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フロリダ沖航空戦Ⅱ

 全長325m、世界最大の軍艦ことソ連海軍のウリヤノフスクは、ビスマルクが駆逐艦に見えるほどの巨艦である。もちろん排水量で戦艦に勝つことはできないが。


 ウリヤノフスクに伴っているのは、USA海軍の空母ミッドウェイと、レニングラードから連れてきたソ連海軍の護衛艦達である。艦隊としての規模は小さなもので、戦艦は一隻もいない。


 ミッドウェイ級航空母艦一番艦のミッドウェイは、大東亜戦争の最中に実戦投入された空母であり、戦時中に日本海軍に撃沈された。しかしその船魄は沈む前に助け出され、今日まで生き延びている。つまり艦が沈んだのに船魄はそのままという、大和と同じ状態なのである。


 そういう訳でミッドウェイの船魄はアメリカ海軍全体を通して見ても最古参ではあるのだが、大東亜戦争での実戦経験はほんの僅かであり、大した能力はないというのが実情であった。


「て、敵が来る、ので⋯⋯。た、対応を⋯⋯」


 ウリヤノフスクは当然に旗艦を任せられていたが、相変わらずの口下手であった。旗艦らしい威厳は全くなく、たどたどしく命令を飛ばす。


『了解しました。可能な限り敵を撹乱しましょう』


 ミッドウェイが淡々と返事をする。


「はい。お、お願い、します⋯⋯」


 ウリヤノフスクは一先ず、各艦に対応を指示した。彼女は喋るのが苦手なだけであって、指揮官としての能力には何の問題もないのである。一通りの指示を終えたところで、陽気な声で話し掛けてくる少女が一人。


『ウリヤノフスク、この戦いは勝てると思うかい?』


 声の主は、日本で建造されながらもソ連で船魄化された異色の経歴の駆逐艦、ヴェールヌイであった。


「しょ、勝利の、定義による、けど⋯⋯」

『勝利の定義? 難しいことを言うね』

「だ、だって⋯⋯勝利は、その⋯⋯複数の方法があって⋯⋯」

『どうしたら勝利と言えるか、ってことかな?』

「あ、そ、そう⋯⋯。そういうこと⋯⋯」

『敵は君達空母を狙っているんだから、君達が無事なら勝利と言えるんじゃないかな?』


 ウリヤノフスクが飛行甲板を爆撃されるなりして航空機運用能力を喪失すると、CA海軍はかなり自由に動けるようになる。そうなればゴルシコフ艦隊が再び襲撃を受けるだろう。


「わ、私も、そう思う⋯⋯」

『それを踏まえて、どうかな?』

「お、お互いの戦力は、互角で⋯⋯護衛艦は正直、少ないから⋯⋯微妙、かも」

『それは困ったね。でも大丈夫だよ。不死鳥の私がついてるからね!』


 ヴェールヌイは自信満々な様子で言い切る。恐らく冗談だろうが、ウリヤノフスクは上手く返事ができない。


「あ⋯⋯ええと、ヴェールヌイが不死鳥でも、意味ないんじゃ⋯⋯」

『そうですよ。ヴェールヌイさんが幸運だったら寧ろ、私達の方が被害を受けます』


 ミッドウェイがウリヤノフスクを援護してくれた。


「で、ですよね……」

『細かいことは気にしない! 私達はやれることをやるだけだよ』

「は、はい」


 ヴェールヌイはその後ひっそり『アメリカの艦なんてどうなってもいいけど』と呟いたが、ウリヤノフスクは聞かなかったことにした。


 ウリヤノフスクとミッドウェイはちょうど100機の艦上戦闘機を発艦させ、CA海軍航空隊と交戦を開始した。


「て、敵はそんなに、強くない、です⋯⋯」

『そのようですね。やはり相手は月虹の船魄ではないようです』

「は、はい。ですけど、多い⋯⋯」


 戦闘機以外もあるとは言え、敵は400機を超える大部隊。全体的に戦況は優勢であったが、流石に4倍の敵を押さえきることはできず、敵の突破を許してしまう。


「げ、迎撃! 撃ち落として!」

『ふふ。やっと私の出番だね』

「そ、そう、だね⋯⋯」

『私に任せてくれ』


 やたらと態度が大きいが、ヴェールヌイはここにいる艦では圧倒的に長い艦歴を持つ。特型駆逐艦は対空戦闘が得意な訳ではないが、ヴェールヌイは後ろの主砲2つをБ34連装高角砲に換装されており、必要最低限の能力を持つ。


 無論、ウリヤノフスクとミッドウェイも、自分自身を守る武器は充実している。その巨大な船体の外周には高角砲と機関砲が所狭しと並べられており、まるで動く城塞のようである。


『あれ、私ってあんまり要らないかな?』


 ヴェールヌイはおどけた調子で尋ねてきた。


「そ、そんなこと、ない……」

『本心からの言葉かな?』

「あ、う、うん!」


 ウリヤノフスクは力強く頷いた。ヴェールヌイの高角砲の数は少ないが、照準は非常に精確であり、ウリヤノフスクやミッドウェイに近寄ろうとする敵を強力に牽制してくれていた。


「こ、このままの、調子で⋯⋯。よろしく⋯⋯」

『意外と大丈夫そうだね。私のお陰に違いないね!』

「い、いや、その、それは⋯⋯」


 ヴェールヌイの貢献は確かに大きいが、彼女だけの成果という訳ではないだろう――とは、ウリヤノフスクは言えなかった。


 しかし、調子に乗っている者ほど転ぶものである。


「み、ミッドウェイさん! 上!」

『これは⋯⋯直撃コースですね』


 数々の対空砲火の網をすり抜け、ミッドウェイに数機の爆撃機が急降下爆撃を仕掛てきたのである。

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