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デラウェア沖海戦Ⅲ

「フッド! 迎撃なさい!」

『言われなくても分かってる!!』


 フッドは旧式戦艦とは言え、それなりの対空兵装がある。クイーン・エリザベス級でも同じことではあるが。フッドは高角砲と機関砲で全力で応戦するが、精神的に真っ当な状態ではないフッドの対空砲火はほとんど当たらず、ウリヤノフスクの攻撃を許した。


 数個の爆弾が投下され、数本の魚雷が彼女を襲う。爆弾が炸裂して甲板を煙が覆い、右舷に命中した3本の魚雷は艦橋にも水飛沫が飛んでくるほどの大爆発を起こした。


「フッド!!」

『く、クソッタレが……ふざけるなよ……』

「大丈夫のようですね」

『あ、ああ、沈むことはない』

「言ったでしょう? ビスマルクとの一件は、相当に珍しい偶然だと」

『そんなことは分かってるんだ……。だが、いつまたあんなことが起こるかと思うと、震えが止まらない……』

「そうですか。しかし今は、目の前の戦いに集中してください。真面目にやらないと本当に死にますよ」

『クソッ。分かってる!』


 モンタナとオハイオは当初は大和に集中砲火を加えていたが、大和の装甲を撃ち抜くことが不可能だと判断すると、周辺の艦に狙いを変更した。イギリスの戦艦を一隻でも沈めてイギリスの士気を落とすことを目標に据えたようである。合理的な判断だ。


「大和さん、このような聞き方は無礼だとは思うのですが、敵艦はまだ無力化できないのですか?」

『す、すみません……。予想より敵の防御が厚くて……。それに巨大な船体ですから、時間が掛かります……』


 大和の46cm砲は、アイオワ級程度であればおよそ9発で廃艦にさせられると試算されていたが、モンタナ級は装甲が厚いし単純に巨大なので、より多くの弾数が必要なのである。艦のしぶとさは船魄の技量に依存しないので、アメリカの軍艦相手でも時間が掛かることに変わりはない。


「分かりました。しかし、このままでは……」

『全艦、状況を報告せよ!』


 戦闘開始からおよそ10分。ヴァンガードは全艦に被害状況を報告するよう命令した。各艦からの報告を聞き、ヴァンガードは損傷が激しいウォースパイトに離脱するよう命令した。


 最も旧式のクイーン・エリザベス級が沈めやすいと判断したのか、USA海軍の攻撃はエリザベスとウォースパイトに集中していた。ウォースパイトはB砲塔が大破炎上し、甲板のあちこちらか火の手が上がっている有様であった。


『あ、姉上を置いて逃げろと言うのか!?』

『お前がエリザベスの為に死んでも構わないのだとしても、女王陛下の艦を沈める訳にはいかない。これは命令だ』

「ウォースパイト、あなたが沈むと女王陛下に不利益が及ぶのです。ヴァンガードの命令に従いなさい」

『わ、分かりました、姉上……』


 ウォースパイトは嫌々ながら離脱することを承諾した。


『プリンツ・オイゲンとザイドリッツ、ウォースパイトの護衛をしてくれ。いいか?』

『ええ、構わないわ。ザイドリッツ、出番よ』

『はい、姉さん』


 戦況は芳しくない。モンタナとオハイオの主砲は全て健在であり、対艦戦闘能力に陰りは見えない。とは言え、大和の攻撃を受け、その艦体は確実に崩れてきている。


「この調子であれば、私達の粘り勝ちということにできそうですが」

『美しくない戦いだがな。何か手を打ちたいところだが……』

「ふむ……。大和さんのお陰で敵の速力は低下してきています。機動力で上回れるのでは?」

『確かに、それもそうだな。全艦、最大戦速を出すぞ! 奴らと追いかけっこだ!』


 ヴァンガードは大和の最大戦速に合わせて28ノットまで加速。他の戦艦達もそれに続くが、残念ながらエリザベスには無理であった。クイーン・エリザベス級は最高でも25ノット程度しか出ないので、損傷していなくてもヴァンガードに追随できないのである。


「私はウォースパイトと合流します。皆さんは作戦を遂行してください。フッドも、頑張ってくださいね」

『クソッ……。やるしかないのか……』


 エリザベスは置いて、イギリス艦隊は28ノットで前進する。すると、みるみるうちにモンタナとの距離が開いていった。モンタナは大和の砲撃で主機や艦首を損傷し、23ノット程度しか出せなくなっていたのである。


『エリザベス、お前の読み通りだ。流石だな』

「別に大したことではないでしょう」

『ふっ、そうだな。全艦、このままT字戦法に持ち込むぞ! 我に続け!』


 これほどの速度差があれば、戦場の主導権を握ることができる。ヴァンガードを先頭にした戦艦達はモンタナとオハイオの真正面に回り込み、完璧なT字戦法を演じた。モンタナもオハイオも正面を向いた主砲しか使うことができなくなり、戦況は一気に傾く。


 こうなった以上、USAに勝ち目はない。モンタナ級の2隻は戦場から離脱する素振りを見せた。


『ヴァンガードさん、つ、追撃、しますか……?』


 大和が尋ねる。言葉遣いは実に控えめだが、内容は好戦的であった。


『いや、やめておこう。下手に連中を追い詰めると、面倒なことになりかねない』

『面倒なこと、ですか……?』

『そうか、お前はコメットを知らないのか』

『は、話だけなら……』

『アメリカ合衆国は宗教国家だ。追い詰められたらコメットを使うことに躊躇はあるまい』

『なるほど……』


 民主党は民主主義の狂信者の集まりだ。自爆くらい大したことではないだろう。この傷付いた艦隊でコメットを迎撃するのは困難だ。


 ヴァンガードはモンタナとオハイオを逃がし、海戦は終息した。

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