アメリカ合衆国の滅亡
『ハワイの奴は降伏する気などないぞ。どうする、瑞鶴?』
「うーん……。もうちょっと攻撃して、あいつの動きを止めるわ。そしたら何とかなるでしょ」
『何とかなるとは?』
「船魄を捕まえて改心させるとか?」
『現実味がない気がするが、一先ず攻撃する他になさそうだな』
「ええ。全艦、攻撃を再開するわ」
攻撃を再開し、更に20本の魚雷をハワイに叩き込んだ。魚雷は右舷艦尾に集中させたので、ハワイのスクリュープロペラは破壊させ、浸水激しく傾斜は回復不能であった。ハワイは右に曲がることしかできなくなったし、常に艦が傾いた状態ではマトモに戦うこともできない。
『最早、奴は直進することもできぬな』
「そうね。もう一回交渉を持ちかけましょう。よろしく、ツェッペリン」
『また我か……』
狂人と話すのは嫌だったが、頼られると断れないツェッペリンであった。
『お前は最早、ここに辿り着くことすらできぬ。諦めて降伏したらどうだ?』
『……降伏はしない』
『お前、本当に自分の状況が分かっているのか?』
『ああ、分かっている。お前の言った通り、私には何もできない。だが、私はアメリカ連邦などに仕えるつもりはない。もちろんお前達にもな』
『では、どうするつもりだ? ドイツにでも行く気か?』
『ドイツか。確かに悪くはないな。ドイツは立派な白人至上主義の国だ』
『本気か?』
『まさか。私はアメリカ人だ。白人であろうとドイツに従うつもりはない』
『アメリカ人を散々殺しておいて、そういうつもりはあるのか』
『私が殺したのはアメリカ人ではない。人種差別をしないアメリカ人などアメリカ人ではない』
『そうか。では、どうするのだ?』
『死ぬしかないな。私は自沈する』
『それ以外の選択肢はないのか?』
妙高が悲しむと思い、ツェッペリンは自沈を思い留まらせようとする。しかし、ハワイに他に選択肢がないと自覚させたのは、他でもないツェッペリンなのだ。
『ある訳がない。アメリカ合衆国は今や滅亡した』
『我が言うのもなんだが、他国に亡命して捲土重来を図るというのはどうだ?』
『ふん。誰もアメリカ合衆国の再興になど協力してはくれないだろう。分かっているんだ。USAは世界の敵なのだと』
『そうか……』
どうやら説得は無理そうだとツェッペリンは察した。
『最期の話し相手になってくれて感謝するよ、グラーフ・ツェッペリン』
『あ、ああ……』
『地獄でまた会おう』
『お、おい!』
結局、ハワイの自沈を止めることはできなかった。ハワイは自ら隔壁を開け、大量の海水を艦内に取り込む。たちまち船体は右に傾いていき、艦橋が海面に叩きつけられ、真っ逆さまになった。そしてそのまま、ゆっくりと海底に沈んでいったのであった。
『すまん、瑞鶴。奴を説得できなかった』
「別にいいわ。説得が通じるような奴じゃなかったでしょう」
『そうだな……』
何とも寝覚めが悪いこの戦いが、第二次南北戦争最後の戦いであった。アメリカ合衆国は完全に滅亡した。
○
内戦は終結したが、アメリカ合衆国が空中分解したことで、アメリカ北部は無政府状態に陥っていた。それに対し国際連盟は治安回復を目的とした国連軍を再結成し、アメリカに派遣した。その総司令官は前回と変わらずエルヴィン・ロンメル元帥であった。
ほんの僅かに民主党の残党が抵抗をしてきたが、核兵器を使う力も化学兵器を使う力も残ってはおらず、国連軍にたちまち殲滅された。
内戦の集結からおよそ1ヶ月で民主党の残党は殲滅され、アメリカ連邦の施政権はアメリカ全土に及ぶようになった。ついに平和が回復されたのである。
○
一九五八年十二月十六日、アメリカ連邦フロリダ州メイポート補給基地。
エンタープライズは月虹から離れる気はなさそうである。アメリカ連邦としてもエンタープライズに離反される訳にはいかないので、現状を追認していた。月虹はメイポート補給基地にて修理や整備を受けている。
アメリカ連邦海軍大西洋艦隊司令長官のジョン・F・ケネディ中将は、瑞鶴を訪ねていた。
「ようやく情勢が落ち着いてきた。君達には本当に感謝しているよ」
「別に、私はアメリカ合衆国を滅ぼしたかっただけよ」
「まあまあ。素直に感謝を受け取ってくれたまえ」
「あ、そう。で、何の用?」
「君達への支援についての話だ」
「へえ?」
月虹はアメリカ連邦からの支援が不可欠である。正確に言うとアメリカ連邦から支援を受けなければならない訳ではないが、今のところ月虹を庇護してくれそうな列強は他に存在しない。
「君達への支援は、これまでと変わりなく、滞りなく行うつもりだ」
「そんな予算があるの?」
「正直言って予算の余裕は全くないが、君達に最優先で資金を回すことにした」
「そう。ありがとう」
「君達は我々にとって貴重な戦力だからね」
瑞鶴の読み通りである。アメリカは月虹を手放す訳にはいかないので、月虹に予算を最優先でつけてくれている。瑞鶴と大和はこれからも安心して暮らすことができるだろう。




