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方針転換

『とっとと帰るわよ、妙高』

「もちろんです! 全速力でここから離脱しましょう!」


 46cm砲弾が降り注ぐ中、妙高と愛宕は全速力で撤退を始める。もう駆逐艦を無力化された以上、妙高達を狙う理由もないとは思われるが、ハワイ級戦艦は重巡の二人を狙ってくる。月虹の艦を沈めて士気を落とそうという魂胆だろうか。


『まったく、ローンを狙いなさいよ』

「愛宕さん……その発言はちょっと……」

『撃たれても平気なんだからいいじゃない』

「それはそうで――」


 と、その瞬間であった。妙高の船体が水飛沫に覆い隠され、通信が乱れる。


『ちょっと!? 大丈夫!?』

「だ、大丈夫、です……。ギリギリでしたが、至近弾でした」


 妙高のすぐ横に砲弾が落着したのであった。ほんの数メートルずれていたら、妙高の船体が粉砕されていただろう。


『そ、そう。被害はないの?』

「ちょっと浸水してます。流石は46cm砲って感じですね……」

『大丈夫なの?』

「はい。被害は軽微です。すぐに対処できます」


 近くで炸裂しただけで重巡洋艦の装甲に穴を開けるとは、流石は46cm砲弾である。駆逐艦程度ならそれだけで行動不能になるかもしれない。とは言え、今回の妙高は運がよく、隔壁を幾らか閉めるだけで浸水を押さえることができた。


「心配してくれてありがとうございます、愛宕さん」

『え、ええ、どうも。まあ、あなたが死んだらお姉ちゃんが悲しむからね』

「愛宕さんらしい理由ですね」

『当たり前でしょう』


 妙高と愛宕はそれ以上の被害を受けず、戦場を離脱することに成功した。米ソ連合艦隊の作戦を一つ挫くことに成功した訳である。


 ○


 さて、出撃させた駆逐隊が壊滅し、ゴルシコフ大将は次の策を練らなければならなくなった。幾ら46cm砲弾を撃ってもグラーフ・ローンに沈む気配はなく、彼女の攻撃でハワイ達の高角砲が失われるのは好ましくない。


 ソビエツキー・ソユーズは早速、ゴルシコフ大将に提案する。


「私がやる訳ではありませんが、ここは一気呵成にローンに突撃し、撃沈するのがよいのでは?」

「近付けば46cm砲弾でも効くということか?」

「はい」

「だが、それは敵も同じだ。ローンの51cm砲弾はもっと遠くから、ハワイ級の装甲を撃ち抜くことができる」

「しかし、奴の主砲は8門だけです。我が方が優勢かと」

「確かにそうかもしれないが……」


 ソユーズの提案には一理ある。46cmは36門もあり、ローンの攻撃で主砲塔が多少破壊されても、十分な戦闘能力を維持できる。しかも、主砲塔は最も堅固な装甲に覆われているので、51cm砲であってもそう簡単には破壊できない。


「だが、損害をUSA海軍に押し付けることになる」

「……元々、我々は援軍であって、合衆国が主体です。別に問題ないのでは?」

「それも一理ある。私から突撃してくれと言うことはできないが、あくまでUSAが主体的にやるのなら、いいだろう」


 幾ら恩を売っているとは言え、他国の海軍に自爆的な攻撃を命ずることなどできない。であるから、あくまで提案という形にして、USA海軍に自ら突撃してもらうのである。


 ゴルシコフ大将は早速USA海軍にこの提案を伝えたが、返答は予想外のものであった。


『残念なお知らせだ、ゴルシコフ大将。お前の提案は拒否された』


 と、ハワイは嘲笑うような口調で告げた。彼女はどんな内容でもそんな調子ではあるが。


「……理由を聞かせてもらってもいいか?」

『ハワイ級戦艦を失う危険を冒す訳にはいかない、らしい。私は楽しみだったんだが、司令部がそう決めた』


 USA海軍太平洋艦隊の司令長官はアーサー・ストラブル大将であるが、司令部はニカラグアにあり、司令長官も前線には訪れていなかった。にも拘らず、文句だけは言ってくるのである。


「アメリカの懸念も理解はできる。別の作戦を考えるとしよう」


 USAに新たな艦艇を建造する能力はないに等しい。それはCAも同じだが、貴重な戦力であるハワイ級を万が一にも失う訳にはいかないというのは、それほどおかしな話ではない。


「君の提案は拒否されてしまった。残念だよ、ソユーズ」

「そうですか……」

「グラーフ・ローンを何とか無力化、或いは追い払えればいいんだが」

「艦隊の皆に意見を募ってみます」

「ああ、頼む」


 ソユーズは麾下の船魄達に何でもいいから意見を求めた。するとノヴォロシースクから提案があった。


『ローンを追い払えば確かに楽になりますけど、そもそも追い払う必要はないのではありませんか?』

「どういうことだ? 奴がいる限り補給が脅かされると思うが」

『ローンは一人しかいません。彼女がいないところを輸送船で抜けてくればいいだけでは?』

「そ、そんな無茶……でもないのか? 確かに奴の主砲の射程は50km程度だし、ロケット砲弾など動いている船に命中する訳がないが……」

『ローン以外の脅威はどうとでもなります。まあ空から襲われたらどうにもならない気もしますけど』

「考えてみよう。同志ゴルシコフに伝えておく」

『はい。無理だったら全然捨ててもらっていいです』

「了解した」


 ソユーズはノヴォロシースクの作戦に可能性を見出し、ゴルシコフ大将に伝えた。

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