カリブの鎖作戦
「はぁ……分かりましたよ。アメリカ連邦からの依頼とあれば、受け入れない訳にはいきません。ドイツ海軍はご協力させていただきます」
「ありがとうございます!」
妙高が無邪気に感謝するが、ローンは冷たく対応する。
「あくまで私はケネディ中将閣下の要請を受諾したまでです」
「そ、そうですか……。でも協力してくださるだけで嬉しいです!」
「ですから、喜ばれるようなことはしていないと……」
「まったく、お前はどれほど意固地なのだ」
ツェッペリンが文句を言うと、ローンは妙高に向けるより冷たい眼差しを向けた。
「あなたに言われたくはありませんよ。一体何年ドイツから逃げ回ってるんですか?」
「え、そ、それはその……」
「と言うか、そもそもどうしてドイツから逃げ回っているのですか?」
「ふん。ゲッベルスの馬鹿に仕える価値がないからに決まっておろうが」
もちろん、本当は妹のペーター・シュトラッサーが建造中止になるのを阻止するべく脱走して、気恥しいから戻っていないだけなのだが、そんなことを言える訳がない。
「ふむ。確かにゲッベルス大統領は、我らが総統と比べれば凡人としか言いようがないでしょう。とは言え、ドイツ国民を思いやる善良な指導者だとは思いますが」
「我は凡人に仕えるつもりはない」
「はぁ、そうですか。まあいいですが」
何はともあれ、作戦は決まった。作戦名はCA海軍によって「カリブの鎖作戦」と勝手に決められた。
○
一九五七年九月六日、ウィンドワード海峡。
ドイツ海軍、CA海軍、月虹の混成艦隊はバハマに集結した後、ハイチ方面に向けて出撃した。キューバの北側を時計回りに航行し、混成艦隊は米ソ連合艦隊の目前、ハイチとキューバの間にあるウィンドワード海峡を通過していた。この海峡の幅は僅かに80km程度であり、一触即発の距離である。
この寄せ集め艦隊の指揮権については、あくまでCA海軍が主力ということで、重巡デモインを旗艦としてケネディ中将が指揮を執る。本来なら戦艦を旗艦にすべきところではあるが、CA海軍から戦艦は出せないので、このようになっている。
『間もなく敵の目の前を通過するぞ。全艦、警戒を怠らないように』
中将が全艦隊に警戒を促す。主砲の射程にこそ入っていないが、敵に交戦の意思があればすぐに戦闘を始められる。肉眼で確認することは流石に不可能だが、敵はすぐ近くにいるのだ。
「だ、大丈夫かな……。流石に怖くなってきたかも……」
世界最強の戦艦が味方についているとは言え、敵には重巡程度なら簡単に吹き飛ばせる戦艦が六隻もいる。妙高は流石に不安を隠せなくなっていた。
『落ち着きましょう、妙高。仮に敵がわたくし達を攻撃するとしても、40分程度は猶予があります』
「う、うん。そうだね」
『まったく、言い出しっぺのあなたが何を言っているのですか』
グラーフ・ローンが文句を言ってくる。だが、妙高にとってもこれは予想外の展開だった。
「妙高はこんな危ないところを通る気はなかったんですよ……」
妙高はキューバの南側から反時計回りに作戦海域へ向かうつもりだったのだが、いつの間にか敵の目の前を通過していく航路を通ることに決まっていた。
『敵の出方を探る為です。ここで出てくるのなら、海上封鎖をしても出てくるでしょう』
「分かってはいるんですが……」
『最悪の場合は、私を囮にして逃げていいですよ。と言うか、巡洋艦などがいても邪魔なだけなので、そうしてもらえると助かります』
「え、ええと……はい……」
こんな風に雑談を交わしながらウィンドワード海峡を通過することおよそ6時間。結局米ソ連合艦隊は動かず、混成艦隊は200kmの海峡を何事もなく渡りきったのであった。
『取り敢えず、敵は消極的だということは分かった。私達にとっては僥倖だ。これより、カリブの鎖作戦を開始する。予定通りに二つに分かれ、ケイマン海峡とジャマイカ海峡を封鎖しよう』
キューバとジャマイカの間がケイマン海峡、ジャマイカとハイチの間がジャマイカ海峡である。これらを封鎖すれば、イスパニョーラ島を一周して回り込まねばポルトープランスに辿り着けなくなる。
妙高・高雄・愛宕はジャマイカ海峡に振り分けられた。CA海軍からデモインとニューポート・ニューズ、そしてグラーフ・ローンもこちらに加わっている。こちらの方がポルトープランスに近いので、どちらかと言うと強力な戦力が配属された。
ジャマイカ海峡側にはデモインがいるので、ケネディ中将が直卒することになる。もちろん貴重な戦力を遊ばせている訳にもいかないので、デモイン自身も索敵に参加する。
『グラーフ・ローン、君は索敵には参加しなくていい。残りの艦でジャマイカ海峡を封鎖する。絶対に輸送船を見逃さないように』
艦隊は海峡の哨戒を開始した。人手が足りないので全艦が個々に行動しなければならない。
例のごとく、愛宕は高雄と離れ離れになるのを嫌がったが、高雄に軽く怒られて渋々単独行動を受け入れた。




