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軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~  作者: Takahiro
第二十九章 外交攻勢

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リッチモンド陥落

 グナイゼナウとセヴァストポリの砲撃戦は激しさを増し、お互い傷だらけになっている。艦体のあちこちに穴が開き、炎と煙が上がっていた。


「なっ……主砲が動かない、のか……」


 艦内の電装系が吹き飛ばされたのか、グナイゼナウの前部の砲塔2基が動かせなくなってしまった。致命的な損傷と言わざるを得ない。


『あらあら、大変そうなことになっているわね』


 オイゲンは相変わらず危機感が欠けている。


「まったくだ。大変なことになっているよ」

『主砲が動かないんじゃ、もう負けたようなものじゃない』

「その通りだ……。私は君と違って運がない」

『私と同等の幸運に恵まれる訳がないでしょう。思い上がらないことね』

「それはどう解釈すればいいんだ……?」


 まだ撃沈には程遠い状況であるが、戦闘能力はほとんど失われたようなものである。主砲が残り2門だけでは話にならない。今回ばかりはグナイゼナウの運が悪かった。


『で、どうするのかしら? このままあなたにセヴァストポリの囮をしてもらえば、戦えなくもないけど』

「いや、すぐに私の主砲が動かなくなったと気付かれるだろう。そうなったらどうしようもない」

『そう。なら、逃げるしかないわね』


 グナイゼナウが脅威ではないと敵に知られれば、セヴァストポリの30.5cm砲が重巡洋艦に向けられる。これにはデモインですら全く耐えられないから、大きな損害を受けることが予想される。


「非常に遺憾だけど、ここは撤退しよう。全艦、直ちに撤退! 作戦は中止だ!」

『またロシア人風情から逃げるなんて、不愉快極まるけどね』

『姉さん、そういう発言は控えた方がよろしいかと』

『一々うるさいわねえ』


 グナイゼナウが実質的に無力化されたことで、またしてもアメリカ北部の制海権はUSAとソ連に移ってしまった。セヴァストポリに対抗できる巡洋戦艦はドイツ海軍にはグナイゼナウしかおらず、グナイゼナウの修理が終わるまでは手が出せないだろう。


 ○


 一九五七年十月二十七日、アメリカ連邦バージニア州、臨時首都リッチモンド。


 アメリカ連邦の最高指導者レイモンド・スプルーアンス総督は、海軍軍令部長フレデリック・シャーマン大将から第二次ロードアイランド沖海戦の結果の報告を受けた。シャーマン大将自身はフロリダにいるので、電信で報告を受け取った。


「やはり、グナイゼナウではセヴァストポリに勝てないか」

「戦艦を出す訳にはいきませんし、まさかこんなところで巡洋戦艦が必要になるとは」


 アーレイ・バーク首相は言う。巡洋戦艦という中途半端な艦種は世界的に削減傾向なのだが、今ばかりはそれが必要なのである。巡洋戦艦はCAにもUSAにも一隻もなく、ドイツ海軍にはグナイゼナウしかない。日本の武尊型大巡洋艦が来てくれればいいのだが、それは期待できない。


「やはり、航空戦力で敵を叩くべきではありませんか?」

「確かにそれならセヴァストポリも沈められるだろうが、敵がコメットを出してきたらこっちの通商破壊部隊も壊滅するぞ」

「……そう、ですね」


 スプルーアンス総督としては、やはり航空戦力の投入は支持できない。コメットは巡洋艦にとって簡単に致命傷になってしまう。巡洋艦なしで海上封鎖はできない。


 と、その時であった。制海権より心配しなければならない問題が、伝令と共に飛び込んでくる。


「申し上げます! 第8防衛線が突破されました! 敵がリッチモンドに侵入してきます!」

「まあ、それなりに時間は稼げたというものか」


 1ヶ月ほど前からソ連製の戦車が大挙してリッチモンド防衛線を攻撃していた。CA陸軍は肉弾戦術で何とか防衛線を維持していたが、それも限界のようだ。


「リッチモンドに籠城することも不可能ではありませんが、どうされますか、総督閣下?」


 バーク首相が問う。市街地というのは戦車にとって最大の難敵である。市街戦でUSAに抵抗し続けることも不可能ではない。


「リッチモンドは臨時首都に過ぎない。ここにこだわる理由はないだろう。我々は撤収する」

「市民を置き去りにすることになります」

「仕方がない。ここで市街戦をするよりは、犠牲は少なくて済むだろう」

「そう信じたいものです」


 アメリカ連邦政府はリッチモンドを放棄した。リッチモンドはワシントンの近くにあったから首都機能を置いていただけで、それほどの重要性はない。新たな臨時首都はノースカロライナ州シャーロットに定められた。


 ○


 アメリカ合衆国はアメリカ連邦の首都を陥落せしめたと高らかに宣言した。そしてトルーマン大統領は軍と共にリッチモンドに入っていた。


「私が見たところ、リッチモンドの民主主義指数は著しく低下してしまっている。独裁者の根城だったのだから、仕方ないとも言えるが。何であれ、徹底した民主化が必要である」


 トルーマンは腹心達にそう告げる。


「手始めに、アンダーソン市長を処刑するぞ」

「市長は選挙によって選ばれたと思いますが、よろしいのですか?」


 CIA(中央情報局)のアレン・ダレス長官が尋ねる。アメリカ戦争で国際連盟に処刑されたジョン・ダレス国務長官の弟である。


「アメリカ合衆国の監督下で行われていない選挙は全て非民主的な犯罪であり、ファシストのプロパガンダに過ぎない」

「分かりました。後のことはCIAにお任せを」


 CIAは早速、リッチモンドのアンダーソン市長を拘束。結論の決まりきった即席裁判を開始した。

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