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デラウェア沖海戦

『ふふ。どうするつもりなのかしら、エリザベス?』


 プリンツ・オイゲンが挑発するような口調で尋ねてくる。少なくともエリザベスの命令に従う気はあるようだ。


「モンタナ級は強力な戦艦です。1隻なら辛うじて相手になるでしょうが、2隻揃ってきたらどうしようもありません」


 モンタナ級は1隻で12門もの主砲を持つ。それに対してエリザベス側は戦艦3隻合わせて12門である。主砲の数が同等なら艦の数が多い方が有利だろうが、流石に主砲が2倍となるとUSA海軍の方が優勢だろう。


『なら逃げるの?』

「それが妥当な判断でしょう。ソ連船は全て撃沈した上で、撤収します」

『あらあら。そんなことして大丈夫なのかしら』

「これ以上ソ連との関係が悪化することはないでしょう。時間がありませんし、すぐに実行します。貴女方も、お手伝いをお願いします」

『分かったわ。こんなところで魚雷を使うのはもったいないけど』


 エリザベスはソ連船に乗り込んでいた兵らを戻すと、兵員の輸送に使えそうな一部を残し、主砲と魚雷で全て撃沈した。また護衛の駆逐艦については、その場で全て解放した。


 かくして撤収の用意を整えたエリザベスであったが、そこに通信が掛かってきた。


『ヴァンガードだ。生きているか、エリザベス?』


 グランド・フリート旗艦ヴァンガードからの電話であった。ヴァンガードはエリザベスとは別に部隊を率い、同様に海上封鎖作戦を行っていた。


「今のところは無事ですが、敵の強力な戦力が接近しています」

『モンタナ級だな? こちらでも把握している』

「援軍に来てくださるのですか? それでも勝てるかは怪しいところですが」


 ヴァンガード以下戦艦3隻(キング・ジョージ5世とプリンス・オブ・ウェールズ)が加われば、モンタナ級2隻も何とか相手になるかもしれない。とは言え、キング・ジョージ5世級の主砲は10門あるが35.6cm砲と口径が小さく、41cm砲艦のモンタナ級には歯が立たない可能性が高い。


『ああ。勝てたとしてもこちらに多大な損害が出ることは間違いない』

「ではどうせよと?」

『我々だけでは勝てないが、援軍を手配しておいた。大和だ』

「……なるほど。それは心強い援軍です。大英帝国が他国に頼るなど、情けないことではありますが」

『そんなことを言っていられる余裕は、我が軍にはない。昔の常識は捨ててくれ』


 エリザベスが建造されたのは第一次世界大戦より前で、その頃のイギリスは超大国と呼べる地位を築いていた。現在のイギリスでは見る影もないが。


「貴女は私を老人呼ばわりするつもりですか?」


 エリザベスはヴァンガードの物言いが少々頭にきた。


「私より遥かに軍歴が長いことは事実だろう。先人は基本的に敬うが、時流の変化についてこられないような無能者なら切り捨てるまでだ」

「ふふ、ヴァンガードという名を持つだけありますね」


 ヴァンガードは前衛や先鋒などといった意味の名前である。


「こんな話をしてる場合じゃないだろ。ともかく、大和をそこに連れていく。全力でモンタナとオハイオを迎え撃つぞ」

「承知しました。しかし楽しそうですね、ヴァンガード」

「そうか? まあ……ようやく戦えるということに、多少の喜びは感じているのかもしれないな」


 ヴァンガードはこれまでずっと後方で待機させられていた。軍艦として、船魄として、戦えることは嬉しいのである。


 エリザベス艦隊はヴァンガード艦隊と合流してUSA海軍を迎え撃つ。戦力としては戦艦7隻であるが、油断はできない。だがその前に、エリザベスはフッドと話す必要があった。


「私達はこれより、敵艦と交戦します。戦いたくなければ逃げても構いませんが、どうしますか、フッド?」

『……私に敵前逃亡しろと言うのか?』

「そんなことは言っていません。しかし、戦う気がないのなら足手まといですから、どこか故障したということにして離脱してもらいます。どうしますか?」

『敵前逃亡など最悪の不名誉だ! だが……私は……』


 フッドが恐れているのは自分が恥晒しになることである。その点、敵前逃亡などというのは最悪の恥晒しなので、論外だ。だが戦って撃沈されることも恐ろしい。フッドにとっては退いても地獄、進んでも地獄なのである。


「早く決めなさい、フッド」

『クソッ……。戦うしかない』

「ならば、早く準備をしてください」

『分かっている!』


 フッドはここに来てようやく、ボイラーに点火した。自らのスクリューで動き、主砲を旋回させる。


『ここからは私が指揮を執る。全艦、単縦陣』


 ヴァンガードは戦艦達を単縦陣に並ばせた。その先頭にはヴァンガード自らを配置し、大和はちょうど真ん中である。


『あ、あの……ヴァンガードさん、大和が先頭で大丈夫ですよ……?』


 大和はおずおずとヴァンガードに提案する。単縦陣の先頭というのは基本的に最も危険が大きいので、この場で最強の防御力を誇る大和を配置するのが合理的というものだろう。


『貴艦は援軍だ。援軍に危険なことをさせる訳にはいかない』

『そ、そういうものでしょうか……』

『これは我々の面子の問題なんだ。分かってくれ。それに、私を舐めないでもらいたい』

『は、はい……』


 ヴァンガードはイギリス最強の戦艦である。まあ大和には当然劣るが。

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