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軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~  作者: Takahiro
第三十一章 最終決戦

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グレナダ沖航空戦

「どうされますか、閣下? こちらも艦載機を出して向こうの空母機動部隊を攻撃するか、或いは守りに徹するのか」

「……守りに徹することにしよう。同じ土俵で戦っては、質に勝る彼女達に軍配が上がる可能性が高い。あくまで堅実に戦おうじゃないか」


 リオデジャネイロ沖で月虹を撃退できたのは、こちらが非常に有利な輪形陣で戦えたからに過ぎない。同等な条件になると押し負ける可能性は十分にあると、草鹿大将は判断した。すなわち、空母は艦上戦闘機だけ出して迎撃に徹するのである。


 月虹の航空隊は草鹿大将ら戦艦部隊を見事に無視して、直接後方の空母部隊に殴り込んだ。もちろん、空母だけしかいないという訳ではない。戦艦としても長門・扶桑・山城・伊勢・日向に加えてソビエツキー・ソユーズ級の三隻がいるし、補助艦の陣容はリオデジャネイロ沖航空隊の時と特に変わりない。


「私達はこのまま黙って見ているのか?」


 和泉が問う。


「ま河内達を空母に近寄らせる訳にもいくまい。ここから動く訳にはいかんだろう」

「そうか。つまらないな」

「今回は我慢してくれ」


 和泉は特に役目もなく、退屈するばかりであった。


 ○


「――私達の目的は、敵の空母に打撃を与えることよ。特に歴戦の空母の飛行甲板に爆弾をぶち込めれば、私達には相当に有利になる。それ以外の艦艇は無視して」

『いつの間にか相手に消耗を強いるという話が変わってないか?』


 ツェッペリンが問う。


「主目的は敵を消耗させることよ。とは言え、目的はあった方がやりやすいでしょ?」

『まあな』

「別にこの目的は果たせなくていいわ。それに、消耗を気にする必要はない。こっちの補給の方が遥かに楽なんだから」


 瑞鶴と信濃、それに大鷹は既に全ての艦載機をドイツ製のジェット機に切り替えていた。日本製とドイツ製を混ぜて不統一な航空隊を使うよりは、いっそのこと全てをドイツ規格に合わせた方がいいに決まっている。


 そういう訳で見た目の上では完全にドイツ海軍航空隊そのものの航空艦隊が、日ソ連合艦隊の空母部隊を襲撃する。水上戦力として相手の最高戦力はソビエツキー・ソユーズ級であり、対空砲火の圧力はかなり小さくなっていた。


『あの化け物戦艦共がいなければ、随分と気楽なものだな』

「そんなに調子に乗らないでよ、ツェッペリン。輪形陣なことには違いないんだから、真ん中に近付くほど危険よ」

『その程度のこと分かっておるに決まっておろうが』

「ならいいけど」

『しかし、和泉らが抜けたことで、中距離での対空戦闘能力に大きな穴が開いている。この機を逃すべからず』


 信濃が言う。彼女が言いたいのはつまり、敵艦隊に40mm機関砲クラスの対空砲が少ないということである。帝国海軍は最新の艦艇には五式四十粍機関砲を配備しているが、未だに数が少ない。ソ連の艦艇は同クラスの機関砲を幾らか配備しているが、旧式でそこまでの脅威ではない。


「そうらしいわね。遠距離と至近距離で何とかできればいいんじゃないとは、思うけどね」

『対空戦闘は敵を確率的に落とすもの。その試行回数を増やすには、縦深防御が肝要であろう』

「あ、そう。あんまわかんないけど、まあ全部避ければいいだけね」

『……まあ、そう』


 瑞鶴の理解は非常に雑だったが、日ソ連合艦隊の対空戦闘能力は見かけ以上に低下していた。先日のリオデジャネイロ沖航空戦と同じ密集戦術によって敵の動きを鈍らせつつ、瑞鶴とツェッペリンなどの精鋭部隊が輪形陣の中央部分に切り込む。


『瑞鶴、提案する。随伴艦も多少は爆撃しておいた方が、修理に物資を消耗させることができるのではあるまいか?』


 信濃の提案は、一撃で轟沈はしないであろう巡洋艦を適度に爆撃して、修理の手間をかけさせようというものである。


「……そうね。可能な限り嫌がらせをしましょう。できるだけ沈めないように、随伴艦も攻撃するわ」

『まったく、無理な命令をしてくれるものだ』


 シュトラッサーは文句を言ってくるが、瑞鶴の指示通りに爆撃や雷撃を行っている。艦首切断などは、沈む危険はない大破ということで、非常に都合がいい。


「あくまで主目的は空母だからね? 忘れないでよ」

『わかっておるわ。しかし瑞鶴、敵に……お前と全く同じ見た目をした奴がいるが?』

「それは……」


 言うまでもない。ツェッペリンが確認したその空母は、翔鶴型航空母艦一番艦翔鶴であろう。瑞鶴の唯一の姉である。


『姉妹を相手にして怖気付くなど許さんぞ』

「わかってるわよ。そんなつもりは、ないわ」


 大和に武蔵と戦わせた手前、姉を相手に躊躇などしてはならない。そうはわかっていても、瑞鶴はどうしても集中できなかった。艦載機が何機か落とされてしまう。


『おい瑞鶴、しっかりしろ!』


 ツェッペリンが真面目に叱ってくる。


「あんたに言われたくないわよ」

『は? 何だと?』

「覚悟を決めろ、私……。翔鶴を狙うわ。翔鶴を無力化することを最優先とする!」

『翔鶴が去れば、お前の集中を乱す者はなくなる。良き判断』

「あっそう。まあ、そういうことよ」


 どうせいずれかの空母を標的にすることになるのだ。翔鶴に意識を取られているではないかと言われたらそれまでだが、瑞鶴は翔鶴を仕留めることを決意した。

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