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軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~  作者: Takahiro
第三十二章 通商破壊戦

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吹雪との決戦

 と、その時であった。またしても妙高に、敵から通信の要請が入った。高雄によると今度の相手は吹雪ではないらしい。吹雪ではないのなら会話が成立しないことはないだろうと判断し、妙高は通信を受けた。


「こちらは妙高ですが、そちらは?」

『わ、私は、白雪、です……』

「……吹雪さんの妹さん、ですよね?」


 妙高はたまたまであるがその名前を知っていた。このオドオドした少女は、吹雪型駆逐艦二番艦の白雪である。吹雪のすぐ下の妹ということになる。


『は、はい……! 吹雪の妹、です』

「ええと……吹雪さんは全く話が通じないのですけど……」

『わ、わかっています……。姉がご迷惑をお掛けし、申し訳ありません……』

「え、ええ、はい……」


 まさか交戦相手から迷惑を掛けたことへの謝罪をされるとは、妙高は夢にも思わなかった。


『姉はいつも、そんな調子なんです。話が通じないのはそう、なんですけど……今日は特に様子がおかしくて……』

「そ、そうなんですね……」

『ですから、姉をどうか、止めて欲しいのです……!』

「と、止めるって言われても……。吹雪さんには砲弾が全く当たらないのに……」

『確かに、姉は幸運艦みたいな力があるようです……。姉を――吹雪を止めるには、重巡さんの質量で、無理やり食い止めていただくしか……』

「……お、お言葉ですけど、そこまで妙高達が手を貸す理由はないと思うのですけど」


 白雪はまるで味方かのように話してくるが、あくまで彼女達は敵同士。妙高に吹雪の面倒を見る必要などない。


『吹雪は、恐らく、沈むか相手を沈めるまで止まりません……。あなた方に、その解決策を提案している……それだけです』

「それは……最悪の場合は吹雪さんを殺すことになるかもしれないと、わかってますか?」

『それでも、構いません……。姉の痛々しい姿をこれ以上は見ていられなくて……』

「……そうですか。わかりました。引き受けます。つまり、妙高達が体当たりして止めろということですよね?」

『は、はい……! お願い、します……』


 妙高は白雪の提案を受け入れた。実際、吹雪が明らかに異常な行動を取っているのは確か。これを食い止めるには――足柄が最初に提案していたことではあるが――至近距離にまで近づくしかない。


 妙高がそう提案すると、重巡達の反応はまさに半信半疑と言ったものであった。単純に白雪が罠に嵌めようとしているのだと疑う者が半分ほど。しかしそれでも、妙高は突撃するつもりでいた。白雪の言葉を信じるつもりなのだ。


「妙高が、行きます。もう一人、いてくださると助かるのですが……」

『だったら、私が行くわ。だって私、幸運艦だもの。何をしても傷つかないわ』

「で、では、お願いします!」

『妙高、そんな危険なこと、思い直してはくれませんか……?』


 高雄がやめるように頼むが、妙高にその気はなかった。


「妙高は行くよ。吹雪さんを放っておく訳にはいかないし、確実に止めてくる」

『……くれぐれも、気をつけてください』

「もちろん、大丈夫だよ」

『じゃあ、行きましょうか』

「はい。他の方々は援護をお願いします」


 かくして、妙高とプリンツ・オイゲンは単縦陣を抜け出して吹雪に向かって突撃する。吹雪はこれに反応して再び魚雷一斉射をしてきたが、これも全て回避する。


『あいつはあと何回魚雷を撃てるの?』

「斉射はもう一度だけの筈です。もっと近寄って、最後の斉射を行わせれば、至近距離まで近づけます」

『そう。じゃあ私に任せなさい。簡単に魚雷を撃ち尽くさせてあげるわ』

「よ、よろしくお願いします……」


 オイゲンの幸運が本物であるのは、これまでの幾多の戦いが証明している。オイゲンは吹雪に急速に近付き、双方の距離がおよそ8kmのところで吹雪は魚雷斉射を行った。


「オイゲンさん!」

『私を舐めないでもらいたいわ。この程度、回避できない訳がないでしょう?』


 その言葉通り、オイゲンは全ての魚雷を回避することに成功する。これで吹雪は大型艦艇に対する有効な攻撃力を失ったことになる。


『ここまで近寄ったら当たると思うんだけど、砲撃したらダメなのかしら?』

「そ、それでは、吹雪さんを沈めてしまいます! このまま体当たりで拘束します!」

『そう。まあ何でもいいけど』


 吹雪の攻撃手段は実質的に主砲のみ。それも近代化改装によって後部の4門が長10cm高角砲になっているから、対艦戦闘能力は低下している。


「痛ッ……うぅ……」


 吹雪の12.7cm砲弾が妙高に被弾した。だが、妙高はあくまで重巡洋艦。こんなもので致命傷になることはない。


『ちゃんと避けなさいよ』

「砲弾を避けられる訳ないじゃないですか……!」

『私はできるけどねえ』

「オイゲンさんが異常なんです! でも、そんなオイゲンさんにも、ちょっと傷ついてもらいますからね」

『自分が望んでやるなら、まあ問題ないわ』


 妙高とオイゲンは吹雪に体当たりするのだ。オイゲンは当然、多少は損傷するだろう。

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