バハマ沖海戦Ⅱ
「およそ40機を落としました。続けて攻撃します」
「その調子だ。頼むぞ……」
「はっ」
戦艦六隻の主砲一斉射は、やはり圧巻の一言。爆炎はまるですぐそこに太陽が現れたかのようだ。その炎に飲み込まれた艦載機はたちまち粉砕され、粉々になった残骸が次々と海に落ちていく。だが、敵はあまりにも多かった。
「まだまだ敵は減っていません。残存、およそ700」
「外周の部隊が攻撃を受けています!」
「まずは堅実に、ということか」
700機以上が残った状態で、CA海軍航空隊は早くも米ソ連合艦隊の外縁に到達した。外周を守る駆逐艦や巡洋艦に攻撃が集中する。
「スヴェートルイ、轟沈!」
「その程度の犠牲は、想定内だ。だが、すまないな、ソユーズ」
「い、いえ……」
早くも船魄が失われてしまった。ソビエツキー・ソユーズはその怒りを敵にぶつける。
「クッ……落としても落としてもキリがない……」
「アルマ=アタ、轟沈!」
「スヴェルドロフ、大破炎上。戦闘続行は不可能。大将閣下に指示を乞うとのこと!」
つまるところ、自沈させるかこのまま放置するかを選べということだ。
「同志ゴルシコフ、どうされるのですか……?」
ソユーズは問う。自沈させて欲しくないとは、直接には言えなかった。こうやって遠回しに訴えるしかないのである。
「我が軍としては屈辱ではあるが……敵に鹵獲されることもやむなし。自沈の必要はない。消火を続けさせよ」
「よかった……」
「こんなところで気を抜くな、ソユーズ」
「も、申し訳ありません」
敵は輪形陣の中心、戦艦や空母には手を出していない。そのせいで戦艦の対空砲火を有効に活用できず、外周部の艦に次々と被害が出ているのだ。
CA海軍は米ソ連合艦隊の輪形陣を左から攻撃し、次々と艦を沈め、或いは無力化した。僅か20分ほどの戦闘で駆逐艦6隻と巡洋艦2隻が轟沈し、11隻の艦が炎上するなどして戦闘能力を喪失した。
「左翼の被害は甚大です。ここまでしてくるとは……」
ソユーズは悔しさに拳を握りしめる。
「外周部を飛び越えて戦艦を直接叩く方が、寧ろ異常というものだろう」
「ま、まあ、確かに」
「そして、外周を食い破ったということは、そろそろ我々に襲いかかってくる頃合だろうね」
「どうやら、同志ゴルシコフの仰る通りのようです」
輪形陣を部分的に破壊したCA海軍は、いよいよ戦艦に襲い掛かってくる。随分と落としたのだが、それでもまだ敵は500機以上が残存していた。
ソビエツキー・ソユーズは高角砲と高角機関砲を最大限に活用して迎撃に努めるが、やはり敵の数はあまりにも多く、幾ら落としても次が出てくる。
「ッ! 雷撃が来ます! 衝撃に備えてください!」
「いきなりか……」
それは犠牲を省みない強行突破であった。CA海軍機が15機ほど一列になって、低空からソユーズに突入。先頭から次々と落とされるが、生き残ったものが魚雷を投下する。あまりにも無理やりだが、実際ソユーズはそれを防ぎきれなかった。
命中した魚雷は4本。ソユーズの船体が激しく揺さぶられる。敵の狙いは今回もソユーズのようだ。
「右舷に浸水が発生。直ちに対処します」
「問題はなさそうだな」
「はい。この程度で戦闘に支障はありません」
「だが、敵は恐らく、全滅してでも君を仕留めに来るぞ」
「もしも私が沈めば、党はどうするのでしょうか」
「どうだろうね。これ以上戦艦を失う訳にはいかないということで、党はUSAへの支援は打ち切りにするかもしれない。或いは、君の仇討ちということで、更なる派兵を決定するかもしれない」
もしもソビエツキー・ソユーズ撃沈などという事態になれば、ソ連の政策に重大な影響を及ぼすことは間違いない。それが戦争終結に向かうのか激化に向かうのかは全く分からないが。
「……そんなことを考えている場合ではありませんね」
「そうだな。誰も沈まないのが一番に決まっている」
「無論です」
輪形陣の中心は、最も対空砲火が集中する場所である。ノヴォロシースクとバクーも艦載機を出すのを諦めて対空砲火に専念している。敵の残りはおよそ350。しかし、そこまで減ってくると、生き残っているのは歴戦の船魄操る艦載機ということになる。最初はアメリカ軍の機体ばかりだったが、日本やドイツの機体が目立つようになってきた。
「クッ……こいつら、月虹の……」
「急に落とせなくなってきた。間違いないだろう」
「また攻撃が来ます! 衝撃に備えてください!」
フランス海軍機、つまりロベスピエールの艦載機の攻撃であった。CA海軍より遥かに優れた能力を持つ彼女が全力で雷撃を行い、ソユーズの右舷に魚雷が8本も命中する。
「う……ぐぅ……」
「大丈夫か、ソユーズ?」
「既に穴が開いているところに、雷撃されました……。浸水が、多すぎる……」
「沈まなければいいんだが、防ぎきれるか?」
「左舷に注水すれば、何とか転覆せずには済むかと」
「そうしてくれ」
右舷の浸水があまりにも激しく、このままだと転覆してしまう。それを防ぐ為に左舷に注水すると、傾斜は回復できるが大量の水が艦内に入り込む訳で、ソユーズの船体は海の底に呑み込まれそうなほどに沈み込んでしまった。




