ウリヤノフスク艦隊との戦い
『く、クソッ……。押さえきれん……』
「二隻の空母だけであなたを押し切るなんて、ウリヤノフスクとやらはなかなかやるようね」
『それは私を褒めてるのか?』
「さあ、どうかしら」
プリンツ・オイゲンはいつもの芝居がかった様子だが、そんな余裕はないだろう。ウリヤノフスクとミッドウェイの攻撃機がシュトラッサーの迎撃を振り切り、グナイゼナウ達に襲いかかってきたのである。
「どうする、グナイゼナウ?」
『どうするも何もないだろう! 全艦、対空戦闘!』
まずはグナイゼナウが主砲の対空砲火を開始する。彼女の主砲は28cm砲から38.1cm砲に換装されており、6門しかないが1発の射程や威力はビスマルク級と同等である。続けてオイゲンとザイドリッツも主砲で迎撃。まもなく高角砲の射程に入り、全艦が全力で迎撃を行う。
とは言え、状況は芳しくない。グナイゼナウはドイッチュラント級重巡洋艦の発展型であり、その実質は巡洋戦艦である。速度には秀でているが、船体に余裕がなく、高角砲は多くない。全部で連装砲16基である。オイゲンとザイドリッツは連装砲9基ずつ。グナイゼナウの麾下にいるのは他に駆逐艦だけであり、心許ないと言わざるを得ない。
『確かに、シュトラッサーが苦戦するのも分かるね……。ソ連の方は、すばしっこくて落しづらい』
「アメリカの方は雑魚くていいんだけどね」
『だとしても、状況は何ら改善されないよ……!』
ミッドウェイの船魄としての能力は、やはりドイツやソ連のそれに比べると低いと言わざるを得ない。反対にウリヤノフスクは、生まれたばかりで実戦経験はない筈なのに、世界的にも古参のオイゲンの対空砲火すら回避して見せる。
「私を翻弄しようなんて、ロシア人の癖に舐めてるわね」
『姉さん、相手がどこの船魄だろうと、能力には関係ないかと』
「そんなこと分かってるわよ」
対空砲火が当たらず苛つくオイゲンを、ザイドリッツが窘める。が、その時であった。
『ザイドリッツ! 敵が来ているよ!』
『まずは落としやすい重巡から、ということですか……』
駆逐艦を爆撃してしまうと一撃で殺してしまうかもしれないというウリヤノフスクの慈悲なのか、或いは駆逐艦を沈めてもドイツの政策に影響はないだろうという政治的な判断なのか。いずれにせよウリヤノフスクは重巡以上の艦にしか興味がないらしい。
「ザイドリッツ、早く奴らを落としなさい!」
『そうは言われましても、厳しいものは厳しいとしか』
「このッ……!」
オイゲンは自分自身の安全はそっちのけでザイドリッツの援護を行なう。例え自分が狙われても絶対に爆弾は命中しないという自信があるからだ。
しかし、オイゲンについている幸運の女神は、オイゲン自身にしか興味がないらしい。例えオイゲンが望んでも、彼女が守りたい者に幸運を分ける気はないようだ。
ウリヤノフスクの艦上戦闘機が投下した爆弾が一発、ザイドリッツの艦中央部に命中して大爆発を起こしたのである。
「ザイドリッツ?」
『ご、ご安心を、姉さん。水上機とボートが吹き飛んだだけです』
「ああ、そう、よかった……。ロシア人風情が……」
『ですから、人種は関係ないと――』
「劣等人種ごときが私の妹に傷を付けるなんて、許せないわ」
『そういう発言は好ましくないですよ、姉さん』
「国際連盟のことでも気にしてるの?」
『ええ、まあ。基本的にはそうなります』
「そんなもの、今はどうだっていいわ。ただムカつく連中をぶち殺すだけよ」
『オイゲン、そんなことを言っている余裕は、ないんじゃないかな』
上空の敵機は増えてきている。グナイゼナウもオイゲンもザイドリッツも余裕をなくしつつあるのは確かだ。今は何とか均衡を保てているが、もう少しで崩壊してしまいそうである。
だが、その時であった。
「ん? 敵が撤退していくわ」
『そう、みたいだね。一体何が……』
突如としてウリヤノフスクとミッドウェイが艦載機を引き上げ始めたのである。
『シュトラッサー、何があったか分かるかい?』
グナイゼナウが尋ねると、やたらと不機嫌そうな返事が返ってきた。
『あいつだ。ツェッペリンの奴が、ウリヤノフスクに直接攻撃を仕掛けた』
『グラーフ・ツェッペリンが? 私達を助けに来てくれたのか』
『ま、まあ……そうとも表現できるな』
確かに、ツェッペリンはほんの数百km先にいる。彼女の艦載機が現れても不思議はない。
「あらあら。面白いことになったわね」
オイゲンは挑発するように。
『どこが面白いんだ! 奴に力を借りるなど、屈辱だ!』
「いいじゃない。姉妹仲良く戦えば」
『誰があんな奴と仲良くできるかッ!』
『まあまあ。ツェッペリンにはウリヤノフスクを攻撃してもらって、君は迎撃に専念すれば、一緒に戦う必要はないだろう』
『そうだな。奴と顔を合わせずに済む』
ツェッペリンとシュトラッサーの相手は同じだが、戦場は全く別である。共闘であることは間違いないが、シュトラッサーはそれを認めたくなかった。




