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軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~  作者: Takahiro
第三十章 月虹と世界

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急拡大する月虹

 それから暫く、瑞鶴は瑞牆から突然、月虹に合流するつもりだと告げられた。


『――そういう訳で、これからよろしくね、瑞鶴』

「ちょ、ちょっと待って。そんな急に来られても困るんだけど」

『何が困るのかな?』

「いや、まあ、その、そんな急に艦が増えたら、補給と整備が間に合わないでしょ」


 プリンツ・オイゲンとザイドリッツが急に来てアメリカ海軍を困らせていたところ、それどころではない艦艇達がやって来るのだ。雪風以外は主力艦と呼べる排水量を誇り、整備の負担は非常に大きい。


『安心してくれ。そこを無計画で来た訳ではないよ』

「……何かアテでもあるの?」

『皇道派が船魄だけな訳がないだろう? 海軍の輸送船を何隻か拝借して、特に皇道派に強く共鳴している人間についてきてもらっている』


 物資も人手も皇道派から用意するということである。


「あ、そう。無駄に準備がいいのね」

『君達に迷惑は掛けないよ』

「勝手に来るだけで迷惑よ」

『そうかい? 君達も戦力が増えるのはいいと思ったんだけど。ああ、ボク達は君の指揮下に入るつもりでいるよ』

「そういう問題じゃないわよ。こんな派手なことやらかしたら、日本と和解するなんて不可能になるわ」


 瑞鶴は日本と争うことを望んでいない。相互不干渉でいられれば、それでいいのである。いくらなんでもこんな規模の脱走を日本が見逃してくれる筈がない。


『和解ねえ。そんなの、根本的に不可能だよ。いずれ条件が整えば、帝国海軍は君を捕獲しに動くよ。今度は大和と一緒に君も解剖されるかもね』

「……否定はできないわね」


 日本が月虹に今のところ手を出していないのは、アメリカやその背後にいるドイツと戦争する訳にはいかないからだ。月虹を吸収する利益より第三次世界大戦を起こす不利益の方が遥かに勝るから、現状維持が最善だと判断しているに過ぎない。


 将来的にこの外交状況が変われば、帝国海軍が月虹を攻撃してくることは否定できない。いや、確実と言ってもいい。


『だからこそ、日本に対抗できる軍事力を自前で持った方がいいと思わないかい?』

「確かに、自分の安全は自分で守る他にないわ。でも、あなた達が加わったとしても、帝国海軍と本気でやり合うなんて不可能でしょ。そんな戦力を維持できるとも思えないし」

『まあ、それはそうだね。帝国海軍の半分を寝返らせるなんて、現実的じゃない』

「でしょう?」

『とは言え、ボク達と戦争をしても割に合わないと思わせられるほどの戦力を整えられれば、安全は確保できると思わないかい?』


 帝国海軍に最終的に勝つことはできないとしても、戦争の過程で帝国海軍が耐え難い損害を受けるのであれば、日本は月虹を攻撃できない。ドイツやソ連にそんな隙を見せる訳にはいかないからだ。抑止力の本質とは、戦って勝てる戦力を用意することではなく、敵を思い留まらせることにある。


「それはまあ、一理あるわね。もっとも、そんな戦力を揃えられるかも疑問だけど」

『それくらいなら、十分に可能だよ。ボク達の他にも、裏切る気の船魄はいるからね』

「……そう」

『それで、ボク達を受け入れてくれるかい?』

「あんた達は結局、何がしたいの?」

『ここで決起し、皇道派に政権を譲らせる。そして船魄にも待遇改善を迫るつもりだよ。そこのところの望みは、君達と同じじゃないのかな?』

「本当に信用できるのかしら? あんたも騙されてる可能性はあると思うけど?」

『まさか。あり得ないね』

「あ、そう」


 瑞鶴は未だに皇道派など全く信用できない。


『このくらいで説明はいいかな?』

「そうね。そもそも、あんた達を見捨てるってのは、選択肢にないわ」

『懸命な判断だね』


 助けを求めた船魄達を見捨てたとあれば、瑞鶴の求心力や月虹の正当性が失われる。瑞鶴は瑞牆の要求を受け入れるしかないのである。


 瑞鶴はその後、ケネディ中将にこの件を相談した。中将はかなり難色を示したが、受け入れざるを得ないということには納得してくれた。アメリカの経済的な負担が最小限になるという条件付きではあるが。


 ○


 瑞牆達は取り敢えず、フロリダ海峡の海上要塞に入った。メイポート補給基地ですぐに受け入れることは困難だった。


「直接会うのは初めてかな、瑞鶴。武尊型大型巡洋艦三番艦、瑞牆だ。よろしく」


 船魄達を引き連れて、瑞牆は瑞鶴と対面した。


「ええ、そうね。瑞鶴よ、よろしく」

「直接顔を合わせるのは、多分全員が初めてよね?」


 陸奥が尋ねてくる。


「そうね。あんたは陸奥かしら」

「ええ。私が陸奥よ」

「連合艦隊旗艦様が裏切りねえ」

「旗艦なんて大昔の話よ。それと、こっちは雪風ちゃんで、こっちは信濃ちゃんね」

「そう。よろしく」


 こんないきなりのことで、互いを信用できる筈もない。未だ空気は張り詰めている。と、信濃が言葉を発した。


「瑞鶴、我は大和の姉様に会いたい。姉様はどこにいるのか」

「あんたはそうでしょうね。すぐに会わせてあげるわ」

「感謝する」

「他の皆は取り敢えず、空き部屋にでも行って休んでいて。高雄が案内するわ」


 瑞鶴は信濃を大和の待つ会議室に連れていき、高雄に他の三名を案内させた。

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