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愛宕の戦い

 CA海軍と月虹が協力してジャマイカ海峡の封鎖を始めてから、2日程度が経過した。その警戒の網に、ソ連の輸送船団が引っ掛かった。一番近くにいたのは愛宕である。


「はぁ……見つけちゃったわ。面倒臭い」


 発見してしまったからには対処せざるを得ないので、愛宕は溜息を吐いた。高雄の為にならないことなど全くやる気が出ないのである。とは言え、真面目に仕事をやると高雄に約束しているので、義務は果たす。愛宕はすぐケネディ中将に連絡した。


『――了解した。私もすぐに向かう。君は敵の輸送船団に停止するよう警告をしてくれ。従わないのなら、攻撃しても構わない』

「撃沈してもいいのかしら?」

『可能なら沈めはしない程度に留めてもらいたいが、無理なら沈めてしまっても、後処理は私達がしておく』

「舐められたものね。そのくらいは余裕よ」


 ケネディ中将に舐められたと感じて、愛宕は少しだけやる気が出た。愛宕は早速、敵の輸送船団に向けて警告の通信を行った。敵の船団は輸送船10隻ばかりに、護衛は駆逐艦6隻だけであり、大した戦力ではない。


「こちらはアメリカ連邦海軍の重巡洋艦愛宕よ。警告するわ。今すぐ機関を停止して、その場で止まりなさい」


 月虹は一応、CA海軍に所属しているということになっている。もちろん実際上はCA海軍の指揮系統に従うつもりなどないが、そういうことにしておかないと海賊行為と変わらなくなってしまうのである。


『こちらはアメリカ合衆国の輸送船団である。アメリカ連邦ごときに何の権利があって我々を拘束できると言うのか?』

「権利なんて知らないし、あなた達も別に従う必要はないわよ。従わなかったら私が皆殺しにしてあげるだけだから」


 本当なら多少は理論武装しておくべきところだし、愛宕もこのような事態になったら言うべきことを事前に教えられていたのだが、言い争いが面倒臭いのでこれで済ませた。


『分かった。では、我々はこのまま通航させてもらおう』

「あらそう。なら遠慮はしなくていいわね。後悔しても知らないわよ」

『ファシストの犬などに、我々が負ける訳がない。後悔するのはお前の方だ』

「思ってたより馬鹿な連中ね」


 相手の指揮官は民主主義の狂信者らしい。愛宕に降伏するつもりなどなく、逆に愛宕を仕留めるべく護衛の駆逐艦6隻全てを差し向けてきた。お互いの船魄の能力が同等であればいい勝負になるだろうが、USA海軍の船魄ごときが愛宕に敵う訳がない。


「さて。取り敢えず、輸送船を攻撃ね。死なない程度に……って言っても、人間の船なら死ぬかな。まあいっか」


 愛宕はまず主砲全門で、輸送船を直接攻撃する。主砲は全てアメリカのMk.16に換装したが、既に練習は済ませているので問題はない。主砲弾の直撃を受けて輸送船は炎上し、航行不能になるものも出た。この攻撃で人間が何十人かは死んだだろうが、愛宕は人間などに興味はなかった。


 次は愛宕に迫ってくる駆逐艦達の番だ。


「アメリカの駆逐艦ごときが私に喧嘩を売るなんて、いい度胸ね」


 愛宕は主砲斉射を開始する。流石に駆逐艦はすばしっこく、簡単に命中弾を得ることはできないが、一撃でも当ててしまえばすぐに致命傷になる。愛宕の20.3cm砲弾を受けたフレッチャー級駆逐艦はすぐに炎上して停止した。妙高に怒られそうなので撃沈はしないよう配慮している。


 愛宕が駆逐艦2隻を吹き飛ばしたところで、敵も砲撃を始めた。愛宕の主砲の最大射程はおよそ30kmだが、駆逐艦の主砲の射程も20kmはあり、差は以外と小さいのである。


 駆逐艦4隻から一斉射を浴びると、愛宕も数発被弾してしまう。


「結構痛いじゃない。大したことはないけど」


 日本の重巡洋艦は全体的に装甲が薄く、駆逐艦の砲撃を完全に弾けるとは言い難い。だがその程度で致命傷になることもない。多少の火災が起こりつつも、愛宕の行動に支障はない。


 愛宕は回避運動を続けながら砲撃を続行。近寄ってきた駆逐艦を次々と無力化する。しかし、無力化で留める筈だったが、一隻の駆逐艦が当たり所悪く大爆発を起こし、真っ二つになってしまった。


「あっ……やっちゃった。まあ、アメリカ合衆国なんかについたのが運の尽きってことね。そうに決まってるわ」


 妙高に影響された訳ではないが、愛宕も船魄を殺すことに多少の罪悪感は覚える。USAが悪いと自分に信じ込ませ、深くは考えないことにした。


 かくして敵の護衛を全滅させ、愛宕は改めてUSAの輸送船に通告する。


「どうするの? 降伏するか全員死ぬか、選んでいいわよ?」

『貴様らに降伏などしない! 我々は最後まで戦って玉砕する!』

「そんな船でどうやって私と戦うつもりなのよ。本当に呆れた連中ね。まあ死にたいなら構わないけど――あら?」


 と、その時、無線機から銃声が聞こえた。ただ事ではない雰囲気だ。


「どうしたの? イカれた上官を殺しでもしたの?」

『ああ、そうだ。イカれた政治将校を射殺した。下らない民主主義などの為に死ぬつもりはない。アメリカ連邦海軍に船を明け渡す』

「そう。賢明な判断ね」


 とは言っても愛宕にはどうにもできないので、ケネディ中将の合流を待つことになるが。

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