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軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~  作者: Takahiro
第三十二章 通商破壊戦

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リュッツオウ奪還作戦

『姉さん、あっちも魚雷撃ってきたよ!!』

「か、回避! 避けて!!」


 鈴谷も当然、魚雷を放った。しかし鈴谷は案外魚雷発射管が少なく、片舷10門しかなかった。10本の魚雷を疎らに放っても命中を期待することはできないだろう。


 妙高達は簡単に鈴谷の魚雷を回避することができた。反対に48本の魚雷が押し寄せてくる鈴谷は、そう簡単に全てを回避しきることなどできない。鈴谷に数本の魚雷が命中し、その姿を覆い隠すほどの水飛沫が上がった。


『効いたかな、妙高ちゃん?』

「あの煙が晴れてくれないとわかんないけど……効いていると思いたいかな……」


 妙高型の姉妹達はまずは逃走に集中し、被害の確認は高雄が行った。高雄が飛ばしている水上偵察機が鈴谷の様子を確認する。


『外から見た限りですが、右舷に数本の魚雷が命中したと思われます。鈴谷の船体は現在、15度ほど傾いています。効果は十分にあったと言えるかと』


 船体が折れでもしない限り魚雷の効果を直接確認するのは難しいが、数少ない目に見える効果は、船そのものが傾いていることである。波によって左右に揺れ動くのは船というものの常だが、ずっと傾きっぱなしなのは大量の浸水が起こっている証拠だ。


「よかった……。流石に、魚雷を防げる訳はないよね」


 どんな重防御の戦艦でも魚雷で沈むのだ。重防御とは言っても所詮は重巡洋艦の枠内でのこと。巡洋艦としての制約がある鈴谷に、魚雷の直撃に耐えるなど不可能であった。


 鈴谷は反転し、後退を開始したようであった。まだ致命傷という訳ではないが、最新の重巡洋艦を沈められては堪らないと判断されたのであろう。


 それにつられるように鞍馬とタリンも後退を試みるようであったが、その時であった。


『周囲に敵がいない今こそ、リュッツオウを連中の手から取り戻す好機よ』


 オイゲンが妙高にリュッツオウの奪還を提案したのである。


「そ、そう言われましても、どうすれば……」

『私達が勝手にやるから、あなた達は援護してくれていればいいわ』

「え、あ、あの……」

『あなたの許可を取るつもりはないから、よろしく』

「そ、そんなこと……」

『すまんな、妙高。私達にとってはこれが最大の目的なんだ』


 アトミラール・ヒッパー級の四隻の姉妹達は、妙高をまるで無視して勝手に隊列を離脱する。妙高には命令を強制する力もなく、どうしようもなかった。


『ど、どうするのですか、妙高?』

「仕方ないから、オイゲンさん達を援護しよう。できるだけ他の艦の注意を妙高達に惹き付けるよう、撃ち方始め!」


 妙高達は伊吹・鞍馬・鈴谷を全力で砲撃し、その間にアトミラール・ヒッパー達がタリンを追い掛ける。


『あれ、あの人達タリンを撃ってるみたいだけど、どういうこと?』


 那智は言う。彼女達は確かに、奪還する対象であるタリンを砲撃していた。


『同じ条件なら逃げられるんだから、足を遅くさせたいんじゃないの?』

『なるほどー。頭いいね、足柄ちゃん』

『そんなことないって。那智姉さんが馬鹿なだけだよ』

『今何て言った!?』

「まあまあ」


 足柄の推測は当たっていたようである。四隻でタリンの艦尾を集中砲火すると、タリンの速度は明確に落ちた。スクリューの一部が損傷したのであろう。元より同型艦である以上、これで確実に追いつくこことができる。


 だが日ソ艦隊としては、易々と軍艦を鹵獲される訳にはいかない。逃げる気満々だった残り三隻が、タリンを援護するように集まってくる。妙高達の火力ではそれを食い止めることはできなかった。


『邪魔する奴は皆殺しにするわ。私達の再会を邪魔する奴らは許さない』


 オイゲンが物騒なことを言っているが、実際のところ大それたことはできなかった。


『落ち着け、オイゲン。どうやって殺すんだ』

『どうやってもよ』

『やはり突撃して魚雷をぶち込みましょう!』

『やめておけ、ブリュッヒャー。近寄ったらこっちが先に殺られる』

『しかし、このままではリュッツオウに近づけません。何とか手を打たなければ』


 伊吹・鞍馬・鈴谷はタリンを守るよう半円状に並んでおり、月虹の重巡洋艦達はそれを半月状に囲いこんでいる。明らかに有利な状況ではあるが、リュッツオウに接触するのは非常に困難であり、膠着状態に陥ってしまった。


『だったら、私が行くわ。とっとと行ってリュッツオウを取り戻してくる』

『は? 何するつもりだ?』

『私にはどんな攻撃も当たらないの。リュッツオウの周りに邪魔な奴らが何隻いても関係ないわ。私がリュッツオウを取り戻してくる』

『流石に正気とは思えないのですが』

『私を疑うの、ザイドリッツ?』

『確かな姉さんの幸運は本物だと思いますが……』


 プリンツ・オイゲンの戦歴を見れば、彼女がいかなる状況でも傷一つ負わなかったのは客観的な事実だ。とは言え、そんなものに根拠がある訳がない。敵陣のど真ん中に突入するなど、オイゲンと言えど自殺行為としか思えないのだ。


『いいではありませんか! 突撃しましょう!』

『お前はちょっと黙っていてくれ』

『そうよ。ブリュッヒャーがそんなことしたら犬死するだけよ』

『なんという低評価!?』


 ブリュッヒャーはヒッパーに黙らされた。

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