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軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~  作者: Takahiro
第三十章 月虹と世界

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勝手に動く世界

 翌日。海上要塞で東條元帥と瑞鶴は会談していたが、思いもよらないことを聞かされる。


「すまない、瑞鶴。ドイツから、今回の件をなしにするとの電文が届いた」

「え……何で?」

「どうやらドイツ政府に、我々がドイツの軍艦を掠め取ろうとしていると勘違いされたらしい」

「オイゲンもザイドリッツも勝手に脱走しただけでしょ?」

「もちろんそうだ。しかし、ドイツとしてはよく思わなかったようだ」


 どうやら日本と月虹がオイゲンとザイドリッツの脱走を手引きしたと思われているらしい。まあこんな時に脱走事件が発生すれば、そう疑われても仕方はないが。


「ゲッベルスと話をつけてよ。私達は知らないって」

「一応は言っておくが、ドイツに不信感を持たれてしまった。交渉は上手くいかない公算が高いだろう」

「……そう。無理ってことね」


 東條元帥の言い方から、ドイツと交渉を成功させるのは無理そうだと瑞鶴は察した。元帥も否定はしなかった。


「元より薄氷の上を歩くような計画だった。少しでも綻びが生じれば、すぐに破綻してしまうものだ」

「あ、そう。それより、本当にオイゲンとザイドリッツは自分達で逃げ出したの?」

「恐らくは、アメリカが背後にいる。アメリカにとっては今回な話は破談になった方がよい」

「……そう。微妙な状況ね」

「このことは内密にしておいた方がよかろう。君達の為にも」

「そうね。ドイツから返事が来たら、教えて」

「了解した」


 東條元帥はドイツとの交渉を試みたが、ドイツからの回答は拒否であった。すなわち、グラーフ・ツェッペリンの所有権を譲渡するつもりはないということである。また同時に、プリンツ・オイゲンとザイドリッツの返還も要求してきた。


 元帥は瑞鶴にこの結果を伝えた。


「――どうせそんなことだろうとは思ってたわ。はぁ」

「申し訳ない。ドイツにここまで言われてしまっては、無視することもできん」

「じゃあ、この話はなかったことにしましょう」

「そうだな。しかし、君達と共存する道を探りたいとは思っているんだ。くれぐれも、余計な諍いは起こさないでもらいたい」

「そんなことしないわよ。何でわざわざ戦争に巻き込まれないといけないの」

「今後とも、その態度は変えないでもらいたい」


 オイゲンとザイドリッツのせいで、月虹が日本に戻ることは叶わなくなった。まあ瑞鶴としてはそこまで望んでいた訳ではなく、アメリカに庇護される現状に不満がある訳でもない。


 さて、ここまでの話を月虹の船魄達に伝えると、ツェッペリンがすぐに不満をぶちまけた。


「そんなことで交渉を破談にしたのか? 我を置いていけば済む話だったろうが!」


 ツェッペリンは怒っていた。


「え、独りになるのが嫌だったんじゃないの?」

「べ、別に、その程度どうということはないわ!」

「そう? じゃあ、何で私達に日本に行って欲しいの?」

「それは……お前達が安全を手に入れられるのなら、それがよかろうと思ったからだ」

「私達のことを気にしてくれてるのね」

「そ、そんなことではないわ!」


 要するにツェッペリンは、妙高に安全な生活を送って欲しかったのである。その為ならば月虹から離れてもいいとの所存である。


「まあどの道、あんたを捨てるってことにしても、上手くはいかなかったと思うわ」

「そうか?」

「ええ。あんた一人がいてもいなくても、大して変わらないわよ」

「何だと!?」


 実際のところツェッペリンの存在は今回の計画に大きな影響を及ぼしていたが、瑞鶴は断固としてそれを否定した。


「さて、これからも暫くはアメリカにいることになりそうね。まあ、日本に戻りたいって言うなら止めはしないけど」


 妙高、高雄、愛宕、それに大和も、日本に戻りたいとは言わなかった。最終的に起こった変化は、オイゲンとザイドリッツが亡命してきたことだけである。そのお陰で月虹はドイツにこれまで以上に目の敵にされそうだが。


 ○


 一九五九年一月十七日、コスタリカ、プエルト・リモン鎮守府。


 月虹が消滅しかけたということを聞き、焦っている者がいた。皇道派を自称する武尊型大型巡洋艦三番艦、瑞牆である。


 高度経済成長によって貧富の格差が急速に拡大し、一君万民論を唱える皇道派は勢いを増していた。皇道派が発祥した陸軍では当然のこと、海軍や空軍にも皇道派の思想は広まっている。


「――ふふ、お偉いさん方も焦っているみたいだ。そろそろ動くとするかな」


 中央からの電信を受け取り、瑞牆は密かに動き始めた。最初に彼女が向かったのは、何を考えているのか分からない陸奥の部屋であった。


「やあ、陸奥」

「何の用かしら? あなたが来るなんて初めてだけど」


 陸奥は瑞牆を睨みつけながら。


「まあまあ。そう怖い顔はしないでくれ。ボク達皇道派は、そろそろ動き始めることにしたんだ」

「ふーん。戦時中の方が動きやすいでしょうに」

「戦時中に争いを起こすなんて、裏切りも同然だろう? 平和な時にこそ、維新が必要なんだ」

「維新、ね……。やっぱり皇道派の考えていることはロクでもないようね」


 皇道派の唱える昭和維新とは、現在の帝国政府を打倒し君側の奸を廃して、天皇と全人民を直結させるというものだ。要するに軍事クーデターである。

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