを攻撃することを、日本軍が躊躇すると?」

『ああ。いくら薩摩がいるとは言え、和泉型戦艦の価値は今でも十分にある。取り戻せるのなら取り戻したいだろうね』

「自分のものにする予定だから傷付けたくないと、そういう訳ですか」

『ああ。試してみる価値はあるんじゃないかな?』

「そうですね……。ありがとうございます」


 ローンはデーニッツ国家元帥にこの案を伝えた。国家元帥からは試すだけ試してみる許可を得ることができた。

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