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軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~  作者: Takahiro
第三十章 月虹と世界

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真の黒幕

「私を殺して、どうするつもりなのだね?」


 東條元帥は全く動揺せず尋ねた。


「そうだねえ、君を殺すことは確かだけど、ボク達が殺すんじゃない」

「どういうことだ?」

「君達、帝国政府の方がボク達を攻撃してきて、ボク達はやむを得ず反撃し、東條元帥を殺してしまうんだ」

「つまらん筋書きだな」


 帝国政府が先制攻撃をしてきたということにして武装蜂起の理由をでっち上げるというのが、皇道派の策略であった。政府側の人間を殺してしまえば、誰も真実は分からない。


「そんなことをして、世界がそれを信じると思っているのか?」

「まあ、嘘も百回言えば真実だと言うし、内向きの理由ができれば別にいいんだよ」

「そんな甘い作戦で、上手くいくと思っているのかね?」

「軍事的には、勝ち目は十分にある。いずれにせよ、これから先は君には関係のないことだよ」


 皇道派の兵士達が、東條元帥に銃口を突きつける。今すぐにでも射殺してしまいそうだ。だが、その時であった。突如として会議室に、数十の兵士が突入してきたのである。


「なっ……何だい、君達は?」


 瑞牆は全く知らない様子。何が何だがよく分からないうちに、皇道派の兵士達も瑞牆もあっという間に制圧された。この状況で東條元帥を殺しても最早意味がなく、抵抗はなかった。


「一体何がどうなってるのよ……」


 瑞鶴が全く関わっていないところで自体は急展開していた。瑞鶴はただ呆然と眺めていることしかできなかった。


 皇道派が完全に制圧されると、別の人物が会議室に入ってくる。それは雪風と陸奥であった。


「ちょっと、何がどうなってるのよ?」


 瑞鶴が二人に尋ねる。


「説明は、雪風がします。雪風は元より、憲兵隊に頼まれ、情勢の監視を行っていました。そこで皇道派が今まさにしたような陰謀を計画していることを察知し、実行に及んだ時にそれを潰すよう、事前に用意してきました」

「……あ、そう。じゃあ、陸奥も憲兵隊なの?」

「私は憲兵隊なんかじゃないわ。私は満州派よ」

「満州派に色々と協力していただき、雪風達憲兵隊は、無事に皇道派の陰謀を阻止することができました。既に、皇道派の首魁である吉田茂も逮捕しています。皇道派の野望は、失敗に終わったんですよ」

「ははっ、やってくれるね……」


 皇道派は最初から、帝国政府が先に攻撃したきたとでっち上げ、武装蜂起するつもりだった。憲兵隊と満州派はその情報を察知し、秘密裏に協力。こうして皇道派の野望を食い止め、ついでに皇道派の首脳部を潰すことに成功したのであった。


「ご無事ですか、東條元帥閣下?」


 雪風が尋ねる。東條元帥はなんということはなさそうに眼鏡を直した。


「私は何も問題はない。しかし……満州派は信用できるのかね?」


 元帥は陸奥を睨む。東條元帥にとっては皇道派も満州派も大して変わらないのだ。


「あら、この期に及んでも私を疑うのかしら?」

「満州派が憲兵隊に素直に協力するとは思えん。何か裏があるんじゃないか?」

「そうね。ご名答。流石は東條元帥閣下」

「え、何言ってるんですか、陸奥さん?」

「ふふ。ごめんなさいね、雪風ちゃん」


 と言って、陸奥は雪風の頭に拳銃の銃口を向けた。


「んなっ……。な、何考えてるんですか、陸奥さん?」

「東條元帥の仰る通り、満州派が憲兵隊に素直に協力する訳がないのよ。私達は私達でやりたいことがあるから、憲兵隊を利用させてもらっただけ」

「クッ……。やはり満州派など信用するべきではありませんでしたか」

「悪く扱うつもりはないから、安心してちょうだい」

「それで、満州派の諸君は、何がしたいのだね? 私を殺すのか?」


 東條元帥が再び尋ねる。


「そのつもりはないわ。満州派は帝国と戦争をするつもりなんて全くない。満州派にとっての昭和維新は、日本の国力を高め、八紘一宇を実現することよ」

「石原莞爾大将の受け売りか」

「だって満州派なんだから、当然でしょう?」

「……ねえ、今どういう状況なの? ちょっと説明して欲しいんだけど」


 瑞鶴が空気を読まずに問いかけた。瑞鶴が全く関与しないところで勝手に話が進み、瑞鶴は訳が分からなくなっていた。


「単純な話よ。憲兵隊と満州派が一緒になって皇道派を叩き潰して、今は満州派が憲兵隊を裏切って主導権を握っているところ」

「あー、そう。で、その満州派は何がしたいの?」

「私達の望みは、あなたの望みと同じよ。船魄に自由をもたらすこと」

「それだけ? 皇道派みたいに政治改革とかは言い出さないの?」

「そんなつもりはないわ」

「どういうつもりよ。人間に利益がないじゃない」


 満州派がただただ船魄を思い遣るだけの集団だとは、瑞鶴は思えなかった。必ず裏があるに違いないと。


「さっきも言ったでしょう? 満州派にとっての昭和維新とは、日本の国力を――つまり軍事力を高めることにあるって。その為には、船魄の力を開花させるべきなのよ」

「……それと船魄の自由に何の関係が?」


 どうやら満州派は船魄を戦争に使う気満々のようだ。船魄の自由を求める月虹とは正反対に思える。瑞鶴は全く訳が分からなかった。

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