第二次ロードアイランド沖海戦
ロードアイランド沖海戦は戦術的にはCAが優位であったが、戦略的にはUSAの勝利であった。一時的にせよアメリカ沿岸からCA海軍や月虹を排除できたからである。この隙にソ連は輸送船団を幾らか送り込み、半分は発見されずワシントンに到着することができた。
航空戦力によってUSA海軍やソ連海軍の巡洋艦を攻撃することも不可能ではないが、そうするとUSAがコメットを投入してくる虞があり、迂闊にその手段は取れなかった。可能な限り水上戦力の相手は水上戦力だけで、というのがCA海軍の戦略である。
さて、CA海軍はドイツ海軍に援助の要請を飛ばし、グナイゼナウ率いる大洋艦隊第二隊群の協力を得ることに成功した。ドイツ海軍、月虹と協力して、アメリカ北部の制海権を再び確保するのである。
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一九五七年十月二十七日、ロードアイランド州沖合。
ドイツ海軍のグナイゼナウ、プリンツ・オイゲン、ザイドリッツが加わって、CA側の重巡洋艦は七隻となった。妙高はかなり損傷していたが、今回も参加する。巡洋戦艦のグナイゼナウもおり、前回と比べて戦力は大幅に向上していると言えるだろう。
今回の旗艦はグナイゼナウとされた。空母もいない以上、戦艦が旗艦になるのは自然な流れだろう。
「今回の私達の目的は、敵の巡洋艦部隊に壊滅的な打撃を与え、この辺りの制海権を確保することだ」
『で、できれば、船魄を殺さないようにしてもらいたいのですが……』
妙高はグナイゼナウにおずおずと要請した。
「もちろん、できるだけ殺さないようにはするよ。しかし、それに配慮して作戦目的が達成できないという事態は、避けないといけない」
『そう、ですね……』
必要とあれば船魄であっても殺すというのがグナイゼナウの方針であった。もちろん積極的に船魄を殺したいとは思わないが、あくまで作戦目標の完遂を第一とする。
グナイゼナウ艦隊はロードアイランド州の沖合に進出。USA海軍とソ連海軍はグナイゼナウ艦隊を排除するべく、前回と同じような巡洋艦部隊を出撃させた。しかし、敵にも前回はいなかった艦が加わっていた。
『敵にやたらデカい艦がいるけど、何なのかしら』
愛宕が呑気な感じで尋ねると、高雄がヤレヤレと言って答える。
『クロンシュタット級重巡洋艦です。重巡洋艦と名乗っていますが、実質的には巡洋戦艦。全長およそ250mで、30.5cm砲9門を装備しています』
『巡洋戦艦ねえ。こっちの巡洋戦艦で勝てるの?』
愛宕はグナイゼナウに挑発的に尋ねる。
「クロンシュタット級は、私よりかなり新しい艦になる。戦闘能力としては、私は劣っていると言わざるを得ないね」
『はぁ。あなたが勝ってくれないと困るのだけど』
「確かに、それはそうだろうね。私が負けそうなら早々に逃げてもらって構わないよ」
『ええ、その時はそうさせてもらうわ』
愛宕はグナイゼナウが危機に陥っても助けるつもりはない。実際、クロンシュタット級に普通の重巡洋艦が対抗するのは困難なので、その判断は間違ってはいない。言い方は甚だ問題だが。
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両艦隊は単縦陣で接近し、同航戦に突入した。
「それじゃあ、戦いを始めるとしようか。全艦、撃ち方始め!」
戦端を開いたのはグナイゼナウであった。重巡洋艦はお互いを撃ち合い、クロンシュタット級二番艦セヴァストポリとグナイゼナウが互いを全力で砲撃する。
グナイゼナウは38.1cm砲という戦艦用の主砲を背負っているが、その数は6門に過ぎない。セヴァストポリは9門である。主砲口径に大きな違いがあり、計算上の投射鉄量はグナイゼナウの方が上なのだが、グナイゼナウは30.5cm砲弾にほぼ耐えられないので、数が多い方が優位かもしれない。
また、防御力は確実にセヴァストポリの方が上である。セヴァストポリは39,000t、グナイゼナウは32,000tと大きな差がある。
グナイゼナウの砲弾はセヴァストポリに2発命中。流石に戦艦級の主砲を喰らえばセヴァストポリも耐えられず、装甲の貫通を許す。一方でグナイゼナウは3発を被弾し、やはり装甲は役に立たなかった。
「なかなか、痛いじゃないか……。私は設計が古いからなあ……」
『上から撃たれるのに弱いんだったかしら?』
プリンツ・オイゲンが挑発的に尋ねてくる。愛宕といいオイゲンといい、旗艦に敬意を払う気がなさすぎる。
「そうだね。水平装甲は破片避け程度にしかならない」
『可哀想にね』
グナイゼナウは舷側装甲は戦艦との撃ち合いに耐えられる厚さを持つのだが、水平装甲が非常に薄い。第一次世界大戦くらいの時代であればよかったが、交戦距離が伸びきっている現代では、砲弾は上から降ってくるのである。
「同情してくれるだけ嬉しいよ」
『砲弾が当たる気持ちは分からないから、同情はできないわね』
「君は特殊すぎるよ」
グナイゼナウは上甲板から炎を上げながら、セヴァストポリへ砲撃を続ける。セヴァストポリの攻撃はなかなか痛く、オイゲンの幸運が羨ましくなった。




