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軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~  作者: Takahiro
第三十章 月虹と世界

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戦争を望む者

 ツェッペリンはすぐさま艦載機を飛ばし、土佐の上空に向かわせた。土佐は確かに、主砲が真横を向いており、砲撃を行った後であることは明らかであった。


「おい、土佐。貴様が飛龍を撃ったこと、相違ないな?」

『はい〜。私がやりましたよ〜』


 いつものぼんやりとした声で、土佐は当然のように言い切った。


「正気か貴様? 自分が何をやったか分かっているのか?」

『もちろんですよ〜。これで、日本と和解することは、できなくなってしまいましたね〜』

「……貴様は何を考えている? 日本と戦争したいとでも?」

『戦争ですか〜。そうですね〜。日本と戦争、したいですね〜』

「……正気か、貴様?」

『私の身の上を知っていたら、理解してくれると思うんですけど〜』

「お前の身の上?」


 ツェッペリンは何のことだかさっぱり分からなかった。


『えっと〜、それは知ってて欲しかったのですが〜』

「いや、そう言われても困るのだが」

「それなら、わたくしから説明します」


 と言って、高雄が横から口を挟んだ。


「土佐さんは元々、加賀型戦艦二番艦として完成する予定でした。しかし、ワシントン条約の制限により、加賀と土佐は廃艦されることになりました。ですが、天城が関東大震災に被災したことで廃艦になり、その代わりに加賀だけが空母に改造されました」

「加賀は空母になって土佐は廃艦された、ということか」

「はい。そういうことです」

『そういうことですので〜、私は、帝国海軍を憎んでるんですよ〜』

「だからと言って、無闇に戦争を仕掛けて何がしたい?」

『報復を、ただ報復を、望んでいます〜。日本を滅茶苦茶にできれば、何でもいいんですよ〜』


 土佐は戦艦として完成させられる前に、進水した段階で標的艦に指定され、海の底に沈められた。生まれた途端に死を宣告され、ほんの数ヶ月の生しか許されなかったのだ。土佐は日本を強く恨み憎んでいた。


「……報復したいなら勝手にすればよかろうが」

『私だけで反乱を起こしても、あっという間に鎮圧されるだけです〜。あなた達が現れてくれて、本当に感謝してますよ〜』

「クソッ。話が通じん奴だな」


 つまり土佐は、最初から月虹を利用して日本と戦争をするつもりだったのである。こんなぼんやりしている少女がこれほどの計画を持っていようとは、誰も夢にも思わなかった。


「貴様の背後には誰がいる? 皇道派とかいう連中なのか?」

『私が人間の道具になる訳なんて、ないじゃないですか〜。私は私だけで、この日をずっと待っていたんですよ〜』

「……そうか。ともかく、これ以上動くなよ。動いたら我の魚雷と大和の主砲弾をぶち込むからな」

『は〜い。わかりました〜』


 土佐は取り敢えずツェッペリンの言うことに従い、主砲を正面向きに戻した。日本と和平に至る可能性は潰えた。土佐はもう目的を果たし終えたのである。


 ○


 ツェッペリンから一先ずの安全を知らされ、東條元帥らは港に戻る。だが飛龍は大破炎上し、自ら航行するのは不可能であった。


「蒼龍、すまないが、飛龍は置いていくことになりそうだ」


 岸壁にて、東條元帥が蒼龍に告げた。


「は? 飛龍ちゃんは私が連れていくに決まってる!!」

「飛龍は、曳航することも困難な状態だ。こここに置いていく他にない」

「ふざけるな!! そんなこと許さない!!」

「すまない。しかし、君までここで死なせる訳にはいかないんだ」

「い、いや、違う……。私が飛龍ちゃんを曳航する!! 早く準備しろ!!」


 だがその時、蒼龍への嫌がらせのように、飛龍艦内から新たな爆発が起こり、飛行甲板のエレベーターが吹き飛んだ。今度こそ弾薬庫が誘爆したらしい。


「なっ……。い、いや、飛龍ちゃん……」

「ん? 蒼龍! 飛龍が目を覚ましたそうだぞ!」


 報告を受けた東條元帥は、放心する蒼龍に叫びかけた。


「えっ? 飛龍ちゃん!?」


 蒼龍はすぐさま兵士達に運ばれている飛龍の許に駆け寄った。


「飛龍ちゃん!」

「蒼龍……。私はもう、ダメみたいだ……」


 飛龍は今にも死んでしまいそうなほどに顔を青くしていた。彼女に伝わる艦の痛みは、全身を引き裂かれるようなものだろう。


「そんなこと言わないでよ!!」

「だから、最期の言葉くらい、聞いて欲しいな……」

「な、何……?」

「蒼龍……どうか、誰も殺し合わずに済む世界を、作ってね……。私の、復讐なんて、考えないでね……」

「わ、分かった! 分かったから! 一緒に帰ろう!!」

「蒼龍も、分かっているよね……? 私はもう、ダメだよ……」

「あ、ああ……嫌よ……」

「元気に、してね……」


 飛龍の腕が力なくぶら下がった。飛龍は浸水が進み横倒しになり、右半分が水面下に沈んで、大量の煙を噴いていた。まさか戦艦に直接砲撃されることなど想定しておらず、応急処置はまるで役に立たなかったのだった。

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