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米ソ連合艦隊の進撃

 ゴルシコフ艦隊はポルトープランスに入港した。ゴルシコフ大将は陸地に降りると、とある人物と会見した。


「ご苦労だった、同志ゴルシコフ。貴官の能力には疑いの余地はないようだな」

「ありがたいお言葉です、同志ブレジネフ」


 その相手は共産党の書記局員・政治局員であり、フルシチョフ書記長の側近、レオニード・ブレジネフであった。ガザフスタン共産党やモルダヴィア共産党の第一書記を歴任した大物政治家であり、名目上ではあるが大将の地位を持っている。


 ブレジネフ大将が派遣されているのは、表向きにはハイチ政府との折衝の為であり、実際にはゴルシコフ大将らの監視が最大の目的であった。


「しかし、空母を輸送船にするという同志ブレジネフの提案がなければ、こう上手くはいかなかったでしょう」


 ノヴォロシースクとバクーは、ニカラグアを発ってから一度も艦載機を発艦させなかった。これはそもそも艦載機を積んでいなかったからである。空母の広大な格納庫を活用し、そこに大量の弾薬を詰め込んで高速輸送船としたのだ。


 本来の想定を外れた荷物を積んだ為に速力は低下したが、それでも普通の輸送船よりは遥かに速い。それに、そもそも戦艦と歩調を合わせるので、速度の低下は問題にならない。


 かくしてソ連海軍はポルトープランスに補給物資を届けることに成功した。これでワシントンに進軍することも不可能ではなくなった。


「素人の戯言を真面目に取り合ってくれて感謝しているよ」

「ご謙遜を」


 ブレジネフ大将は大祖国戦争で政治委員として戦場で働いていたが、将校としての教育を受けた訳ではない。彼はほんの軽口として「空母を輸送船にすればよいのではないか」と提案したが、それが上手くいったのである。


「それで、ここからどうするつもりだね? 当初の作戦通り、ワシントンまで艦隊を進めるか?」

「確かに、この艦隊をワシントンまで送り届けられれば、アメリカ東海岸の制海権は我々のものです。しかし、ワシントンは遠く、そう簡単な仕事ではないでしょう。弾薬が潤沢であったとしても、敵を全て撃墜できる訳ではありませんから」

「確かに、ずっと爆撃を受けながらワシントンまで2,000kmを走り抜けるとは大変そうだ」

「ええ。同志フルシチョフは、どう考えているのでしょうか。この戦争の行く末について」


 ブレジネフ大将はフルシチョフ書記長の側近であるから、書記長の意志を伝えるというのも役目の一つである。


「同志フルシチョフは、この戦争に勝利することを望んでいる。アメリカ連邦を滅ぼし、アメリカ合衆国にアメリカを統一させるつもりだ。恩を売るだけで済ませるつもりはない」

「では、ワシントンに行かなければならないでしょう。陸軍だけで勝てるというのなら、我々はここで敵海軍を牽制するだけでよいかとは思いますが」

「アメリカというのは、東海岸に全てが集中している国だ。大西洋の制海権は必ず必要になると思うがね」


 カリフォルニア州がメキシコに返還されたことで、アメリカの経済的な重心は東海岸に非常に偏っている。CAが東海岸のリッチモンド以南を押さえている以上、制海権を奪取しなければ勝利は難しい。逆に制海権を確保すれば、ドイツは援軍を送ってこられず、ドイツ陸軍の直接介入を恐れずにソ連陸軍を投じることができる。


「では、向かうとしましょう。ワシントンまで、寄港できる場所は一切ない船旅です」

「貴官らの活躍に期待しているぞ」


 ブレジネフ大将はあくまでハイチに派遣されているので、艦隊に同行することはない。


 ○


 さて、CA海軍は米ソ連合艦隊がついに北上を開始したことを察知した。これは何としてでも食い止めなければならない。米ソ連合艦隊がアメリカ東海岸に到達してしまうと、ソ連からUSAへの海上補給線が確立されてしまうのだ。


 シャーマン大将はまず、ウリヤノフスク艦隊を攻撃することを決定した。敵の航空戦力を減らすことができれば、戦況が優位になることは明らかである。先日は失敗したが、今回はより確実な策を用意した。


 即ち、バハマのドイツ海軍大洋艦隊第二隊群に出撃を要請したのである。巡洋戦艦グナイゼナウと重巡プリンツ・オイゲンおよびザイドリッツを中心とする艦隊だ。


 グナイゼナウはシャーマン大将の要請を快諾し、全艦隊を率いて出撃した。ウリヤノフスクの座標はCA海軍航空隊や潜水艦隊が常に監視し続けており、そこに一直線に向かうだけである。


「相手の水上戦力は重巡程度しかいないらしいわ。ふふ、追い付ければ余裕ね」


 プリンツ・オイゲンの余裕綽々の様子に、グナイゼナウは釘を刺す。


『油断はしないでくれよ。私達の脅威は大砲よりも航空機だ』

「分かってるわよ。まあ、爆弾も魚雷も、私に命中する訳がないんだけど」

『自分の運を信じ過ぎじゃないかい?』

「私はこれまで一度たりとも傷を負ったことはないわ」

『偶然という可能性もあるだろう?』

「まあ、安心しなさい。手抜きをして死んだりしたら馬鹿みたいだから、真面目にはやるわよ」

『⋯⋯ああ、頼むから、そうしておくれよ』


 グナイゼナウは日本軍との戦いでシャルンホルストを失った。もう二度と同僚を失いたくないのである。

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