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軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~  作者: Takahiro
第三十章 月虹と世界

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宣戦布告

 連合艦隊はカリブ海を離脱した。今すぐに戦端が開かれることはなさそうである。とは言え、ここまで派手にやらかして、日本と和解することなどほとんど不可能であろう。


 海上要塞には月虹に加わった船魄達が集まっていたが、瑞鶴はプリンツ・オイゲンおよびザイドリッツと話していた。


「戦争は避けられなさそうなのかしら?」


 オイゲンが問う。瑞鶴は少し間を開けてから、深刻そうに答える。


「ええ、そうね。普通に考えたらそうでしょ。空母を一隻沈められて、仲良くするなんて無理に決まってるわ」

「軍艦を沈められても戦争にならなかった例は、ないことはないと思うけれど」

「姉さん、確かにそのような事例は幾らかありますが、いずれも事故が原因です。今回の場合は明らかに意図的な攻撃ですから、まず和解の可能性はないかと」

「そう」

「ザイドリッツの言う通りね。もう私達は、引き返せないわ」


 瑞鶴は派手な溜息を吐いた。こんなことなど全く望んでいなかったのに、いつの間にか戦争を回避する選択肢は消えてしまった。


「日本と戦争して、勝てるのかしら?」

「そんなの分かんないわよ。少なくとも戦力としては、私達の方が圧倒的に劣っている」

「まあ、その通りね。だったら、ドイツから援軍を引っ張ってくるのがよさそうね」

「は? ドイツが私達を助けてくれるって?」

「日本と戦争してくれるなら、ドイツにとっては好都合なんじゃないかしら?」


 ドイツ海軍は基本的に日ソ同盟に対し劣勢である。アメリカの国力が著しく衰微している今では尚更だ。この状況、月虹の存在は渡りに船なのかもしれない。


「まあ、それはそうかもだけど……」

「せっかくだし、私達がドイツと交渉してきてあげるわ」

「ドイツから脱走したのに?」

「まあ同じドイツ人だし、あなた達よりは話が通じるんじゃないかしら」

「本当? 裏切り者の方が許されない気がするけど」

「その時はその時よ」


 ドイツ海軍が援軍に駆けつけてくれるかはともかく、ドイツが後援してくれるのであれば、日本が戦争を躊躇してくれるかもしれない。ドイツを利用すれば戦争を回避できるかもしれないのだ。瑞鶴にとっては非常に魅力的な選択肢である。


「ドイツが味方してくれるなら、是非そうして欲しいわ。でも、あんた達が交渉しに行ったら、無駄にドイツを怒らせる可能性がある」

「それは否定しないけれど、あなた達こそ、シャルンホルストを殺したのを忘れたの?」

「……確かに、そうだったわね」


 どうやら以前から月虹にいる船魄達は全員ドイツ海軍に恨まれているらしい。新参の船魄に交渉を任せてもいいが、土佐や河内の件もあるし、やはり信用を置けない。


「どちらかと言うと、私とザイドリッツの方がマシだと思うけどねえ」

「……そうね。わかった。じゃあドイツとの交渉は任せるわ」

「ええ、任せなさい」


 プリンツ・オイゲンとザイドリッツは早速、ドイツ海軍と接触しに、バミューダ諸島に向かった。


 ○


 同日。神重徳大将は、カリブ海で起こった出来事の顛末を、大本営政府連絡会議に報告した。帝国海軍の最大戦力である河内が裏切ったというのは、海軍の人間でなくともその重要性はよくわかった。


「まったく、本当に大変なことになっているじゃないか」


 池田首相はあまり危機感を感じさせない声で言った。それはそれで底知れなさを感じさせるものであるが。


「大変遺憾に思います。ここまでの失態を晒したからには私は辞任すべきでしょう」

「いや、そういうのはいい。自体を丸く収めた後に辞めてくれ」

「はっ」

「で、これからどうするんだ? 河内が敵に回ったというのなら、我々に勝ち目はあるのか?」

「ドイツやソ連に隙を見せることにはねりますが、北方や西方から戦力を抽出すれば余裕を持って対処できます」


 和泉型戦艦の和泉と摂津は、それぞれソ連とドイツへの警戒の為に、大湊とムンバイに配置されている。それを月虹との戦いに投入すればいいだけの話だ。


「ソ連を相手には、警戒する必要はないだろう。ソ連海軍に一緒に戦ってもらえば、流石に後ろから突かれることはない」

「ソ連が月虹討伐に協力してくれると?」

「ああ。帝国とソ連は同盟国だ。帝国が武力攻撃を受けているのだから、ソ連は一緒になって戦う義務がある」

「本当にソ連が手を貸してくれるかは、分かりませんがな」


 重光外務大臣が警告する。


「仮に帝国海軍が甚大な被害を受けることになれば、ソ連にとっても不利益だ。ドイツ海軍の勢力があまりにも拡大してしまうからね」

「フルシチョフ書記長がそう判断してくださるのなら、よいのですが」

「早くその判断を知りたい。ソ連に参戦を要請しておいてくれたまえ」

「月虹と戦争をすることは、決定事項なのですかな?」

「おっと、すまない。言っていなかった。しかし、今から和平交渉をするなど非現実的だろう? 月虹を討伐する以外の選択肢はないと思うがね。反対の者はいるかね?」


 流石な阿南内大臣も、ここに至って話し合おうとは言わなかった。帝国政府は月虹の討伐を宣言し、再び月虹討伐艦隊の準備を始めたのである。


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