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軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~  作者: Takahiro
第二十七章 カリブ海海戦

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日本の重巡

 ケネディは中将は早速、麾下の船魄達に事情を伝え、意見を募った。相談している時間はないので、意見を得た後はケネディ中将が判断を下すことになる。真っ先に意見を出してきたのは、高雄であった。


『――わたくし達、妙高型と高雄型は、デモイン級と比較するとかなり装甲が薄いです』

「そうだね。デモイン級はそもそも、日本の重巡洋艦を圧倒することを目的に設計されたんだ」


 そんなことを言っていると、中将の隣に座っているデモインが得意げに頷く。相変わらず無表情なのだが、感情表現は多少豊かになってきた。


『はい。しかし、それ故に、わたくし達の方が今回の任務には適しているかと』

「ん? どういうことだ?」

『46cm砲弾は確実に、わたくし達の船体を貫通します。貫通してしまえば、被害は最小限に留まります』

「なるほど……。デモインはどう思う?」


 ケネディ中将が尋ねると、デモインは少し不機嫌そうに返答する。


「確かに、私の装甲は戦艦の砲撃には耐えられない。28cm砲でも、貫通される……」


 以前ドイツのリュッツオウに攻撃された時、デモインの装甲は容易く貫通されてしまった。その時のことを思い出し、デモインの声が弱々しくなる。


「余計なことを思い出させてしまったか」

「気にしなくていい。でも、どうせ貫通されるなら、装甲は薄い方がいい」

「そうだな。非常に危険なことに変わりはないが……」


 徹甲弾というのは、装甲を貫通してちょうど船体に入り込んだところで爆発してこそ、最大の威力を発揮するのである。当然それには絶妙なタイミングの調整が求められるので、想定外の相手に撃った場合、炸裂する前に砲弾が貫通してしまうというのは普通にあり得る。


 そこそこに装甲があるデモインの場合、46cm砲弾が貫通しきらず大損害を受ける可能性があるが、旧式の妙高型や高雄型ならその心配はないだろう。そういう訳でケネディ中将は、月虹の重巡洋艦達に敵の駆逐艦を撃退するよう要請した。


 手短に要件を伝えると、愛宕が条件をつけてきた。


『――そんな危険な仕事にお姉ちゃんを参加させられないわ。私と妙高だけで行くから、よろしく』


 愛宕は反論することも許さないという勢いで言った。


『ちょっと愛宕、またそんなことを……』

「いや、構わないよ。敵は大した数ではない。君達の技量ならば、二隻で十分だろう。ああそれと、妙高、君は大丈夫か?」

『はい、妙高は大丈夫です。迷っている時間もないでしょうから、早くしましょう!』

「そうだな。妙高、愛宕、頼んだ」


 かくして妙高と愛宕は速やかに前線に進出した。


 ○


「うっ……グラーフ・ローンさんが、大変なことに……」


 ローンが視界に入ってくると、妙高は悲痛な声で呟く。あちらこちらから煙を上げた痛々しい姿で、ローンは戦っていた。


『戦艦なんだから大丈夫でしょ。表面の艤装が燃えてるだけよ』


 愛宕は冷たく反応した。実際のところ、ローンは見た目ほどの被害を受けている訳ではなく、愛宕の理解の方が正確だ。


「そ、そうは言いますが……」

『そんなことより、自分達の身を案じた方がいいと思うわ』

「ま、まあ、そうですね」

『こんなところで死ぬ訳にはいかないのよ』

「もちろんです! 速やかに敵の駆逐艦を無力化し、戻りましょう」


 妙高と愛宕はグラーフ・ローンの前に出た。すると46cm砲弾の雨が二人の方に向いてきた。明らかに狙われている。


『お姉ちゃんを連れてこなくてよかったわ』

「最大戦速を絶やさないように、それと、不規則に動き回りましょう!」

『言われるまでもないわよ、そんなこと』


 35ノット、時速65kmで海を駆け回る。砲弾を撃ってから命中するまで1分もかかる距離で、ここまですばしっこく動き回る目標を狙い撃つのはまず不可能だ。


『そろそろ敵の駆逐艦を撃てそうね』

「はい。攻撃を始めましょう。なるべく早く帰りたいので……」

『それについては同感ね。撃ち方始め』


 敵の駆逐艦は8隻。妙高と愛宕は20門の主砲で攻撃を開始した。最初の一斉射からいきなり命中弾を出し、コトリン型駆逐艦の一隻が大炎上して機関が停止した。


『あれは死んだかもしれないわね』

「……そうでないと、願います」

『私も別に殺すのが好きって訳じゃないわ』


 46cm砲弾の爆発で大量の水飛沫を浴びながら、二人は精確な射撃で米ソの駆逐艦を次々と撃ち抜いていく。妙高型より遥かに新しい艦でも、駆逐艦の装甲などあってないようなもの。20.3cm砲弾であれば確実に貫通できるし、巡洋艦の徹甲弾は駆逐艦を主目標としているので効果も高い。


 だが、その時であった。ギアリング級の一隻が放った砲弾が、妙高の二番主砲塔に命中した。


「クッ……砲塔、が……」


 砲塔の装甲が駆逐艦並みの紙装甲というのが、大東亜戦争以前の日本重巡の特徴である。それ故、妙高の砲塔は駆逐艦の砲撃で破壊されてしまった。


『1基くらい吹き飛んでも大丈夫でしょう?』

「え、ええ、このくらい、大丈夫です!」


 多少破壊されてもいいように主砲塔を5基備えているのも、日本の重巡の特徴である。妙高の火力はそれほど衰えず、残りの駆逐艦を無力化することに成功した。

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