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軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~  作者: Takahiro
第三十章 月虹と世界

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ハワイ警備艦隊の造反

 帝国政府は硬軟織り交ぜた対応を進めていたのだが、突如として更に驚くべき報せが帝都に飛んできた。


「な、何だって? ハワイ警備艦隊が消えただって?」

「はい、首相閣下。ハワイ警備艦隊所属の全ての艦艇が脱走しました。恐らくカリブ海に向かっているものかと思われます」


 神大将が池田首相に報告する。ハワイ警備艦隊に所属する艦艇といえば、大鷹・土佐・天城・大淀・夕張・白露・時雨・江風である。それらが一晩のうちに消え去ったと言うのだ。


「大変なことじゃないか……」

「大変申し訳ありません。まさか皇道派がここまで派手に動いてくるとは」

「まあいい。起こったことを気にしても仕方がない。ハワイ艦隊を追跡とかしているのか?」

「寧ろハワイ警備艦隊が東太平洋の監視役でしたので彼女らの消息は不明と言わざるを得ません」

「まあ、位置としてはそうなるか。別に船魄じゃなくても、追いかけるくらいはできるんじゃないか?」

「既に現地の部隊にその対応を命じています。しかし慣れないことですし接近することは大きな危険を伴いますから期待はしない方がよろしいかと」


 帝国軍人が輸送船と潜水艦以外の船に乗らなくなってから10年以上が経った。帝国海軍はすっかり船魄に依存しきっている。


「そうか。いや、そもそも、ハワイに人間が動かせる船はあるのか?」

「練習用の巡洋艦ならば一応あります。速度は問題ありませんが戦闘能力は皆無です。潜水艦はありますが今回は役に立ちません」

「やはり期待できないか……」

「はい。空軍にやってもらうという方策も、考えられなくはありませんが」


 神大将は嫌々ながらといった様子で言った。空軍はほとんど陸軍航空隊を母体としているから、海軍としては対抗意識が強いのである。


「空軍か。源田大将、どうかな?」


 空軍総司令官の源田実大将に、池田首相は尋ねた。


「敵には空母もあり、高射砲も数多くあり、戦略爆撃機であっても危険を伴います。海軍がよろしいのであれば、安全な範囲で追跡を行いましょう」

「安全な範囲、か。あまり期待はできなさそうだな」

「それほどに、人間にとって手に負えない存在を生み出してしまったということです」

「真理だね」


 空軍としてもこんなことで犠牲者を出したくはないので、もしもハワイ警備艦隊が抵抗してきた場合は役に立たなさそうである。


「しかし、本当に皇道派にこんな真似ができるのか? もっと大きな力が働いている気がするんだが」

「大きな力、ですか」


 首相の曖昧な言葉に、神大将は腑に落ちない様子。


「皇道派以外に、この脱走劇を仕組んでいる連中がいるかもしれないということだ」

「皇道派の他で主流派に反抗的な派閥ですか」

「ああ。それでいて、それなりの実行力を持っている連中と言えば……」

「満州派しか考えられません」


 満州派というのは皇道派と同じく陸海空軍に支持者を持つ派閥である。しかし皇道派のように取り立てて政治思想がある訳でもない、奇妙な集団である。


 満州派は元々、満州事変の首謀者こと石原莞爾大将自身やその弟子達が名乗った派閥である。そう名乗ったのは彼らが統制派にも皇道派にも属さないことを示す為であって、何らかの思想信条がある訳でもない。石原大将亡き今となっては、誰が指導者なのかもよく分からない寄合い所帯である。


「まあ、そうは言っても、皇道派と満州派は死ぬほど仲が悪いと思うんだけどね」

「はい、その筈です。しかし何らかの利害の一致があったのかもしれません」

「一緒になって我々に何かの要求を突きつけてくるつもりだろうか」

「そのくらいしか考えられません。皇道派も満州派も不満を持った分子の集まりという点に変わりはなく共通する事項も多いでしょう」

「もしもそうなのだとしたら、その調査もしないといけないな。まあそこら辺は憲兵隊にやってもらうとしよう」


 推測に推測を重ねて議論をして結論が出るのは、推理小説の中だけである。池田首相はこの話題を打ち切り、より現実的な相談を始める。


「ハワイ警備艦隊が月虹にそっくりそのまま加わったとして、海軍は対処できるか?」

「無論です。土佐型戦艦は強力な戦力とはいえ41cm砲艦に過ぎず大和の相手にもならなりません。天城も同様です。然るに和泉型戦艦を送り込めば軍事的な対処は容易です」

「分かった。はぁ、まったく、またやることが増えてしまったよ」

「ここまでされても月虹と交渉する意向に変わりはないのですか?」


 神大将が池田首相に尋ねた。


「まあ、そうだね。阿南さんも、よろしいですよね?」

「うむ。今回の反乱も瑞鶴が積極的に加担した訳ではあるまい。背後関係を調べあげ、何者と交渉するべきか判断しなければならん」

「承知しました。海軍に準備してもらうことに、特に変わりはない。まあ必要とあれば戦力を増強してもらって構わないが」

「その必要はありません」

「じゃあ、そのままでよろしく頼むよ」


 月虹と全面戦争に突入するのか、それとも血を流さずに自体を解決できるのか。結果が分かる日はそう遠くあるまい。

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