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軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~  作者: Takahiro
第三十一章 最終決戦

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リオデジャネイロ沖海戦

 一九五九年三月十八日、ブラジル、リオデジャネイロ州沖合。


 大日本帝国海軍とソ連海軍は南米大陸を反時計回りに半周し、大西洋に到達していた。現在地はブラジルの南方リオデジャネイロ州の沖合である。


 補給の都合上、どうしても物資を集積しておく中継地点を幾つか設ける必要がある。戦闘がなくても整備を行う必要はあるからだ。リオデジャネイロはそのうちの一つである。


 ブラジルは少し前まではアメリカの傀儡政権に支配されていたが、アメリカ合衆国の滅亡と共に解放され、中立地帯であった。だが、中立地帯であるが故に誰も後ろ盾も得られず、日本とソ連に場所を貸すよう要求されると断れなかったのである。


 連合艦隊の旗艦はいつも通り和泉である。船魄の和泉は艦内の連合艦隊司令部におり、どうやっても反乱を起こすのは不可能であろう。ここにいること自体は和泉の趣味なのだが、艦橋にいたとしても、艦橋には多数の警備兵が常駐しており、反乱を起こそうものなら即座に和泉を拘束することが可能だ。


「あの醜い戦艦はなんなんだ?」


 和泉は連合艦隊司令長官草鹿龍之介大将に問う。つい先程リオデジャネイロに到着した戦艦を艦橋のカメラから見ていた。


「君も知っているだろう。戦艦薩摩だ」

「薩摩? 大昔の戦艦じゃないか」

「君……本当に知らないのかね?」

「私以外の戦艦になど興味はない」

「連合艦隊旗艦としての自覚を持って欲しいんだが……。最新鋭の戦艦だ。56cm連装砲を4基装備する、世界最強の戦艦といっていい。戦艦を沈めることに特化した戦艦といったところだな」

「そうか。それは面白い」

「ああ。この薩摩があれば、我が軍は大いに優勢となる。まあ多少の時間は掛かるだろうが、確実に勝てるというものだ」

「当たり前だ。反乱軍などに我々が負けるなどありえん」

「その意気で頼むよ」


 日ソ連合艦隊は一先ずリオデジャネイロに集結した。こちらも世界最強の艦隊と言ってもいい陣容である。ここで暫く補給と整備を行った後は、カリブ海まで一直線に向かう予定だ。


 ○


 一九五九年三月二十三日、ブラジル、リオデジャネイロ。


 草鹿大将は全艦隊に出撃の命令を下し、空前の大艦隊が出航した。陣形としては全体で非常に巨大な輪形陣を取る。陸地を巻き込むような場所で月虹が攻撃してくる可能性は低いが、そうでなければ海のどこも安全とは言えないからだ。


 そして草鹿大将の用心深さは、早速有効性が証明されそうだ。リオデジャネイロを出てからほんの2時間のことである。


「大将閣下! 北方より迫る未知の機影を確認しました! 恐らく敵です!」

「こんなにも早く察知されたというのか……。全艦、対空戦闘用意。航空隊は全力で出撃せよ!」


 北東およそ800kmの距離に、およそ700機の機影が確認された。ブラジルの上空を飛んでいたらもっと早く察知できるので、敵の空母機動部隊がかなり前進してきていることが予想される。


「先手を打たれたようだな」

「ああ、まったくだ」

「敵はどうして私達の位置を把握しているんだ?」

「さて、どうだろうね。リオデジャネイロにスパイでも紛れていたのか、或いはドイツの人工衛星か」

「人工衛星?」

「ああ。ドイツはとっくの昔に人工衛星の打ち上げに成功している。そしてドイツが言うには、宇宙から地上のあらゆる場所を監視できるらしい」

「何だそれは。不公平じゃないか」


 敵にだけ一方的に監視されるというのは不愉快なものである。


「そうだな。日本の宇宙開発技術がドイツに劣っているのは、認めざるを得ない」

「技術者共はサボっていたのか?」

「ドイツの技術力が高すぎるんだ。いや正確には、ヴェルナー・フォン・ブラウン博士……彼があまりにも天才で、誰も追いつけないんだよ」

「そうか。まあいい。とっとと敵を撃滅してくれる」


 既に輪形陣は構築済みだ。日ソ連合艦隊はこれ以上ない備えを整えられていると言えるだろう。


 ○


 さて、瑞鶴率いる空母機動部隊はブラジルの北東に展開していた。瑞鶴は麾下の空母達に命令を飛ばす。


「今回の目的は薩摩に一撃与えることよ。それ以外の艦は全て無視して構わないわ。一撃離脱、それだけに集中しましょう」

『おい瑞鶴、何か飛んできたぞ!』


 ツェッペリンから突然の言葉。瑞鶴もすぐさまそれに気付いた。真正面から異様な速度で接近してくる何か。それについて最も知見があるのは信濃だった。


『仁淀の対空誘導弾であろう。回避せよ』

「回避できるもんなの?」

『直進しかできぬ代物。回避は容易』


 正体はミサイル巡洋艦こと軽巡洋艦仁淀が発射した対空ミサイルであった。それは元々コメットを超長距離で撃ち落とすことを目的に設計されたものである。


「あら、本当に簡単ね」

『そう言ったであろう』

「ま、そうね」


 あっさりと回避できて、瑞鶴は拍子抜けしてしまった。ほとんど回避能力がないコメットを目的にしているから、普通の艦載機には当たらないのである。


『だが瑞鶴、他の連中はそうでもないぞ』


 ツェッペリンが言う。後ろの方では経験の少ない船魄の艦載機が幾らか撃ち落とされていた。


「まあ、早いことは違いないし、仕方ないか……」


 大した損害ではないとは言え、一方的に数を減らされることに、瑞鶴は焦りを覚えた。

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